018 戦力アップ
リリーに敗れたエリックが目を覚まし、冒険者ギルドを去った頃。
冒険者ギルドの一室に女性職員が入っていく。
部屋の表札には【ギルド長室】と書かれていた。
「失礼します。」
「おや、レーナくん。どうしました?」
男がレーナと呼んだのは、レイが紹介制度を依頼した受付の女性だった。
「本日行われた決闘の立ち合いをされたというのは本当ですか?――ギルド長。」
レーナがギルド長と呼ぶ人物は、エリックとリリーの決闘の立ち合いをした男性職員だった。
「ええ、面白い内容でしたよ。」
「……やはり、レイ様が気になりますか?」
「そうですね。辺境伯の秘蔵っ子がどんな人物か見ておきたくて。」
ギルド長が決闘の立ち合いをすることなど通常ではありえない。
しかし、今回の決闘には辺境伯軍の客将であるレイが関わっていることもあり、ギルド長自ら決闘の立ち合いを申し出たのだ。
「よく騒ぎになりませんでしたね?」
レーナはギルド長が決闘の立ち合いなどすれば、もっと注目が集まっていてもおかしくはないと考えた。
「……昔から、武器を持ってないと誰だかわからないとよく言われていましたから……」
ギルド長は目尻にそっと涙を浮かべた。
「……そ、そうでしたか。それで、ギルド長の目から見て彼は如何でしたか?」
レーナは悲しむ様子のギルド長に少し同情しながら、気になっていた疑問を口にした。
「彼が戦ったところを見たわけじゃないのでなんとも言えませんが……。少なくとも侮って良い人物でないことは間違いないありませんね。」
「元A級冒険者のリチャード・ヴェルナーにそこまで言わせますか。」
レーナの言う通り、リチャードはギルド長就任前はA級冒険者として活躍しており、大陸でも名の通った冒険者であった。
「やめてください。現役を引退してもう2年経つんですから……」
「何をおっしゃいますか。あなたがギルド長に就任したおかげで、この街の犯罪率が例年に比べて格段に下がっているんですよ?」
「……不思議なこともあるものですねぇ。」
「皆、【鬼】の不興を買わないよう必死なのです。」
「……良い加減その二つ名どうにかなりませんかねえ。」
現役の冒険者だった頃の活躍ぶりから、リチャードにつけられた二つ名は【鬼】だった。
【鬼】に目をつけられないよう、冒険者たちが大人しくなったのが犯罪率低下の原因となっていたのだ。
「良いではないですが、街の治安に一役買っていると思えば。」
レーナは心にもない慰めの言葉をかけた。
「まあ、別にいいんですけど……。用件はそれだけですか?」
リチャードは諦めたように話を切り上げる。
「いえ、実はそのレイ様の件でご報告がございます。」
「レイくんの?」
「はい。どうやら王国騎士団との合同訓練に、レイ様とその部隊のみ参加させられるようです。」
「レイくんの部隊だけ?……それはきなくさいですね。」
王国騎士団と辺境伯軍の合同訓練自体はなにも不思議なことではないが、客将の部隊だけが呼ばれることなど前代未聞だった。
「如何致しますか?」
「……私の名前を使ってA級冒険者をできるだけ集めてください。……何か嫌な予感がします。」
「……承知いたしました。」
そう言ってレーナはギルド長室を去って行った。
「何もなければ良いのですが……」
誰もいなくなった部屋でリチャードはひとり呟いた。
――――――――――――――――
次の日、レイはハラルトに呼び出されていた。
「王国騎士団と僕たちの部隊とで合同訓練ですか?」
「ああ。最初はそんな前例はないからと断ったんだけどね。そうしたら国王陛下直筆の署名入りで参加要請の書状を突きつけられてしまってね……」
ハラルトは疲れたように事の経緯を話した。
「それは……断るわけにはいきませんね。」
「レイには申し訳ないけど、お願いしても良いかい?」
「僕は問題ありませんが……3つほどお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「いいよ。なんでも聞いてくれ。」
「僕の部隊は、僕を含めてまだ5人しかおりませんが問題ないのでしょうか?」
「それについては私から話はしてあるよ。何を考えているのかわからないけど……問題ないってさ。」
「わかりました。では次に、合同訓練とは何をするのでしょう?」
「実は内容も知らされていないんだ。例年通りなら、王国騎士団と辺境伯軍が互いを敵国と仮定した模擬戦闘なんだけど……今回それはないだろうし。」
「……なるほど。それでは最後に、日程は決まっておりますか?」
「急で申し訳ないんだけど……。明日にでもここを発つことはできるかい?」
「……それは随分急ですね。」
「あちらの言い分では、こちらがごねたせいで、既に合同訓練の日程が遅れているらしくてね……」
「……滅茶苦茶ですね。」
あまりの言い分にレイは呆れた表情を浮かべた。
「まったくだよ。何をそんなに急いでいるんだか……」
「僕たちは明日も人材探しと訓練しか予定はありませんでしたので、何の問題もありません。準備が整い次第、今日にでも出発しようかと思います。」
「そうしてくれると助かるよ。」
ハラルトはほっとした表情をこぼした。
「……そうだ。罪滅ぼしというわけではないんだけど、辺境伯家で保管している武器や防具を好きなだけ貸してあげるから合同訓練に持っていくと良いよ。」
「良いのですか?」
「ああ、数は多くないんだけどね。レイの部隊員なら問題ないだろう。」
「ありがとうございます。ご厚意に甘えさせていただきます。」
「いいよいいよ。迷惑を押し付けてるのはこっちだしね。話は通してあるから、武器庫にはラミアに案内してもらって。」
「承知しました。」
――――――――――――――――
レイが部屋を去ったあと、ハラルトはゲルトと話していた。
「王国は何を考えているんだろうね?」
「申し訳ございません。なかなか情報を掴めず……」
有力な情報を得られていないゲルトは、申し訳なさそうに告げた。
「しょうがないさ。それだけ上層部も本気という事だろう。」
しょうがないと告げるハラルトだったが、内心では焦りに支配されていた。
「これだけ派手に動いているのに、国内に不審な動きは見られない。ただの国王のきまぐれか。それとも……」
ハラルトは今回の合同訓練には何か裏があると確信していたが、その目的がどうしてもわからなかった。
「今の状況では動きようがないか……。ゲルト、人数を増員して情報の収集に専念してくれ。」
「はっ。」
そう言い残してゲルトは景色に溶け込んでいった。
「まったく、なんでこんな時期に……」
ハラルトは本日何度目かわからないため息を吐いた。
――――――――――――――――
「レイ様、こちらでございます。」
レイはラミアの案内で辺境伯家の武器庫にきていた。
「ありがとうございます。ラミアさん。」
「とんでもございません。武器の収納にはこちらの収納袋をお使いください。念のため1級の収納袋をご用意させていただきましたので、生き物以外の物質でしたら馬車2台分の収納が可能でございます。」
ラミアはなんでもないように渡してくるが、1級の収納袋は豪邸が何軒か建つ値段だと、以前ダニエルから聞かされていたレイは驚きを隠せなかった。
「そんなすごいものを貸していただいて良いんですか?」
「それだけレイ様が、ご当主様に信頼されていらっしゃるのではないかと。」
ラミアはレイに微笑みかけた。
「……それじゃあ、信頼に応えないといけませんね。」
レイもつられて笑顔になる。
「ふふっ。それでは私は失礼させていただきますので、ごゆっくりお選びください。」
そう言うと、ラミアは一礼して武器庫から出て行った。
レイはラミアが出ていくのを確認してから、ぐるりと武器庫を見渡して呟いた。
「さすが辺境伯家の武具。逸品揃いだな。」
部屋には様々な武器や防具が飾られていた。
軽く鑑定してみたところ、すばらしい性能の武器や防具ばかりだった。
――――――――――――――――
不壊の戦斧:準1級
攻撃力30%上昇
特級に類する攻撃以外での破壊不可
――――――――――――――――
金剛鎧:2級
防御力15%上昇
土属性魔法への耐性に上昇補正
――――――――――――――――
「おっ!この長剣と双剣はアルとふたごにぴったりだ!」
――――――――――――――――
雷童:準1級
攻撃力10%上昇
雷属性魔法による攻撃に大幅な上昇補正
――――――――――――――――
風双牙:準1級
攻撃力30%上昇
風属性魔法による攻撃に上昇補正
――――――――――――――――
水双牙:準1級
攻撃力30%上昇
水属性魔法による攻撃に上昇補正
――――――――――――――――
「これで一気に戦力UPだな。リリーの武器は……ガントレットがあるから別にいいか。」
その時、どこか別の場所でリリーは寒気に襲われていた。
「とはいえ、なにもなしじゃかわいそうだしなー。」
そう言ってレイは物色を続けた。すると――
「おっ!これいいな!」
――――――――――――――――
聖法衣:準1級
自動修復
一定時間ごとに魔力がわずかに回復する。
――――――――――――――――
レイが手に取ったのは真っ白な法衣だった。
「少しずつだけど魔力が自動で回復するのはありがたい。これをリリーに装備してもらおう。」
法衣の性能は、魔力が生命線となるリリーにぴったりだった。
「僕の装備は……ピンとくるものがないな。まあ、無理に選ぶ必要もないよね。」
レイは自身の武器は選ばず、隊員たちの武器や防具のみ収納袋にしまった。
「よーし。みんなに渡しに行こう!」
そう言ってレイは武器庫を後にするのだった。
――――――――――――――――
「ま、まさか私が準1級の武器を持つ日がくるなんて……」
アルはレイから渡された武器を手に取って感激していた。
「力が」
「みなぎる」
シャシャシャシャシャシャ
ふたごは渡された双剣を無表情で激しく振り回していた。
力が漲っているのは、双剣の性能である攻撃力30%上昇のおかげだろう。
「みんな気に入ってくれてよかったよ。」
「うぅ……。」
喜ぶ3人とは対照的に、リリーは嗚咽を漏らしていた。
「あれ?リリーは気に入らなかった?」
レイはリリーに渡した法衣が気に入らなかったのかと思い声をかけた。
「……そんなことはありません。すごく可愛くて性能も素晴らしいです。」
リリーは鼻水をすすりながら、弱々しい声で法衣を高く評価する。
「じゃあ、どうしたのさ。」
レイの問いかけにリリーは勢いよく顔をあげて言った。
「この法衣が可愛ければ可愛いほどっ!!ガントレットが悪目立ちしちゃうんですよぉっ!!」
リリーの言う通り、可愛らしい法衣に対して、ガントレットの無骨さが際立っていた。
「そうかなぁ。僕はかっこいいと思うけど。」
「リリー」
「かっこいい」
レイの言葉にふたごも同意する。
「………………。」
常識人であるアルは、自分に火の粉がかからないように沈黙を貫くのだった。
「一応借り物だからみんな大事に使ってね。」
レイの言葉にアルが反応する。
「……そういえば何故これほどの武器を貸していただけることになったのですか?」
「そうそう!それを先に話すべきだったよ。実はね――」
レイは王国騎士団との合同訓練について、一通りの事情を説明した。
「わ、私たちだけで王国騎士団と合同訓練……ですか……」
「ご、5人だけで一体何をやるのでしょうか?」
アルやリリーからは緊張感が漂っていた。
「それがハラルト様にも知らされてないらしくてさ。直接聞くしかないみたいなんだ。」
「「………………」」
ふたごは話についていけずぼーっとしていた。
「それで急なんだけど、本日王都に出発することになりました!!」
「「…………えっ??」」
アルとリリーの疑問の声が重なった。
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