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第二十二話「混沌の使徒 魔術師たち」

「……取引といきましょうか、執行者」


 魔術師の祭典で騒動を起こした敵の首魁……と思われる老婆は、空を見上げながらそう提案をしてきた。

 だがその眼は空を見続けるばかりで、一向にこちらを向く気配がない。

 そのまま待っても取引の続きも話さないようで……不思議に思い、僕も老婆の見上げる空へと視線をあげた。


 するとそこには──


「……あぁ、なるほど」


 晴天に煌めく稲妻。

 それは遠方より、確かな光を放ってこちらに真っ直ぐとやってきている。


「……ふ。京助、この魔術大祭……魔術師の祭典で馬鹿をやらかす人間を許さない者たちがいる。誰かわかるかい?」

「あぁ、姫。なんとなくわかるよ。でも、一応姫の口から聞こうかな」

「ふふん!」


 僕と同様空を見上げて稲妻の光を目視した姫は、腰に吊るした剣……僕が【ガチャ】で出したあの装飾華美な剣に手を当てて、ゆっくりと抜剣した。

 それを天高く突きあげて姫は声高に名乗りを挙げる。


「ボクら魔術師、もれなく全員だ!」


 ピシャンッ! と。

 老婆の前に降り立った稲妻の光が、姫の持つ煌びやかな剣に反射してキラキラと光った。


「──カグト」

「ボクの適性魔術を御見せしよう──」


 老婆が横の赤髪褐色肌の大男に声をかけると同時、姫の煌めく剣がその光を増していく。

 それはチカチカというよりキラキラ。

 まるで流れるオーロラのような美しい光の奔流は、見世物の一団が魅せる芸魔術の一つのよう。


 いや、というよりこれはまさに。


『──まぁ、一言でいえば所謂ネタ魔術に属するものなんだよね、ボクの適性魔術は』


 姫のネタ魔術の正体とは、芸魔術の一つ──。


「──エフェクト:必殺の一撃!」


 エフェクト魔術……!?


 跳びあがった姫の振りかぶる剣──もやは聖剣とでもいうべきそれが、過剰な攻撃エフェクトを放ちながら老婆目掛けて振り下ろされる。

 だが、僕の知る見世物の一団が使うエフェクト魔術は、完全見かけだけのこけおどしのようなもの。

 その魔術に、攻撃性能など皆無である……はずなのに。


 煌びやかな王子さまのような【霊装】を纏った姫の一撃。

 それは、狙い違わず前方の老婆の下へと命中し……まるで物語の決定打が如く派手な爆発を光を撒き散らしながら起こした。


 この攻撃性能、なんなら純粋な火力魔術より高いのでは……?


 だが僕がそんな関心を示している間にも状況は止まらない。

 広場の周囲では多数の雄叫びと戦闘音が聞こえ始めた。

 どうやら魔術大祭に来場していた魔術師たちが隙をついて外から包囲に攻撃を仕掛け始めたらしい。

 上空では気持ちのいい一発をお見舞いした姫がエフェクトを放ちながらゆっくりと降りてきている。

 ふと前方の雄二と美澄さんに目をやればこちらも【霊装】状態で幼女の守備を固めていた。

 雄二に至っては密かに鎖魔術で手近な敵方の魔術師の拘束までしている。


 これが、魔術大祭か。

 これが、魔術師の祭典で問題を起こすということの、返礼なのか。


 先程の姫の言葉を思い出す。

 まさか避難するでもなく本当に吶喊してきたのか?

 この会場にいる、魔術師たちが……!


「ふふ……ははははは!」


 柄にもなく声を挙げて笑ってしまった。

 冒険者にしてもそうだが、いつもこうだ。

 どうも僕は、いつになっても魔術という者を扱う者たちを、まるでわかっていないらしい。


 黒い靄を、僕の【魔法霊装】を纏いながらそんなことを思った。

 僕の周囲にいる来場客たちがぎょっとした目でこちらを見てくる。

 着けていた狐面は顔上半分を隠す鬼の面へと。

 推しを意識した和装は普段の真っ黒い和装へと。


 しゃらり、と。

 驚く者の多い視界の中で、純白の九尾がこちらをじっと見ているのが見えた。

 あぁ、そうか、彼女たちも動くのだな。

 普段まるで自分たちが魔術師であることを忘れているような推したちなのに、こういうところでちゃんと見せてくる。


 純白の九尾は、にこりと笑う。


 漆黒に包まれた鬼の執行者に。


「──あらあら。思いの外行動が早い……やはり我らは秩序を願う者……いえ願わせる者ですね!」

「元執行者なら、秩序を守る者になってほしいがな」


 姫の放った攻撃で舞う粉塵の中から、老婆の酔ったような声が聞こえた。

 当たり前のように生きているらしい。

 だがあの酔った言葉には執行者として言ってやらなければならない。

 一体なにに狂わされたのかも知らないが、執行者の役目は、秩序を維持することなのだと。


「雄二」


 前へ進み出ながら途中、フード越しにこちらを見ていた雄二に声をかける。


「……話は後でいっぱい聞かせてね。でも今は、先で戦っていてくれ!」


 僕の声に、雄二は今はと頷いてくれた。

 本当ならあのカグトとかいう赤髪褐色肌の大男含め、僕が対処したいところだが……。


「緊急配信じゃあああっ! 魔術師の祭典に喧嘩を売ったばか共に! 徹底抗戦を仕掛けるぞい!」

「「「オオオオオオオオッ!!」」」


 稲妻の位階指定A。

 エフェクトを纏う姫。

 やる気満々の雄二と美澄さん。

 周囲で既におっぱじめてる魔術師共。


 そして僕の推し──ユキトイキ。


「僕の相手はお前だけでいいらしい」

「執行者……お前たちでは秩序を維持できぬということを、私が今一度教えて差し上げましょう」


 前方、老婆がいた場所から白炎の柱が立ち昇る。

 その中心にいるのは……うら若き一人の乙女。

 だがその面影からは、確かに老婆の雰囲気が感じられる。


 元執行者、コード『不死鳥』の能力か。


 どうやら情報通りの力を持つらしい。

 だがなにはともあれ……。


「場所を移すか」


 魔術師には魔術師の。

 魔法使いには魔法使いの。

 それぞれの戦場というものがある。


 大地を蹴る。

 静かに、だが強く僕を見つめる『不死鳥』へと肉薄する。


「慌てないで執行者……いえ『魔人』。魔法使いの戦いに魔術師を巻き込みたくないのは、両者一緒なのですから」


 激突の寸前、顔と顔が触れ合うかという距離で『不死鳥』が囁く。

 僕はそれに無言で応え。

 殴り飛ばすように二人で、遠く離れた場所へ戦場を移したのだった。

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