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「凱旋式のためにウチの騎士団が王宮騎士団と共に城に入る。その間に評議員の連中を制圧する。以上終わり」
「え?!杜撰?」
思わず言ってしまうと、アレクに睨まれた。
「杜撰言うな。そもそも一番の問題は、祭りの行列に選ばれることだった。評議員の連中はウチに恨まれていることぐらい分かっているからな。わざわざ呼び寄せるようなことはしない。それを押して選ばれるように根回しが大変だったが、そこは達成されている。」
「ブレスウェイド騎士団は大衆に人気があるのですわ。どのみちいつまでも無視はできなかったでしょうが」
スフが、左の耳をぺこんと倒しながら言った。
「王宮騎士団の方はオークリーが時間が許す限り、掌握に動いているはずだ。あとは評議会のジイさん連中だけ――とっても簡単なお仕事だろう?」
「ん?アレク様は?」
「俺は行かない」
「えー・・・」
「行くのは・・・4人だな」
――確かに簡単だ。
あっという間に外の兵士2人を素手で倒し、瞬く間に縛り上げてしまったデンゼルもだが、こちらに向かってきた評議会御付きの護衛らしき人たちの剣を殴り飛ばし、顎に蹴りを打ち込んで気絶させてしまったバリスもとんでもない。これは果たして自分が付いてくる必要全くなかったのでは、という思いのリドリーであった。
「こ、これはどういうつもりだ?!」
「長らくこの国の中枢を担ってきたお前たちが、この状況が分からないの?」
「・・・っなっ何を?!」
「失礼いたします」
その時、扉の外から涼やかな声が聞こえた。
「王宮騎士団、近衛隊含め制圧完了いたしました」
入ってきたのは金糸で飾られた白いブレスウェイド騎士団の正装姿。深い藍色の髪の男性が報告する。
「はっ?」
「――早かったのね、ノア」
「はい。第二王子殿下が既におおよそ終わらせて下さっていたので」
「そう。思ったより優秀なのかしら――ありがとう。戻っていて。殿下に状況を伝えて」
「は」
「だ、第二王子?!今になって、王位を欲しがったのか?!」
「ちなみに第一騎士団はクライドの――第一王子殿下の『お遊び』に付き合って不在。」
アンドレアが歩き出す。
「祭りで人目が多い王都は窮屈なのですって――まあ、いてもいなくても大差なかったろうけれど」
「なにを?!」
評議員のいる円卓を通り過ぎるアンドレア。
「お前たちも、もう十分長生きしたでしょう」
「ま、待て!」
「っ!!それはっ!!」
止めようとする者もいたが、前に出たデンゼルとバリスに気圧されて、二の足を踏んでいる。
部屋の奥、マントルピースの上のカーテンの紐を引いた。
「この薬のおかげで」
棚にずらりと並ぶガラス瓶が、日差しに照らされて、目に痛いほど輝いた。
「――それで?」
「大老!」
評議員の中で一人、未だ椅子に座ったままだった老人が、鷲を思わせる鋭い目でアンドレアを睥睨する。
「貴女はどうしたいのだ?――我々を排除すれば、『勇者の系譜』の役目を終えられると?」
「――いいえ。『大災』に対処するための唯一の手段が、ブレスウェイドの血である以上、それは無理」
「なら―」
「だからと言ってそれが、アンドレアがお前たちを許す理由になると思うの?」
顔を上げ、琥珀の瞳で真っ向から老人を見据える。
「・・・」
「ねえ、元マクレガン公。ブレスウェイドに『勇者』なんて聞こえがいいだけのものを押し付けて死地に送り出し、自分たちはこんな薬で浅ましく生き続けている連中を、どうしてアンドレアが許さなければならないの?」
口調は静かながら、その奥に煮えたぎる激情を感じさせた。
痛いほどの沈黙の中、アンドレアが薬棚を振り返る。
「――ところで、この薬――リドリー、こちらへ」
「!っぁはっ!はい!」
いきなりお嬢様に呼ばれて飛び上がる程驚いたが、小走りで駆けていく。
「お前から見てここにあの『万能薬』はある?」
「ありません」
鼻を利かせるまでもなく、リドリーは答える。
途端に評議員たちが、色めき立った。
「馬鹿を言うな!?」
「な!なんで?!」
「大事に大事に出し惜しみながら使っていたのでしょうね――とっくに、すり替えられていることに気づかないなんて」
「な、なんだと?!」
アンドレアがそんな老人達を見回し、ため息をついた。
「可哀想だけれど――もう、万能薬は手に入らないわね」
「そ、そんなっ!」
「まさか!地下室の分まで!」
「黙らんか!!」
一喝する大老に、アンドレアは笑う。
「――そう、残りは地下なの。それさえ分かっていれば、探すのはさして難しくないわ」
「あ・・・」
崩れ落ちるように座り込む者、頭を抱える者、そしてその場の支配者たる薔薇の令嬢は告げる。
「さて――お前たちを、どうしよう?」
「っまっ!待て!」
「正直――この100年ブレスウェイドが飲んできた苦汁を思えば、ここで全員、アンドレアが斬り捨ててもかまわないと思うのだけれど」
「っひっ」
「どう思う?――殿下」
「――おい、殺すなと言っただろう」
場を終わらせたのは扉から入って来た人物だった。
「オ、オークリー!っ殿下!」
「全員捕らえろ。今後の処遇は追って決める」
「は」
従者とデンゼルが、評議員一人一人に縄をかけていく。
「・・・ブレスウェイドの娘にそそのかされたか。お前が今更玉座を惜しがるとは思わなかった」
大老が呻くように呟いた。
「アンタは肝心なところで人を見ていないんだよ。俺は王位なんか、別に惜しくもなんともないね。ただこの性悪に条件を出しただけだ。『望みが叶うなら王になってやってもいい』ってな」
「望みだと?」
「グラディスと結婚させろと」
大老の目が見開かれたまま、固まった。怒りのためか、ぶるぶると震えている。
「なんだと?!」
オークリーは、そんな大老に臆することなく近づいて正面から見下ろす。
「義兄と、クライドと一緒になって誰が幸せになれる?王妃になれればそれでいいのか?――だからアンタは人を見ていないと言うんだ。普通に曾孫の幸せを想うんならまずアイツは選ばないだろう」
「お前がっ・・・」
「ちなみにこれはグラディスの言葉だ。いい加減、アンタから国という聞き分けの良いお人形を取り上げてくれってな」
「・・・はっ・・・」
疲れたように、椅子にもたれかかる老人は、それっきり何も抵抗することなく拘束されて行った。
「誰が性悪?」
「お前以外に誰がいると?」
「よく言う――陛下の方は?」
「しばらくごちゃごちゃごねてたがな。まあ、最終的には納得した。あの人も疲れてたんだろうよ」
「――あぁそう。・・・アンドレアはウチの騎士団のところに行くわ」
「じゃぁ――」」
細身ながら力強そうな侍従がテキパキと仕事をする。しかし全員高齢な評議員たちは抵抗する気力もなさそうだ。リドリーが眺めていると、一人がふらふらと倒れ込んだ。その先、円卓の下に落ちている、剣を掴む。
「・・・・・・薬だ。薬がないと・・・」
走り出した先には、オークリー。
「殿下っ!!」
侍従が駆けつけるが、少し遠い。
バリスとデンゼルが一瞬、アンドレアの位置に気を取られた。
リドリーが間に入り、剣を持った腕を捻る。
「離せっ!離せえ!!」
直後バリスが即座に足を掛けて転がし、侍従が拘束した。
「申し訳ありません殿下!」
「いや、俺は大丈夫だが。――悪かった、君大丈夫か」
「あ、はい・・・」
直後じんわりと腹部に広がる濡れた感触に、舌打ちする。
あぁ、また腹か、と。
「リドリー!」
最後に感じたのは激痛と寒さだった。




