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012 奴隷商へ

「それでは失礼いたします。」


 レイ、アル、リリーはハラルトの部屋をでた。


「わ、私なんかが辺境伯様とお話しできるなんて……」


「これでリリーも正式に部隊の一員だね。」


 リリーはハラルトの部屋で契約書にサインをして、部屋を出たところだった。


「はい!精一杯頑張らせていただきます!」


 リリーは胸の前で両手の拳を握り、やる気をみなぎらせていた。


「言ったね?」


「えっ?」


 意気込んでいるリリーはレイの一言で背筋が凍った。


「じゃあ早速訓練しようか。」


「お気の毒に……」


 レイの無慈悲な宣言に、アルはリリーに哀れみの目を向けるが……


「もちろんアルもだよ?」


「……え?」


「当たり前じゃないか。ガリア大森林の周辺の魔物を一人で倒せるようになるまでは毎日訓練だよ。」


「……はい。」


 余談だが、アルはレイの時よりも過酷な状況で訓練に挑んでいる。

 両者の違いは、自身を導いてくれる者に優しさが存在するかどうかであった。

 ダニエルとアントンは、レイの何倍も優しかったのだ。


「リリーは攻撃系のスキルを持っていないから身体強化を覚えるところからだね。訓練場で軽く練習したあとは実践訓練だ。」


「……身体強化?実践訓練?……えっ?、えっ?」


「さあ、行こう!」


 戸惑うリリーを差し置いて、レイは訓練場へと歩いて行った。




 ――――――――――――――――




数時間後、リリーは訓練場に倒れ伏していた。


「最初はアルもこうだったよね。」


「私の場合は攻撃系のスキルがありましたが、彼女にはそれがありません。魔物と対峙した際のプレッシャーは私の比ではないでしょう。」


「今のリリーの守護結界スキルじゃ森の魔物には通用しないしね。」


「迫りくる魔物に対して、結界が一撃で破られると分かっているのに、じっと動かず待っていた時の彼女の表情が忘れられません。」


「でもその体験のおかげで、守護結界は強い相手に使えば使うほどレベルが上がりやすいことがわかったよ。」


「リスクを負う分成長も早いんですね……治癒光も同様ですか?」


「治癒光は相手の強さとか関係ないみたいだから、とにかく数をこなすしかなさそうだね。とはいえ、僕たちがリリーのために傷を負うのは彼女の負担になるだろうから。魔物にその役目を任せたってわけさ。」


「魔物を治癒する者など前代未聞ですよ。」


 レイは適度に傷つけた魔物をリリーに回復させることでスキルレベルをあげようと考えたのだ。


「確かにね……絶対に魔物の攻撃を彼女に当てさせないようにしてたとはいえ、あれはちょっとだけ酷かったかな……」


「ちょっと……?」


「よし、ここで寝かせとくのも邪魔になるから家に運ぼうか。」


 アルの疑問を無視して、レイはリリーを担ごうとする。


「本人の許可もなく、女性を勝手に家に運んでも大丈夫でしょうか?」


 アルが当然の疑問をレイにぶつける。


「もうリリーは僕たちの家族みたいなものだからね。それに――」


「それに?」


「……この先もこういう事たくさんあるだろうから。」


「……」


 レイの言葉に何も言えず、ただただこれから先リリーに襲いかかるであろう苦難に想いを馳せるアルなのであった。




 ――――――――――――――――




 レイたちの家のとある一室。



ぱちっ



 リリーはベッドの上で目を覚ました。


「……ここは、どこ?確か私は……」


 リリーは自分が直前まで何をしていたかを思い出そうとする。


 しかし――


「……レイ様の部隊員になる契約をして、その後は………ダメ。思い出せない。……とにかくレイ様を探さないと。」


 リリーは記憶に欠陥が生じていた。

 何か辛い経験をしたのかもしれない。


 リリーはベッドから起き上がり、レイを探しに部屋の外へと出た。

 部屋を出ると廊下があり、一定間隔で扉が並んでいる。


「どこかの宿屋?」


 扉がたくさんあったのでリリーは自分がいるこの建物が宿屋ではないかとあたりをつける。

 少し進むと下へと降りる階段が見えてきたため、その階段をリリーは降りてみた。


「やあ、起きたみたいだね。」


「リリーさん……目が覚めてよかったです。」


 気さくに呼びかけるレイに対して、アルの呼びかけはどこか切実さを感じさせた。


「……よかった。おふたりと出会ったのも夢だったのかと思い始めていました。」


 リリーはふたりとの出会いが現実のものであったことに心底ほっとした。


「ん?リリーさんそれはどういう……?」


 リリーの発言にアルはひっかりを覚えた。


「はい。レイ様の部隊員になる契約をしたところまでは覚えているのですが、その後の記憶がなくて……」


「そ、それは大変……良いような、悪いような……」


「……?」


 疑問符を浮かべるリリーに対してレイが事情の説明を行う。


「リリーはガリア大森林で訓練していたら気を失ってしまったんだよ。それで僕たちの家に運んで寝かせておいたってわけ。……勝手にごめんね。迷惑だったかな?」


「そんな事が……レイ様、アル様。お手数おかけしてしまい申し訳ございませんでした。」


「全然問題ないよ。僕たちはもう家族みたいなものだからね。遠慮しないで!」


 レイの爽やかで暖かい言葉にリリーは瞳に涙を浮かべながらお礼を言う。


「はい……ありがとうございます。」


 その光景を端から見てアルは冷や汗をながしていた。


「綺麗な物語のようになっているけど、大丈夫だろうか……リリーさんの心のケアはマメにやっておこう。」


 アルは仲間を守り抜くことを静かに、固く、誓うのだった。


「そう言えばここってどこなのでしょうか?宿屋にしては私たち以外に人がいないようですが……」


「ああ、ここは僕たちの部隊の兵舎だよ。」


「ここが、兵舎……ですか?」


「うん。ハラルト様のところの兵舎はもう満員らしくてね。街で借りることにしたんだ。だからリリーももし良ければここに住んで良いよ。費用はかからないから荷物置き場として利用してもらっても構わない。」


「こんなに広い家に……良いんですか?」


「良いよ。まあ、すぐに入居者が増えて手狭になるとは思うけどね。」


「全然大丈夫です!私ここに引っ越します!」


「リリーさん本当に大丈夫ですか?部隊の一員とは言え、僕もレイ様も男です。リリーさんの意思も重要かとは思いますが、ご両親にお話を通してからでも遅くはないかと……」


「……アル様、ありがとうございます。でも大丈夫です。……両親にこんなこと聞いたら『そんなことも自分で決められないなら家に帰って来い!』って言われちゃいますから。」


「た、たくましいご両親なんですね。」


「ええ……。脳が筋肉でできているのではないかと近所でも噂になるほどでしたから……」


「そ、そうなんですね……差し出がましいことを申し上げました。リリーさん、引越しの事で何か困りごとがありましたら気軽にお声がけください。」


「アル様、ありがとうございます。」


「もう仲間になったのですから私のことはアルとお呼びください。」


「……わかりました。ではアル、私のこともリリーと呼んでください。」


「わかりました、リリー。」


「じゃあふたりとも僕のこともレイと呼んで……」


「「それはダメです。」」


「あ、はい。」


 流れで自分も呼び捨てで呼ぶように仕向けたレイだったが、アルとリリーに強く否定され頷く他なかった。


「ま、まあみんな集まったことだし明日からの予定をリリーにも伝えておくね。明日の朝は冒険者ギルドで紹介制度の契約をして、午後からは魔物討伐の訓練をやるよ。」


「レイ様、紹介制度の件でひとつよろしいでしょうか?」


「良いよ。どうしたの?」


「紹介制度は確かに便利ですが、他にも人材を探す手段がございます。」


「へぇ、それはどんな方法なの?」


「奴隷です。」


「奴隷……か。王国は奴隷が認められているんだっけ?」


 リリーの口から出た奴隷という言葉を聞いて、レイは疑問を呈した。

 レイの疑問にアルが答える。


「認められております。王国の奴隷は犯罪奴隷と借金奴隷に大別され、その中でもさらに戦闘奴隷と一般奴隷に分かれています。」


「犯罪奴隷と借金奴隷か……」


「はい。一定以上の犯罪を犯したものは犯罪奴隷。借金の肩代わりに身を売ったものは借金奴隷となります。」


「戦闘奴隷と一般奴隷は?」


「戦闘奴隷は戦闘に参加させることのできる奴隷で、一般奴隷は戦闘に参加させることのできない奴隷です。」


「なるほど、そういう分類か。この街で奴隷の普及率はどれくらいなの?」


「この街はかなり多いですね。冒険者パーティーの補充要員や飲食店の従業員、ハウスメイドに日雇いの護衛など様々な分野で奴隷の方々が活躍しております。」


「そうなんだ……ちなみに奴隷にひどい扱いするとどうなるの?」


「奴隷の扱いは国の法で定められておりますので、法を逸脱した命令を行った場合には最悪奴隷の購入者が死罪となる場合もございます。」


「厳しく管理されてるんだね。でもそれって申告がないとどうしようもないんじゃない?」


「……はい。国民にも、不当な扱いを受けている奴隷を見かけた場合通報する義務がありますが、目につかなければ通報のしようがありませんので。」


 リリーは鎮痛な面持ちで国の闇について言及する。


「その辺の法整備はまだまだ杜撰ってことだね。……わかった。一度奴隷を見に行ってみよう。リリー、この街の奴隷商の案内を頼んでも良いかな?」


「わかりました。」


「ありがとう。今日はもう遅いから明日の朝行こう。」


 こうしてレイたち一行は奴隷商へ行くことになったのだった。




 ――――――――――――――――




次の日の朝、レイは奴隷商の前にいた。


「ここが奴隷商か。案外普通だな。」


「国の管理下で行われている商売ですからね。こういった外観のものがほとんどですよ。」


 レイの呟きにリリーが反応する。


「そういうものか。よし、入ろう。」


 レイが奴隷商の扉を開くと、内装は普通だが綺麗に清掃されており宿屋の待合室のようだった。

 ソファやテーブルも良いものを使っているように見える。


「いらっしゃいま……」


 中からすらっとした高身長の男が挨拶をしてきたが、レイたちの幼さを見て言葉を切る。


「失礼ですが、当館のご利用でお間違いないでしょうか?」


 遠回しに来るところ間違えてるよ?と伝えてきてくれた。

 良い人柄のようだ。


「間違いありません。本日は戦闘奴隷を見繕っていただきたく足を伸ばした次第です。」


 レイのしっかりとした受け答えに男は再度姿勢を整えた。


「これは大変失礼いたしました。お話は別室にてお伺いさせていただきます。こちらへどうぞ。」


 男の素早い切り替えにレイは感心していた。


(冒険者ギルドの受付といい、目の前の男といい、この世界の従業員は対応力が抜群だな。)


「こちらにお座りください。」


 待合室とは別の部屋に案内され、レイはソファに腰掛けた。

 しかし、アルとリリーはソファに座らずレイの後ろに控えるようにして立っていた。


「……ふたりとも何してるの?」


「我々はレイ様の部下ですので。」


「ですので。」


 アルの言葉にリリーが追従する。


「そ、そう。……うん、わかった。」


 レイは苦笑いを浮かべるも、ふたりの意思を尊重することにした。


「本日はこのガリア奴隷館にお越しいただきありがとうございます。当館の館主をしておりますヨーゼフ・ナヴァールと申します。以後お見知りおきを。」


「僕はレイと申します。ヨーゼフさん、早速ですが本題に入ってもよろしいでしょうか?」


「もちろんでございます。レイ様は戦闘奴隷を御所望とのことでしたが条件等はお決まりですか?」


「そうですね……借金奴隷の戦闘奴隷をご紹介いただきたいです。年齢は私たちと同じ程度で、性別や人柄については問いません。要員としては7人必要ですので、可能な限りご紹介いただけると助かります。」


「当館では奴隷のスキルも把握しておりますが、何かスキルの指定はございますか?」


「いえ、スキルに関しては大丈夫です。」


「かしこまりました。少々お待ちください。」


 ヨーゼフが部屋を出て行った後、リリーがレイに言った。


「レイ様、スキルの指定をせずともよかったのですか?大まかな指定でもしておけば必要な人材を絞り込むことはできたかと思いますが……」


 リリーが最もな疑問をレイに投げかける。


「そうか、リリーにはまだ説明してなかったね。アル、あとで説明しておいてもらえる?」


「かしこまりました。リリー、あとで説明しますのでここはレイ様にお任せください。」


「……わかりました。」


 自分の知らない何かがあるのだろうと思い、リリーはすぐに引き下がった。



コンコン



 程なくして部屋の扉がノックされ、ヨーゼフが入ってきた。

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