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016 決闘

 エリックとリリーは、冒険者ギルドに隣接されている闘技場に来ていた。

 直径が20m程度の石畳の舞台を囲むように階段状の観覧席があり、そこにはなぜか野次馬たちが押しかけていた。


「決闘なんていつぶりだぁっ!!」


「せいぜい楽しませてくれよっ!」


 野次馬たちは好き勝手に声をあげる。


「それでは両者前へ!!」


 決闘に立ち会う冒険者ギルドの男性職員が、エリックとリリーを舞台中央に呼び込む。


「おいおい!新米同士の決闘かよっ!」


「泥仕合だったら承知しねーぞっ!」


 野次馬たちの声には取り合わず、男性職員は進行を続ける。


「それでは冒険者ギルドの決闘制度について確認いたします――」


 決闘制度の概要はこうだ。


 ひとつ、冒険者ランクが3等級以上離れている者同士では決闘できない。

 ひとつ、身体欠損や殺し以外はなんでもあり。

 ひとつ、降参の意思表示をする、または戦闘続行不可能と判断された場合を決着とする。

 ひとつ、本人たちの合意があれば、冒険者ギルドは原則契約の内容には関与しない。

 ひとつ、決闘による負傷について、ギルドは一切関与しない。

 ひとつ、決闘に付随する費用(金貨1枚)は敗者の負担とする。


 リリーの冒険者ランクはFで、エリックのランクはD。

 2等級差だったので決闘制度は問題なく利用することができた。


「――決闘制度の確認は以上です。それでは次に、契約内容について確認いたします。」


 男性職員によって契約の内容が発表される。



「冒険者リリーが勝利した場合、冒険者エリックは金輪際冒険者リリーへの接触を禁ずる。」



「がはははっ!あのガキストーカーでもやってたのかよ!」


 契約内容を聞いた途端、野次馬たちが笑いだす。


(くそがっ!下品な奴らだ!安全な場所で吠えることしかできない無能どもめっ!)


 エリックは野次馬たちの勝手な憶測に、内心苛立っていた。


「冒険者エリックが勝利した場合、冒険者リリーは冒険者エリックが率いるパーティ【怒れる鷲】に、期間の定めなく無給で労力を提供する。」


 契約内容を聞いて、案の定野次馬たちが騒ぎだす。


「無給で労力の提供だとぉっ!?」


「契約内容が全然釣り合ってねえじゃねえかっ!」


「ギルドが適当な仕事してんじゃねえよっ!」


「その決闘俺にやらせろっ!」


 男性職員は尚も無視してふたりに意思確認を行う。


「両者、契約内容に異論はございませんか?」


「ない。」


 エリックは顔に厭らしい笑みを浮かべたまま、即座に返事を返した。

 リリーは一度目を閉じて深呼吸をし、覚悟を決めたように目を開きながら告げた。


「……ありません。」


 ふたりの意思確認を終えた職員は右手を振り上げた。


「それでは決闘を開始いたします。構えっ!!」


 その様子を観覧席から見ていたレイは余裕の表情を浮かべていた。


 レイは決闘に向かう前のリリーに告げたことを思い出す。





 ――――――――――――――――




「守護結界でひたすら防御……ですか?」


「うん。」


「たしかにスキルのレベルは上がっていますけど……エリックの攻撃を防げるでしょうか?それに防御だけでは決闘に勝つことはできませんが……」


「大丈夫、大丈夫。まずは相手の攻撃を徹底的に防御して相手を疲れさせるんだ。」


「……疲れさせた後はどうするんですか?」


「それはね――」




 ――――――――――――――――




(ふんっ!一瞬で終わらせてやる!)


「始めっ!」


「はあぁっ!!」


 開始の合図と同時にエリックはリリーに対して剣を振り下ろした。


(これで終わりだ!)


 エリックは勝利を確信する。

 しかし――



「守護結界っ!!」



ガキンッ



 エリックの剣はリリーの守護結界によって弾かれた。


「なっ!」


 思ってもみなかった反動に、驚きを隠せないエリック。


(リリーの守護結界はゴブリンの打撃を防げる程度の強度だったはず……っっまさか!!)


「なんでもありの勝負とは言え、まさかスキル強化の魔法具を使うとはなぁっ!!さっきの男にでも買わせたのかぁっ!?」


「…………」


 エリックの挑発に乗らずだんまりを決めるリリーだったが、自分でもエリックの攻撃を防げたことに驚いていた。


(魔物の攻撃は確かに防げていたけど……まさかエリックの攻撃にも耐えられるようになってたなんて……)


 レイは鑑定によってエリックの強さを見て、リリーの守護結界を破ることはできないと判断したからこそ、あそこまで楽観的になれたのだとリリーは思い至った。


(リリーはガリア大森林でエリックの5倍以上の攻撃力をもつ魔物と毎日戦っているからね。)


 レイは観覧席で、当然の結果だというように眺めていた。


(あれくらいの攻撃力じゃ、今のリリーの守護結界は破れない。)



 ――――――――――――――――


【名 前】 エリック・ミュラー

【種 族】 ヒューマン

【レベル】 26


【体 力】 1,863 / 1,863

【魔 力】 1,304 / 1,304

【攻撃力】 1,135

【防御力】 1,009

【速 さ】 745

【知 力】 1,069

【スキル】

風刃:Lv.1


 ――――――――――――――――



 舞台上では、エリックがリリーの守護結界を破ろうと何度も剣を打ち付けていた。


「はあっ、はあっ。ふ、ふんっ!多少の攻撃は防げるようになったみたいだが……これならどうかなっ!!風刃っ!」


 エリックは剣ではダメだと考え、魔法での攻撃に切り替えた。



ガキンッ



「くっ!」


 リリーがわずかに苦しさを表情に出す。

 それを見たエリックはニヤリと笑った。


「はっはっはっ!魔法攻撃には弱いみたいだなぁっ!!風刃っ!風刃っ!」


「ぐぅっ!」


 エリックの魔法による猛攻に、リリーはさらに苦しそうな表情になる。


 その後も長く続いたエリックの魔法による攻撃がおさまると、そこには片膝をついて肩で息をしているリリーがいた。


「はあっ、はあっ。」


「この俺の魔法をあれだけ受けて、まだ結界を維持できているなんてすごいじゃないか!」


 本心からの賞賛ではないことは明白であった。

 リリーの疲労困憊な状態から、自身の勝利を確信したのだろう。


「でも残念ながらここまでのようだな。最後はこの剣で、その鬱陶しい結界を砕いてやろうっ!!」


 そう言ってエリックは、リリーとの距離を瞬時に詰めてきた。



 バッ!



 剣が振り下ろされ、結界に届きそうになったその瞬間――



 シュンッ



 ――守護結界が消えた。



「なっ!?」


 守護結界が消えたこともそうだが、エリックが驚いたのは先ほどまで片膝をついていたリリーが目の前から消えていたのだ。


(どこに行ったっ!?)


 剣を振り抜いた体勢のエリックが自身の左側に目線を向けると、そこには拳を腰に構えたリリーがいた。


(いつの間にっ!?)




 ――――――――――――――――




「相手が油断して大振りになった瞬間、守護結界を解いて全開の身体強化で死角に移動するんだ。そして――」


 レイは一度言葉を区切る。


「ガラ空きの顔面に一発ぶち込んでやれ!」


 拳を突き出しながらにこやかに微笑むレイ。


「……はははは。」


リリーは苦笑いするしかできなかった。




 ――――――――――――――――




 急いで体勢を立て直そうとしたエリックだったが……もう遅い。



「やあっ!!」



 リリーの正拳突きがエリックの顔面にジャストミートした。


「ぐほぉっ!!」


 エリックは受け身も取れずに舞台の端まで吹っ飛んで行った。


 ――しばしの静寂が流れる。


 そんな中最初に動き出したのは立会人のギルド職員だった。

 吹っ飛ばされたエリックの元に向かい状態を確認する。


 状態の確認を終えたギルド職員が声を張り上げた。


「冒険者エリックは、失神により戦闘続行不能とみなします!よって勝者は、冒険者リリー!!」


 ギルド職員の決着の合図により静かになっていた観覧席から大歓声が上がる。


「「「「「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!」」」」」


「わっ!」


 リリーはいきなりの歓声に驚きの声を上げる。


「嬢ちゃんやるじゃねえかっ!」


「ゲンコツ一発で沈めるたぁ大したもんだっ!」


「あの結界もすごい硬度だったぞ!」


「俺のパーティに入ってくれー!!」


 実力主義の冒険者らしく、確かな実力を見せたリリーには次々と賛辞が贈られた。



 パッ



 すると突然エリックに淡い緑色の光が吸い込まれてゆく。


「たった今、契約スキルが発動いたしました。」


 契約スキルが発動したことを、ギルド職員がリリーに報告しにきてくれた。


「今後、エリックさんがリリーさんに話しかけたり、半径10m以内に近づいたりすると体中に激痛が走るようになり、違反行為を続けると死に至ります。」


 ギルド職員は再度契約スキルの内容も話してくれる。


「わかりました。……お手間を取らせてしまってすみませんでした。」


 リリーはギルド職員の仕事の邪魔をしてしまったと思い謝罪した。


「いえいえ、決闘は手間の割にギルドへの利益が大きいのでいつでも大歓迎ですよ。それでは私はこれにて。」


 にこっと笑って去って行ったギルド職員に、苦笑いを浮かべていたリリーへ後ろから声がかかる。


「おめでとう、リリー。見事な勝利だったよ。」


「レイ様っ!」


 リリーが振り向くと笑顔のレイがいた。


「自分でもびっくりです!まさか私がエリックに勝てるだなんて!」


「だから言ったろう?大丈夫だって。」


「……でも、まさか私のパンチひとつで失神までしてしまうなんて……」


「確かにリリーは部隊の中でも素の力は弱い方だけど、リリーの膨大な魔力で身体強化してるんだから、それはああなるよ。」


 リリーの魔力はレイを除けば部隊の中でもダントツのトップであり、身体強化を加味すればアルやふたごにもひけをとらない身体能力を得ることができる。

 それを自覚していなかったリリーにとって、エリックがワンパンで気絶したことは予想外なのであった。


「僕が驚いたのはリリーの作戦だよ。魔力には全然余裕があったのに、結界が破られるフリをして油断を誘っていたよね?」


「ああっ!あれはガリア大森林での魔物との戦いを参考にしたんですっ!」


「魔物との戦いを?」


 リリーは興奮して自分の作戦の背景を語り始めた。


「はいっ!!魔力には余裕あるけど少し休憩したいなーって時に、疲れたフリをして戦っていたら魔物が油断して、攻撃が大振りになったことがあったんです!」


「……ふーん」


「それを人間との戦闘でも活かせるんじゃないかと思ってやってみたらそれがもう大……成……功……」


 リリーは気づいてしまった。

 自分が言ってはいけない人の前で、言ってはいけない極秘事項を口にしてしまったことに。


「今の話を要約すると、僕の目を欺いてずる休みしようとしてましたってことで良いのかな?」


 レイはにこっと笑顔でリリーに問いかける。


「え……あ……あ……」


 リリーは恐怖で言葉が出てこなかった。


「いやぁ!僕の怠慢だったよ。鑑定スキルを使わず、見た目の疲れだけで休憩を取るか判断してしまっていたからね!」


「レ、レイ様……?」


「明日からはちゃーーんと、魔力が0になるまで休憩なしで訓練してあげるね?」


「ひっ……!いや……いやああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」


 この後リリーの叫び声が原因で、ちょっとした騒ぎになるのだがそれはまた別の話。

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