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013 ふたごの奴隷

 ヨーゼフの後ろには10人の奴隷が並んでいた。

 全員が身綺麗にしており、汚れひとつない白装束を身につけていた。

 想像していたような手枷、足枷もついておらず、扱いはかなり良いように見受けられる。


「大変お待たせいたしました。レイ様の条件に合った奴隷をお連れいたしました。」


 奴隷たちはレイと相対するように横一列に並んだ。

 そこには、見た目はヒューマンだが獣の耳を生やしたものたちもいた。

 レイは内心驚くも不審がられないように努めて冷静を装う。


「ご紹介させていただいてもよろしいでしょうか?」


「いえ、紹介いただく必要はございません。」


 レイは冒険者ギルドの紹介の時と同じく7人の顔をひとりひとりじっと見つめていく。

 ヨーゼフはその様子を静かにじっと眺めていた。


「その子とその子だけ残していただけますか?」


「承知致しました。」



パンパンッ



 ヨーゼフが2回手を叩くと、レイが指名したふたり以外は一礼して部屋から退出した。

 こういう時の作法も学ばされているのだろう。


「それではレイ様。私も部屋の外に待機しておりますので、ご用命の際はこちらの呼び鈴を鳴らしてお知らせください。」


 そう言ってヨーゼフも部屋を出て行った。

 おそらく客の様子を見て対応を分けているのだろう。


 受動的な客に対しては手厚い説明を、能動的な客に対してはできるだけ邪魔をしないように。

 今回はレイが能動的な客であったため、自分がいると邪魔になると考えたのだろう。

 素晴らしい接客だとレイは再度感心した。


「それじゃあ少しお話を聞いても良いかな?」


「「はい。」」


 残ったふたりは全く同じタイミングで返事をする。

 ふたりとも口数が少なく無表情だった。


「まず君たちはふたごで間違いないかな?」


「「……間違いないです。」」


 レイが選んだふたりは男女のふたごだった。

 しかも獣の耳が頭から生えており、よく見ると尻尾も生えていた。

 レイが見たふたりのステータス内容はこうだ。



 ――――――――――――――――


【名 前】 ベル・ツェルネ

【種 族】 獣人

【レベル】 9

【状 態】 隷属(主:ヨーゼフ・ナヴァール)


【体 力】 297 / 297

【魔 力】 92 / 92

【攻撃力】 217

【防御力】 161

【速 さ】 168

【知 力】 97

【固 有】

獣臨

【スキル】

怪力(Lv.1)


 ――――――――――――――――


【名 前】 リル・ツェルネ

【種 族】 獣人

【レベル】 9

【状 態】 隷属(主:ヨーゼフ・ナヴァール)


【体 力】 285 / 285

【魔 力】 97 / 97

【攻撃力】 211

【防御力】 169

【速 さ】 164

【知 力】 101

【固 有】

獣臨

【スキル】

怪力(Lv.1)


 ――――――――――――――――



 ふたごのベルとリルはスキルもステータスもよく似ていた。

 状態が隷属となっており、主がヨーゼフとなっている。

 気になることは多々あったが、注目すべきは固有スキルと適性だった。



 ――――――――――――――――


獣臨


魔力消費なし


発動すると全てのステータスが3倍になる。

持続時間は個人の資質、レベルによって変動する。


使用終了後、使用者は一定時間行動不能となる。

行動不能時間は使用時間によって変動する。


クールタイムは1日。


 ――――――――――――――――


【剣 術】S


 ――――――――――――――――



 固有スキルの獣臨は破格の性能だった。

 窮地に追い込まれた際、非常に有用なスキルといえるだろう。


 剣術Sという適性にはさらに驚かされた。

 さすがというべきか、ふたごは適性までも全く同じだったのだ。


「ふたりは剣を握ったことはある?」



ふるふる



 ふたごは揃って首を振った。

 剣術の適性が高いにも関わらず、剣を握ったことがないらしい。


「じゃあ武器を決めるところからか。……ふたりは戦闘奴隷らしいけど、魔物の討伐経験はあるかな?」


「あります。」


「村の周りに出てくる魔物をくわで倒してました。」


 ふたごが変わりばんこに返事をする。

 奴隷になる前は村にいて、村の周りに出てくる魔物を倒していたようだ。

 確かにふたごのレベルは見た目に比べて高かった。


「ふんふん。訓練にはすぐ馴染めそうだね。……よし。アル、呼び鈴を鳴らしてくれる?」


「かしこまりました。」


 アルはレイの指示を受け呼び鈴を鳴らした。

 間をおかず、ヨーゼフが扉を開けて部屋に入ってきた。


「失礼いたします。お話はお済みでしょうか?」


「はい。聞きたい話は聞けましたので、契約についてお聞かせください。」


「かしこまりました。契約には期間契約と移譲契約がございますが、どちらをご希望でしょうか?」


「期間契約はなんとなくわかりますが、移譲契約というのは……?」


「失礼いたしました。期間契約はお客様が指定された期間、奴隷を借りることのできる契約でございます。対して、移譲契約は奴隷の所有権を購入する契約でございます。」


「所有権の購入ということは、奴隷商と奴隷の間で結ばれていた契約が、購入者と奴隷の契約になるということでしょうか?」


「ご認識の通りでございます。」


「なるほど……ちなみに移譲契約を結んだ後、奴隷の身分から解放しても問題はありませんか?」


 レイはふたごを購入した後に奴隷身分から解放できないか尋ねる。


「借金奴隷に関しては購入後解放してもなんら問題はございませんが、犯罪奴隷の奴隷身分に関しては国が管理しているため、個人の判断では解放できない決まりとなっております。」


「ふたりは借金奴隷で間違い無いですよね?」


「はい、間違いございません。ふたり合わせて借金総額は金貨30枚でございます。借金奴隷の移譲契約ですと、借金総額の50%を仲介料としていただいておりますのであわせて金貨45枚でございます。」


「わかりました。それでは移譲契約でお願いします。」


 正直手持ちのお金はだいぶ少なくなっていたが、それだけの価値がふたごにはあると確信していたためレイは移譲契約を選択した。

 雇うお金に関しては心配しなくて良いとハラルトが言っていたので、なんとかなるだろうという考えもあった。


「承知致しました。契約書とペンをお持ちいたします。」


 ヨーゼフが呼び鈴を鳴らす。

 すると部屋に紙とペンを持った女性が入ってきた。

 テーブルに紙とペンを置くと女性は一礼して部屋を出た。


「こちらが契約書となります。ご一読ください。」


「準備がいいんですね。」


「お客様のご判断を最大限尊重するために迅速な対応を心がけております。」


(意訳すると、途中で契約がご破算にならないように客が考える時間を削ってますって感じかな。)


「素晴らしい心がけですね。」


「ありがとうございます。」


 白々しいやりとりを終え、レイは契約書に目を通した。


(特におかしなところはないか……ん?)


「あの……ここって、奴隷身分から解放せずに僕が死んだ場合は、奴隷の所有権が奴隷商に戻るっていう認識であってますか?」


 レイが契約書のとある文章を指差しながらヨーゼフに尋ねる。


「ご認識の通りでございます。」


「その場合購入したお金はどうなるんですか?」


「大変心苦しいことですが、返金対象がいないため返金のしようがございません。」


「そうですか……」


(これ、奴隷商が購入者殺したらずっと同じ奴隷で稼げちゃうんじゃ……)


 奴隷商をチラッと見るも、ニコッとした笑顔を返される。


(これは注意しないとな……)


「問題ないようでしたら、サインをお願いいたします。」


 レイは少し躊躇するもスラスラとサインを書き、ペンをおいた。


「ありがとうございます。」


 ヨーゼフはサインをじっと見てから目を離した。


「それでは代金が金貨45枚になりますが、お支払いはいかがなさいますか?」


 ヨーゼフの言葉に、レイは金貨の入った袋を懐から出した。


「これでお願いします。」


「……失礼いたします。」


 ヨーゼフは目の前の子どもが大量の金貨を躊躇いなく出したことに、一瞬だけ驚きを見せたがすぐに平静を取り戻し、袋の中から金貨の45枚を取り出す。


「確かに金貨45枚頂戴いたしました。それではこれより奴隷の所有権を変更いたします。」


 そう言ってヨーゼフが呼び鈴を鳴らすと、先ほどの女性が今度はナイフを持って部屋に入ってきた。


「レイ様、大変恐縮なのですが、私が合図をしましたらレイ様の血を指示した場所に落としていただけますでしょうか?」


 女性が差し出してくるナイフをレイは受け取る。


「わかりました。」


「それでは始めます。ふたりとも前へ。」


 そう言ってヨーゼフはベルとリルの胸元に、順番に手をかざした。

 すると何もなかった場所にボワっと紋章が現れた。


「レイ様、これらの紋章の上に血を垂らしてください。」


 レイは持っていたナイフで指を切り、ふたりの紋章に血を一滴ずつ垂らした。

 落ちてきた血に触れた紋章は一瞬だけ赤い光を放った後、スッと溶けるように消えていった。


「これで所有権がレイ様に移りました。手続きは以上となりますが、何かご質問はございますでしょうか?」


「いえ、大丈夫です。ご丁寧にありがとうございました。」


「とんでもございません。またのご利用をお待ちしております。」


 レイたちはふたごを連れて奴隷館を出る。

 ヨーゼフは奴隷館の外まで出てきて、レイたちが見えなくなるまで頭を下げていた。




 ――――――――――――――――




 レイたちは恒例となりつつある場所に来ていた。

 アルやリリーが仲間になる際に座っていたベンチだ。

 今回はそこに双子が座っていた。


「ベルとリルが仲間になったことだし、改めてふたりに自己紹介してもらおうかな。」


「あれ?レイ様、ふたりの名前ご存知だったんですか?」


「それは私からご説明いたします。レイ様よろしいでしょうか?」


「良いよ。人目もないしね。」


 アルはうなづくとリリーにレイの持つスキル、鑑定について話し始めた。


「レイ様はですね――」


 アルから鑑定の話を聞いたリリーは驚愕した。


「……そんな力があるだなんて……ということは私の適性もご存知なんですか?」


「うん。リリーの適性はすごいよー。あとで教えてあげるから今はふたごの自己紹介を聞こうか。」


「あっ……おふたりともごめんなさい。」


 リリーはふたごに向かって頭を下げる。


「「大丈夫。」


 ふたりが怒っていないことが確認できリリーはほっとした。


「じゃあ、ふたりともよろしく。」


 ふたごはこくんとうなづくと、ベルから話し始めた。


「ベル・ツェルネ、6歳です。リルのお兄ちゃんです。」


「リル・ツェルネ、6歳です。リルお兄ちゃんの妹です。」


「よくできたね。えらいえらい。」


 レイはふたりの頭を撫で回し、ふたごは無表情で撫でられ続けていた。


「じゃあこっちも自己紹介しようか。」


 撫でるのを中断してレイは自身の自己紹介をする。


「僕はレイ。気軽にレイって呼んでね。」


「私はアルフレート・ベッカーと申します。アルと呼んでください。」


「私はリリー・フラウエンです。リリーって呼んでください。」


「「レイ……アル……リリー」」


 ふたごは何度も3人の名前を口に出して覚えようとしている。


「「覚えた。」」

 

 相変わらず無表情ながら、どこか満足気にも見えた。


「よし、自己紹介も終わったところでお仕事の話しに移ろうか。」


 全員の注目がレイに集まる。


「ベルとリルには僕たちと一緒に魔物の討伐をしてもらいたいんだ。」


「「わかった。」」


 レイの説明に対してベルとリルが即答する。


「おふたりともレイ様には敬語で……」


「アル、僕は気にしないから大丈夫。」


「……承知しました。」


 レイの一言でアルは不承不承といった様子で引き下がった。


「話を続けるよ。さっき適性の話が出たけど、ふたりは剣の才能があるみたいなんだ。」


「剣の才能……」


「知らなかった。」


「ふたりは剣も握ったことがないようだから、ふたりに合った武器を探しに行こうと思う。」


「それでしたら私が武器屋へご案内いたします。」


「よろしく、アル。」


 一行は武器屋へと歩き出すが、レイは立ち止まり考えていた。


(やっぱり監視されてるな……奴隷商の手先か?)


 奴隷商を出たあたりから感じていた気配だったが、人目の少ない場所に来たことでよりはっきりと認識できた。


(敵意を感じないからやりづらいな。)


「レイ様、どうされました?」


「ううん。今いくよ。」


(まあ、手を出してきたら対処すれば良いか。)


 レイは楽観的に考え、アルたちのもとへ走った。

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