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第一話「世間で人気の冒険者」

 『悪鬼』討伐作戦からしばらく。

 春の終わりを照り付ける陽射しが告げる頃。


 僕は一人自宅で、推しの配信を視聴していた。


『今日は炭鉱夫』

『のじゃをつけないと誰かわからないですよ~タマ~』

『虚無配信の始まりだな』


 いつもの推しのなんてことないやり取り、今日は虚無配信による炭鉱夫らしい。

 間違えた、炭鉱夫による虚無配信らしい。

 どっちでもいいな。


 ユキトイキは三人からなる魔術師系配信者で、三人ともが僕の最推しだ。

 先日の【千里眼】と配信魔術の合わせ技で稼いだはずのユキトイキだが、どうやらタマはもう既に金欠状態らしい。

 相変わらずの金遣い、タマは貯金ができない。


 なんてことないやり取りからタマの金欠状況まで含めていつものユキトイキの空気だ。

 僕は塩辛のつまみを口に運びつつ大画面で配信を見る。

 『悪鬼』騒動で執行者の姿が配信されたからなのかなんなのか、最近は若干治安もよくなったようで僕としても嬉しい限りだ。

 

 ユキトイキの三人が炭鉱夫ギルドもとい冒険者ギルドに入る。

 そこにはいつものハロウィンもびっくりな光景と……喧しい黄色い悲鳴がギルド内で響いていた。

 久方ぶりに金欠でギルドに来たユキトイキは少し驚いたように立ち止まる。


『……なんじゃあ?』

『ダンジョンからイケメンでも発掘されたんでしょうか~』

『いや、あれじゃないか? ほらあそこ……『千鎖』だ』


 むっつり女騎士のレンが指さす先には最近位階指定Aに上がったらしい冒険者、『千鎖』がいた。

 なんでそんなこと知ってるのかって?

 クラスメイトが話題に上げるからだよ。


 あのクラスメイトの実は凄いんだぞ少年、今この冒険者支部では凄い人気らしいからな。

 先日の『悪鬼』討伐作戦で窮地からの覚醒とかいう物語の主人公かって活躍を見せたから、冒険者に憧れると同時に『千鎖』に憧れる者も増えたと聞くくらいだ。


 そんな『千鎖』の隣には同じく位階指定Aの冒険者、『風神』の姿が。

 あれから見事ヒロイン枠を勝ち取ったようで、今では二人でダンジョン探索をしているらしい。

 あの黄色い悲鳴は『千鎖』個人に向けられるものと、お似合いカップルに向けられるものの二つがあるのかもしれないね。


『むぅ……『悪鬼』を始末したのは『魔人』殿であろうに』

『世間の話題は完全に『千鎖』ですからね~』

『みんな物語が好きなんだろ』


 ギルド内に響く黄色い悲鳴にユキトイキは参加せず、少し口を尖らせてダンジョン入口を目指す。

 推しが自分の、執行者の働きを評価していてくれることは素直に嬉しい。

 けど冒険者の抱く憧れとはいつか辿り着きたい高みでもあるのだろう。

 得体の知れない執行者と物語性のある同じ冒険者、比べてみれば当然な話の流れ方だった。


 ……まぁ、大きな部分として別の理由もあるようで、コメント欄では。



〈コメント〉

:執行者は強すぎてなにしたかもわからんかった

:気付いたら『悪鬼』の首持ってて、それをぽいっだもんな

:理解できないが重なり過ぎて、最早恐怖の感情しか浮かんでこないんだよ

:人は理解できないものを恐れるのだ……



 と、執行者に対する恐怖の感情を表していた。

 いや、僕に対する、というべきなのか。

 自分でも認めているところだが、僕の【魔法霊装】は外見からして受けが悪いからな。

 これが美人美女の執行者なら受ける印象も変わってくるのだろうが。


 視聴者の声に難しい顔をするユキトイキは、しかし自分たちにこれを否定する資格もないんだよなと、溜息を吐きながらダンジョンに入り虚無配信を始めた。


 世間では冒険者が人気なのだが、僕の推しは相も変わらず冒険者というより炭鉱夫で。

 しかも魔術の研鑽に興味の薄い三人は、相も変わらず浅層での虚無配信。

 僕はそんな推しの配信を塩辛のつまみと共に見ている。

 それは執行者として……ではなく、今はただの一人のリスナーとして。

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