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16.問題は速やかに

 レンザンはリディアの丸太小屋に一泊したが、翌日からは自分で住まいを作り始めた。診療所を兼ねるその家は、オルトゥスの中心地が良いということで、丸太小屋のすぐ近くに建てられた。


「……この場所は、将来どうなるか分かりませんからね。引っ越してもらうかもしれませんよ?」

「ははは、あくまでも仮住まいだからな。そこまで力は入れないよ」


 ドワーフから大小の木材を受け取り、それを器用に組み立てていく。徐々に小屋のようなシルエットが見えてくるが、壁はかなり薄く感じられた。


「……こんなに薄くて、寒くありません?」

「我は火蜥蜴族だからな。これくらい、何てことは無いのう」

「いやぁ……。診療所も兼ねているんですよね?」


 リディアの言葉に、レンザンの手が止まった。そこについては意識をしていなかったのだ。


「――まぁ、カーテンのようなものを付ければ……ある程度は、防寒になると思いますが」

「なるほど、それが良い。布はどこかに余っていないかな?」


 布……といえばベロニカを想像するが、彼女が作る布は立派なものだ。そのため、防寒用に使うのはもったいない気がする。


「あとで倉庫を探してみますね。もしなければ、また相談させてください」

「ああ、ありがとう。我だけであれば不要だから、あまり急がなくてもいいぞ」

「はい、わかりました」


 そのままレンザンの作業を眺めていると、遠くの方に人影が見えた。目を凝らしてみれば、ベルデに派遣していたシオンとデュラン、ドワーフたちの一行だった。しばらく待っていると、台車を一か所に置いて、全員がリディアの方に向かってくる。


「シオン、お帰りなさい!」

「ただいま帰りました、リディア様」

「みなさんも、お帰りなさい。大変だったでしょう?」


 リディアとドワーフが挨拶を交わしたあと、デュランが疲れた顔で続ける。


「はぁ、往復するにはなかなか遠いな――……って、リディア、向こうの人は?」


 デュランはレンザンの方を見つめ、拳に少し力を込める。レンザンもそれに気付き、作業を止めてデュランに近付いていく。


「お初にお目に掛かる。我はレンザン、ただの陶芸家だ。しばらくこの地で世話になるよ」

「……と、いうことよ。陶芸家の方だけど、診療所の先生もやってもらうことになって」

「そうなんですね。レンザン先生、よろしくお願いします」


 シオンは率先して、レンザンに挨拶をした。ドワーフたちもそれに続き、最後にデュランも挨拶をした。


「ただの陶芸家なんて――とんでもない。この気当たり、只者ではないでしょう……?」

「はっはっはっ、そんなことはない。……それに、我には分かっておるよ。お主なのだろう?」

「な、何のことだ……!?」


 レンザンの射貫く眼差しに、デュランは怯んでしまう。


「……ほれ。あの畑はお主が育てておるのだろう? お主からは、土の臭いがするからな」


 そう言うと、レンザンは大きく笑って作業に戻った。


「はぁ……、大した先生ですね。小屋を建てているようですし、ワシも手伝ってきますよ」

「ジジさん、ベルデから戻ってきたばかりでしょう? 休まなくて平気ですか?」

「なぁに、ドワーフは頑丈なのが取柄でしてね!」


 ジジは力こぶを見せてから、レンザンの元に走っていった。それを見ながら、デュランが零す。


「うーん……。凄い人が来たもんだな……。俺はあの爺さん、苦手かもしれん……」

「あら、意外ね。あなたは誰とでも上手くやっていけると思っていたわ」

「相手が強すぎると、落ち着かねぇんだよ。俺ももう少し、訓練をしないとな」

「それなら、シオンも付き合わせてね?」

「そうすると、俺が教える側になるからなぁ……。それに、シオンはまだ力が弱いし……」

「わかったわ。力を強くしておくわね」

「おいおい……」


 以前、シオンの防御力が急に増えたことを思い出して、デュランは力が抜けた。リディアはきっと、また同じようなことをするのだろう。


「――さて、俺はドワーフの家に戻るよ。ジジは……しばらく掛かりそうだな。シオンはどうする?」

「僕はここに残って、リディア様に報告を行います。デュランさん、鉱石の運搬をお願いします」

「あいよぉ。それじゃ、またなー」


 デュランはジジ以外のドワーフを連れて、ドワーフの家に戻っていった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 リディアとシオンは居間に行き、そこでベルデの報告が行われた。鉱石はそれなりに採れそうなので、採掘をする分には問題ない。しかし距離が遠いため、運搬できる量は少なくなる……という懸念が上がってきた。


「――想像通りだけど、そうすると……やっぱり家畜が欲しいわね。馬でも牛でも」

「僕は見たことがないですが、台車を引くことのできる動物、ですよね? キングではダメですか?」


 居間にいるキングを見て、それもありか――と一瞬思ったが、可愛いキングにそんなことをさせるのも忍びない。そんな空気を察したのか、キングはぼよんぼよんと波打っている。


「あるいは、空間転移の魔法があれば良いんだけど。残念ながら、私は使えないのよね」

「リディア様でも、できないことがあるんですね」

「それはそうよ。だからみんな、寄り添って生きていくの」

「なるほど……」


 リディアは人間の国の地図を眺めた。ベルデの遥か北には、魔法に詳しい街がある。しかしオルトゥスからは遠く、探し物も見つかることは無いだろう。


「いわゆる上位種、みたいな……格の高い種族しか使えないのよね」

「リディア様が、一番上ではないんですか?」


 シオンの言葉に、リディアは楽しそうに笑う。


「もちろんよ。上には上がいるの。……だからといって、言われるままにはされないけど」

「そうですよね。やっぱりリディア様が一番です」

「……そうなのかしら。まぁ、シオンにも手伝ってもらうからね?」

「はい、何でもご命令ください!」


 リディアはアルマにお茶を淹れさせて、今後のことを考えていた。ひとまず自分で、できることからやらなければ。やらなければいけないことは、たくさんある。だからこそ、ひとつひとつを丁寧に、確実に……。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 シオンの報告が終わると、リディアは軽食を持ってレンザンの元に向かった。あらかたの作業を終えたレンザンとジジが、何か熱心に語り合っている。


「お疲れ様です。作業は順調ですか?」

「おお、リディア姐さん。一旦は終わりかな、ってところですね」

「ジジ君のおかげでね、ずいぶんと捗ったよ」

「そうなんですね。ところで、ずいぶんと楽しそうに話をしていましたが……」


 何か共通の話題でもあったのかな、とリディアは思った。分野は違えど、お互い職人同士なのだから――


「ええ、レンザンの旦那は剣に詳しいんです。それでほら、ワシは武器の鍛冶が得意でしょう? だから、そこで話が弾んでしまって」

「ああ……、そっちの接点でしたか」

「ドワーフの作る剣は、鋳型で作るものだと思っていたが……。ジジ君は玉鋼からも打つようでね」

「旦那も多少、腕に覚えがあるそうなんですよ。それで、少しばかり技術的な話も……」

「ふふっ、それは熱くもなりますね。私はお邪魔でしょうから、軽食だけ置いていきますね」


 軽食を受け取ると、ふたりは再び語り始めた。

 新しい出会いが始まるとき、想像できない繋がりも生まれることがある。出会いというのは何と面白いことか――リディアはついつい、そんなことを考えてしまった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「――はわわっ。主様ぁーっ!」


 ある日、リディアが居間にいるとフェルネが飛び込んできた。それを見て、シオンとアルマは驚いた。キングはいつも通り、豊かなビートを刻んでいた。


「フェルネ、どうしたの? ……っていうか、何も言わずに入ってくるのはベロニカだけにしてくれないかしら……」


 あくまでも、リディアの丸太小屋はプライベートな空間である。たとえ親密であっても、緊急であっても、もう少し一線を踏まえて欲しい……というのが正直なところだった。


「こここ、今後は気を付けます……! そそそ、それで、森でいざこざがありまして……!?」

「森で? ……そういうのはヘルミナの仕事でしょう? あの子は何をしているの?」

「ととと、とりあえず来て頂けませんか……!?」

「はぁ……」


 フェルネは混乱すると、しっかりと話すことができない。他に聞く相手がいないのであれば、今は付いていくしかないだろう。



 フェルネの案内で森に行くと、どこからか言い争っているような声が聞こえてきた。何を話しているのかは分からないが、急いで近付いていくと――樹々の間から、突然矢が飛んできた。


「ちょっと……、危ないわね!?」


 またヘルミナがおかしなことを――そう思いながら、人の気配がする方に飛び込んでいく。するとそこには……10人ほどの集団が現れた。そしてその中には、見覚えのある人物がひとりだけ――


「……ヘルミナ?」

「り、リディアさん!? これは、そのぅ……」


 ヘルミナの近くには、他のエルフが5人いる。彼女は明らかにその輪の中心におり、しかもリディアに弓を射るというのであれば――


「――そう。私を敵にまわすのね? 信じていたのに、残念だわ」

「ち、違いますよぉ……!?」


 しかし、後ろのエルフたちは戦闘態勢に入った。6対1、傍から見ればエルフたちに有利な状態だ。……そんな中、リディアの後ろからは野太い声が聞こえてくる。


「くそ、あのお嬢ちゃんを援護するぞ!」

「そうだ、エルフなんぞにやられるものか!!」

「父祖の代からの恨みィ!!」

「……え?」


 思わずリディアが振り向くと、そこにはドワーフが5人、戦闘態勢に入っている。……前にはエルフが5人、後ろにはドワーフが5人。そしてひとり、涙目になるヘルミナ。


「……はぁ。また、何かやらかしたのかしら……」


 リディアはひとまず、彼らの足元に黒い稲妻を落とした。ややこしくなったときは、全員を大人しくするに限る。……エルフとドワーフたちは、突然落ちた稲妻に、腰を抜かして倒れてしまった。

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