冷たい空気
[間]
どうしてどうしてどうして。
もう何もわからない、どうしたらいいのか誰か教えて、どうして私が。
英語の授業が終わって、里美は即座に教室を飛び出しそのまま女子トイレに駆け込んだ。トイレに入る際、誰かに見られてないかとか、そんなことはもう気にならない。4月から10月になる今までの毎日がこんな日々だったからである。学年が2年と一つ上がってから、毎日休み時間が来るたびにトイレに駆け込む日々。反対にトイレ以外の場所で過ごした記憶がないくらいである。
今の里美には、この学校に居場所が全くと言っていいほどない。トイレに入り、思いっ切りドアを閉め鍵をしっかりとかけたこの空間ですら、里美を安心させてはくれなかった。季節の空気が容赦なく体を冷やし、心を凍らせた。また、全身を襲う震えは寒さからくるわけでなく、一種の恐怖そのものであることを里見は知っている。そのことが、里美の心を一層悲しくさせた。
里美の恐怖の元凶は、クラスの人物にある。2人。この人物が今の里美をどん底に突き落とし、狂わせた。憎いというよりも怖いという感情が勝り、二人の顔を思い浮かべただけで涙が溢れた。
どうして私が。どうして。どうしてどうしてどうして。
ああ、また始まった。
感情の逆流。そうは思っても、抑えなければならないと自覚していても、里美には自分の感情を抑制することができず、膝ががくんと折れたかと思った次の瞬間には前のめりに倒れこんでいた。そしてそのまま和式便器に顔を突っ込み、吐いた。
口から感情の塊が吐き出されるのと共に、目から涙がものすごい勢いで流れた。きっと世界中の誰よりも醜い表情をしているに違いない。便器にたまる感情の塊は、新しい感情が落とされてはぐちゃぐちゃに混ざり合い、おさまる気配すらない。
「やーーー!」
不意にドアを隔てた向こう側で、甲高い悲鳴が聞こえた。タッタッタッタと駆け足が遠くなっていく。里美はとっさに体を起こし無意識に口を押えたが、次の瞬間、おそらく女子トイレ入り口付近と思われる場所から、大きな声が響き渡った。
「里美がまた吐いてるぅー!!」




