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15.鋭い眼光

 オルトゥスは天使種族のシャロンを加え、本格的に街として開発を進めることになった。シャロンには記憶を頼りに他の街の上空図も作成してもらい、ドワーフたちと話を詰めていく。


 ジジはベルデに、ゼゼは昔住んでいた集落に行っているため、顔ぶれは少し欠けていたが――……そんな中、まずはゼゼが戻ってきた。


「おや、リディア姐さん。ただいま戻りました。……そちらの娘さんは、新顔ですか?」

「ゼゼさん、お帰りなさい。この子は先日来てくれた、シャロンです。上空図を描いてもらったので、今後の開発計画を考えていたんです」

「ほうほう。オルトゥスの上空図と……あとは、他の街もあるんですね。なるほど、こいつは大したもんだ」

「はじめまして、ゼゼさん。今後、お世話になりますわ」

「ああ。何か必要な道具があれば、ワシに言ってくれな」


 そう言うゼゼの横には、台車のようなものが置いてあった。


「その台車、持っていったんですか? 特に何も乗っていませんけど……」

「がっはっはっ。これはワシの新作の……試作品なんだが、乗り物なんですよ」

「へぇ……? 三輪ですし、バランスは良さそうですね?」

「尻が痛くなるので、リディア姐さんには勧められませんがね。あとは、動力でまだまだ問題が……」

「でも、実用化すればとても便利そうですね。さすがゼゼさん!」


 ゼゼはリディアの言葉に、わかりやすく照れていた。しかしそこに、ズズが声を掛けてくる。


「それで、故郷の方はどうだった? 誰か来てくれるのか?」

「ああ。ズズ兄さんの友達の甥の義兄と、その知り合いが来てくれるとさ」

「ほう……! ……どんなやつだっけ?」


 友達の甥の義兄――となれば、これはもう赤の他人だ。ドワーフの集落はそれなりの規模があるそうだから、その関係性だけで特定するのは難しいだろう。


「あと、ゾゾのやつはまだ戻って来てないらしいな。だから、戻ったらここへ来るように、伝言を残してきたんだ」

「あいつは誰にも連絡を寄越さないからな……。まぁ、期待せずに待っているか」

「……というわけで、リディア姐さん。そのうちまた5人ほどくるから、家を頼みますね!」

「……それを頼むのって、むしろ私の方だと思うんですけど……」


 リディアの返事に、ゼゼは一本取られたような顔を見せた。実際、家を建てているのはドワーフたちなのだ。近況をそれぞれ伝えたあと、話は開発計画に戻っていった。


 リディアが住んでいる丸太小屋の一帯は、ひとまずは何もせずに空けておく。そこを中心に大きな道を作り、北西、北東、南東、南西の4つの区画に分けていく。さらにそれぞれ、内周と外周で区画を区切っていく。全ての区画を同時に開発するのは難しいため、まずは南東の区画から開発を行う――と、そんな形で話が詰められていった。


「最初に建てた、ドワーフのみなさんの家は……南東の外周に当たります。ですので、ここを拡張していく形ですね」

「がっはっはっ。この辺りはワシらの庭みたいなものですからね。今までやっていた作業の延長だから、気楽なものですよ」

「ただ、ワシが呼んだ5人も増えますからね。家を早く建てないと」

「あとは先日、リディア姐さんから集合住宅の話をもらっていましたね。ドワーフの人数が増えたら――と考えていましたが、結局は今のうちから着手しないと……?」


 ……何かが解決する前に、新しい問題が出てきてしまう。オルトゥスの開発状況は、常に人手が足りない状態だ。


「そうなんですよね……。そのうちベルデから採掘班が戻ってきますが……今は、集合住宅の方を優先して取り掛かってもらえませんか?」

「ぬぅ……。リディア姐さんの頼みですが、ワシらの鍛冶パッションは止められないですなぁ……ッ!!」

「そうですか……。希少なお酒をご用意しようと思ったのですが、それでは無理そうですね……」

「……酒?」

「はい。いつもお渡ししているものより、2階級ほど上のものが……。ああ、でもこれはあくまでも報酬ですから――」

「やります」


 ズズの言葉に、ドワーフの一同も頷いた。実は全員、鍛冶自体は裏でやっているのだ。新しい鉱石を使って別のものを――という機会は後ろ倒しになってしまうが、いつも飲んでいる以上の酒……という報酬は魅力的だった。


「いいんですか?」

「ただし、ワシらも人数がカツカツですからね。増員を求めますよ!!」

「増員といっても、建築作業をできそうな人なんて――……デュランでもいいですか? 今、シオンと外に出ていますけど」

「他は女子ばかりですからね……。仕方ありますまい!」

「あと、掃除や片付けはキングもできるので、一緒に派遣しますね」

「ああ、アイツは頼りになりそうですね。是非、お願いします!」


 その後、諸々の話が付いたため、リディアとシャロンは丸太小屋に戻った。目先でやることは今までの延長のような形だが――未来のことを話せた分、リディアの心配は少しだけ軽くなっていた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 夕方、リディアは丸太小屋の外で景色を眺めていた。開拓を始めたばかりとはいえ、それなりに人数も増えて、問題もいろいろと積み重なってきた。心地よくもある反面、このままで良いのかという考えも頭をもたげる。


 丸太小屋の中では、アルマとキング、シャロンが夕食の準備をしている。ヘルミナが戻ってきたら、一緒に食事をとって――


「……ふむ。お嬢さん、夕涼みかな?」


 不意に聞こえた男性の声。急いで振り返ると、そこにはスラリとした老人が立っていた。灰を思わせる色の髪に、鋭い眼光。あまり見かけない着物をまとい、そこから覗かせる肌には鱗のようなものが見える。そして何より――


 ……気配が、まるでしなかった。


「はじめまして。私はこの土地の主、リディアと申します。あなたは?」

「我は火蜥蜴族のレンザンと申す者。……そうか、お嬢さんがここの主か」


 よくよく見れば、重そうな杖を1本、突いている。手元の方に微かな切れ込みが見える――おそらくは仕込み刀の一種だろう。


「……オルトゥス、と名付けたんです。残念ながら、宿泊施設のようなものは無いのですが」

「はははっ。こう見えて、我はいろいろ旅をしておるのでな。野営は慣れたものよ」

「そうなんですね。ちなみに、どちらからいらっしゃったんです?」

「生憎と、東の方からだよ」


 生憎と――……という意味は分からなかったが、人間の国から来たわけでは無いようだ。そうであるなら、シオンやデュラン、ドワーフたちとはすれ違いもしなかっただろう。……それを考えると、リディアは一旦、安心した。


「――さて、お嬢さん。お主に聞きたいことがある」


 レンザンは真っすぐな姿勢のまま、リディアに言葉を投げた。


「何でしょう……?」

「この辺りで、良い土はないかな?」

「……は?」


 突然の言葉に、リディアの言葉は詰まった。『土』……と言われても、それが何を指すのか分からない。


「えぇっと……。畑でもしたいんですか?」

「おうおう、確かにここらの畑は見事なものだ。素人くさいところはあるが、目を掛けているのは分かるでな」


 それは日頃、スケルトンたちと農作業に明け暮れるデュランの成果だった。彼は基本的に、全てのことにおいて真面目なのだ。


「……畑の話ではないようですね? それなら一体?」

「我は陶器を焼くのだよ。良い土を求めてな、ずっと旅をしておるのだ」

「あぁ……、陶芸家の方でしたか」

「はっはっはっ。落ち着くといい、お嬢さん。我の気に当てられたのだろう? 残念ながら、既に剣聖は引退しておるよ」


 そう言うと、レンザンは自身の右腕を見せた。そこには大きな古傷が、時間を感じさせるように残されている。


「あはは……。レンザンさんも、お人が悪い。あんな登場をされたら、誰でも警戒しますよ?」

「なぁに、いつもならあんな真似はせんよ。ただ、この場所はずっと結界が張られていただろう? それで、我も念を入れて……な」

「ということは、人間の国に向かうおつもりですか?」

「いや……。ここの土地に力を感じるのだ。しばらくここで、陶器を作ってみようと思うんだよ。だから、少し世話になってもいいかな?」


 リディアにとって、思い掛けない提案だった。そういえば、陶器の類はまるで頭になかった。木製の食器は作れるとはいえ、陶器の生産ができれば便利だし――


「……ここでは、みんなで自給自足の生活をしているんです。レンザンさんにも働いてもらうことになりますが、それでも良いですか?」

「ああ、構わないよ。ただ、陶器を焼く窯は、作るのを手伝ってくれないかな?」

「承知しました。人手がカツカツなんですが、何とかしましょう……」

「大変なときに、すまないな。代わりに、我でできることがあれば、他にも手伝おう」


 レンザンの言葉に、リディアは少しだけ考えたが――そういえば、ひとつ空いている仕事を思い出した。


「それでしたら、診療所の先生をやってもらえますか? 旅をしてきたなら、怪我の治療にも詳しいでしょうし」

「はっはっはっ。これは突然の話だ。……まぁ良かろう。年の功も、しっかり重ねてきたからな」


 突然の来訪ではあったが、リディアは問題をひとつ解決することができた。ただ、それは良かったのだが――……レンザンは、圧が強い。他の住人と馴染むことはできるのだろうか。リディアは少しだけ、そんなことが心配になってしまった。

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