第二十三話「混沌の使徒 リベンジ」
◆side~雄二~◆
もうこれで何度目かわからない。
俺が直接把握しているだけならまだ三度目だけど、きっとこれはそういう話じゃないんだ。
「京助……」
遠方で轟き始めた地響きにフードの下で目を細めながら、先へ行ってしまった友達の名を呼ぶ。
まさか彼がずっと俺が隣に立ちたいと思い続けた『魔人』だったなんて、一体これはなんの運命の悪戯なのかな。
炎華と共に強くなろうと誓った矢先、早々に俺たちでは敵わない怪物が敵として立ちはだかった。
なんで真衣ちゃんを狙うかもわからない、けど一つ言えるのは俺たちではあの白炎の女には勝てないだろうってことだけだ。
でもこういうときはいつも、京助たち執行者が動いてくれる、今回のように……。
「雄二……いえ『千鎖』。今は目の前の敵にだけ集中しなさい! 彼が彼の戦いを先でするというのなら、私たちの相手はあのデカブツよ!」
「……あぁ、その通りだ!」
炎華の言葉に意識を戻す。
突然の事態ではあったけど、こっちはあの位階指定Aの雷使いやド派手な攻撃をぶちかました姫さんもいるんだ。
あの大男が強いのは炎華や雷使いのお兄さんとの試合で知っているが、いくら強くてもこの面子で負けるほど俺たちだって弱くない!
既に周囲では敵側の魔術師と会場の魔術師が戦闘を始めてる、幸い敵の数はそう多くないから鎮圧もすぐ完了するはずだ。
集められた来場客も純白の魔術師三人組が避難誘導してくれているのが見える。
ならば、俺たちは俺たちの戦いをしよう。
そう思って未だただ佇む赤髪褐色肌の大男……『灼熱の戦士』と呼ばれ始めたそいつに眼を向け──
「いつまでそこで遊んでんだ? アカ、アオ」
──俺の操作する鎖が急激に軽くなる感覚を覚えた。
「──っ!!」
冒険者として培った咄嗟の判断で真衣ちゃんを手繰り寄せる。
と同時、拘束していたはずのロリショタたちが自由の身でこちらに突撃してきていた。
距離が近い、炎華の炎魔術じゃ攻撃はできない、鎖魔術で再度拘束するしかないか……と動くよりも早く、一筋の雷光が俺とロリショタの間を迸る。
寸前で進路を変え回避したロリショタは着地と同時に距離を取った。
今のは、雷使いのお兄さんか……正直助かった。
「ん。また失敗」
「ん。全然うまくいかないね」
「「ん。やっぱり真衣ちゃんが欲しい」」
デカブツの横にスルスルと移動したロリショタはそう言って真衣ちゃんに視線をやる。
なにが欲しいだ、人を、それもこんな幼女を物扱いして自分たちの欲望を叶えようとでもいうのか?
あの子たちだってまだあんな幼いのに、いったいどんな事情があるかは知らない、けど。
「真衣ちゃんは渡さない……! 友達に任されたんだ、この戦いは俺たちが勝つ!」
相手が三人に増えようがまだこちらのほうが数は多い。
それに力量の面だってきっと。
ただ気になるのはあのロリショタがどうやって俺の鎖から抜け出したかだ。
なんらかの魔術なのは間違いないが、わからないのは面倒だな……。
「フッ。お子様は鎖で束縛されるのは余程嫌と見える。ならばこのボクの輝きでキミたちの明日を照らしてあげよう!」
姫さんの挑発。
いや誰だって鎖で束縛されるのは嫌じゃないかと思うんだが、そんな突っ込みをする余裕もなく、姫さんはその輝かしい聖剣にエフェクトを纏う。
と同時、雷使いのお兄さんが放電するように纏うその雷を退路を塞ぐように展開した。
逃げ場のない三人に姫さんの聖剣が振り下ろされる──
「待った」
──のを、寸前で俺は止めた。
「おいなにをする雄二殿!」
「ごめん姫さん。でもちょっと俺に考えがあって」
天高く跳びあがったのに鎖で宙ぶらりんになった姫さんに申し訳なく思いつつ、俺は視線を『灼熱の戦士』に向けた。
「なぁ、『灼熱の戦士』。あんたなんでさっきから、ただ見てるだけなんだ?」
「……さて、なんでだろうな?」
俺の問いに、『灼熱の戦士』は小さく鼻を鳴らす。
でもそうか、これでわかった。
俺が軽い舐めた態度で質問しても、あの大男は動かない。
──いや、動けないんだ。
「……そういうことか」
「あら、ただ舐めプされてただけじゃなかったってことね。安心したわ」
「んゅ?」
試合で実際に戦った二人も気付いたようだ。
姫さんだけは空中で不思議そうな顔してるけど、どの道すぐにわかる。
だから今は。
「炎華、姫さん、雷使いのお兄さん。三人でロリショタを拘束してくれ。俺はあの『灼熱の戦士』をとめる」
「なに? 雄二殿一人でできるのかい?」
「あぁ、今のあの大男を止めるなら、むしろ俺以上に適任はいないさ。だってそうだろ『灼熱の戦士』? あんた、攻撃を貰ってからじゃないと動けないタイプなんだろ」
そう、試合のときからそうだったんだ。
あれは舐めプをしてるんじゃなく、攻撃を喰らうことで発動する魔術だったんだと思う。
だから相手の最大火力を待って、毎回それを受けてから反撃に動いた。
今回こんな事件を起こしてるのに唯一待ちの姿勢の大男に疑問を抱いたんだ。
けどこれはあの試合がなければ気付けなかったこと……そう思うとやっぱり彼の慢心だね。
俺たちの動きを見て『灼熱の戦士』は頭を掻きながら盛大に溜息を吐いた。
「はぁぁぁ……やっぱ楽しそうだからって手の内を見せるもんじゃなかったなぁ。また後で婆さんにどやされるぜ。……けどなぁ坊主」
「……前へ出るか」
つまらなそうにしながらも、『灼熱の戦士』は雑に歩いて距離を詰めてくる。
この展開だってそりゃ予想はしていたさ。
魔術師は魔法使いじゃない。
覚えられる魔術は幅広く、だからこそその一点特化のことしかできない……なんて例は珍しいんだ。
『灼熱の戦士』の見た目に変化はない。
だがあの動き、俺は知っているぞ。
忘れもしない、それは初めて執行者と……京助と共闘したあの討伐作戦。
脱力したようなその姿勢から地面を抉るように出力を上げる──俺はそれを知ってるんだよッ!!
「──真・霊装」
炎を纏わず、純粋に物理で殴りにきた『灼熱の戦士』を鎖で縛る。
あのときはこの動きに反応できずに師匠が殴り飛ばされた……けど、今は違う!
俺はもう二度と、あんなことにならないように。
「強くなるって誓ったからな」
「……かっこいいねぇ坊主。オレと同タイプの魔術師と戦闘した経験がありやがったな?」
そうだ、今の俺はあの『悪鬼』討伐作戦の頃とは違う。
あのときは結局最後の最後、命を奪うことを『魔人』に……京助に押し付けてしまった。
ずっと気掛かりだった。
それが仕事だとか、役目だとか、そんな言葉で晴れない心のモヤ。
だから俺は彼の隣に立ちたい。
だから俺は彼と共に戦えるくらい強くなりたい!
「リベンジマッチだ」
奇しくも『悪鬼』と同じく身体強化魔術を行使する『灼熱の戦士』。
それを今は『魔人』に、京助に、この戦いを任されて俺はここにいる。
出力をあげて鎖を突破しようとする『灼熱の戦士』と、俺はあの日の後悔を繰り返して堪るかと激突した。




