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追放された私、宮廷楽師になったら最強騎士に溺愛されました  作者: mera


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第十四章

同じ頃――。

アーロンは侯爵の屋敷を捜索していた。

だが、屋敷には誰もいなかった。


「おかしい......」


アーロンは眉をひそめた。


「侯爵の姿がない。それに、研究資料も全て持ち出されている」


その時、窓から金色の光の鳥が飛び込んできた。


「これは――」


アーロンが鳥を指先に乗せた途端、鳥の体に文字が浮かび上がった。


『王宮地下。秘密研究施設。急いで』


まちがいない。

クレアからのメッセージだった。


「隊長、どちらへ!」

「ここは囮だ。警備の者だけ残し、あとは全員俺について来い」


アーロンは即座に屋敷を飛び出し、王宮へと愛馬に乗って駆けた。

道中、もう一羽、光の鳥が暗闇のなか、王宮の部屋へと入るのが見えた。

あの場所は、王太子殿下の私室だ。


「さすが、俺の婚約者だな」


アーロンが王太子と合流することを読んでのことだろう。

必ず助ける。

待っていろ。クレア。



私は研究室の中央に立たされ続けていた。

もう何分、いや何時間演奏させられ続けているのだろう。

だが指をとめれば、彼らが何をしてくるか分からない。


――お父様、アーロン、助けて。


「ふはははは! いいぞ。既定の量の二倍に達したか。陛下もきっとお喜びになる」


侯爵は光の粒子が詰め込まれた透明な容器をうっとりと眺めている。


「さあ、もっと奏でるがいい! 使い道は山ほどあるのだからな」


侯爵が容器片手に唾を飛ばして私に迫る。

周囲には魔喰いの水晶を持った魔術師たち。


逃げ場はなかった。

もうどこにも。


そう思った次の瞬間、研究室の扉が轟音と共に吹き飛んだ。

煙の中から、一人の男が現れる。

黒い髪に精悍な顔立ち。鋭い瞳。たくましい腕にしっかりと握られた剣。

アーロンだった。


「――よくも、俺の婚約者に手を出したな」


彼の声は、怒りに満ちていた。

アーロンの剣は抜き身で、その刃は青白い光を放っている。彼の背後には部下たちが付き従っていた。


「クレア、最初に会った夜のことを覚えているか!」

「!」


家を追い出され、王都までの街道を歩いて向かった日。

彼と初めて会った夜、音花の恵みを証明するために行ったこと。

アーロンが剣を肩に担いだまま、割れた壁の破片を手に持った。


そうよ。あの時、私は――

一斉に光の粒子が私のもとへと集まる。


魔喰いの水晶があっても、だいじょうぶ。

だって今この場にはアーロンがいるんだもの。


光の盾が展開し、アーロンが私の前に立ちはだかっていた魔術師たちを一掃した。


「~~~~ッ!」


横薙ぎの剣風がびりびりと鼓膜を震わせた。

光の盾を展開した私は文字通り、無傷。アーロンの腕に抱きかかえられる。


「無事でよかった」

「……はい」


アーロンの頬に顔を寄せて、再会を喜んでいると、侯爵が口を割って入った。


「なぜ、ここが分かった!」

「クレアが教えてくれたのさ」


アーロンが肩に止まっていた光の鳥を指し示す。

光の鳥の腹部には、私がとっさに思い浮かんだ言葉がそのまま浮かんでいた。


『王宮地下。秘密研究施設。急いで』


「この鳥が俺のところに飛んできた。お前の居場所を示しながらな」


侯爵の顔が歪んだ。


「まさか......」

「さあ、侯爵。観念しろ。お前の悪事は、全て明るみに出る」

「ふざけるな」


侯爵は叫んだ。


「私は王族の血を引く者だぞ。お前ごとき一介の近衛騎士が、手出しできると思うな」

「できるさ」


アーロンは一歩、前に出た。


「なぜなら、ここに来たのは俺だけじゃない」


その時、扉の向こうから複数の足音が聞こえてきた。

王太子殿下が腹心であるエドワード卿と共に入ってきた。


「ストラトフォード侯爵」


殿下の声は、冷たく厳しかった。


「お前の罪状を読み上げる。闇ギルドとの不正取引、宮廷楽師の誘拐、魔法による強制的な能力抽出の試み。これらは全て、王国の法に背く重罪だ」


侯爵は青ざめた。


「で、殿下......なぜ、ここに」

「アーロンから連絡を受けた」


殿下は答えた。


「お前が地下研究施設でクレアを監禁していると。すぐに、私とエドワード卿で向かった」


エドワード卿が前に出た。


「ストラトフォード侯爵。あなたは王族の血を引く者でありながら、その立場を濫用し、罪なき者を苦しめてきた」


彼は巻物を広げた。


「王太子殿下の命により、あなたの爵位を剥奪する。そして、王国追放を言い渡す」


侯爵は膝から崩れ落ちた。


「そんな......そんなはずは......」

「お前は、芸術を兵器に変えようとした」


殿下は冷たく言った。


「それは、私が最も憎む行為だ。音楽は人を傷つけるためにあるのではない。人の心を癒し、つなぐためにあるのだ」


殿下は私の方を向いた。


「クレア嬢、遅くなってすまない」

「いいえ、殿下。もったいないお言葉でございます!」


王太子殿下に頭を下げられたら、立つ瀬がない。

アーロンは私をずっと抱きかかえたままだし、一向におろしてくれない。


「えっと、その……そろそろ下ろしてもらえませんか」

「だめだ」


駄々っ子みたいなことを言う。


「エリンをつけて、君には心配しなくていいと言ったのに、このざまだ」

「間に合ったじゃありませんか」

「それは、そうだが!」


やっと顔を上げたアーロンの顔はひどく傷ついた表情をしていた。

とても心配してくれていたのだ。

彼の頬をそっと優しくつつみこむ。


「私はまたこの指であなたのために音を奏でられる。それだけで嬉しいのです」


だから、泣き止んで。

アーロンのおでこに一つ、キスを落とす。

すると、辺りの騎士たちからヒューヒューと口笛をかけられた。


「お熱いこって、いいですねえ。隊長」

「いいぞ。もっとやれやれ~」


生き残った魔術師を捕縛しながら、騎士たちが思い思いの声をかけてくる。

そうだった。彼らもいたんだった。

急に現実に引き戻され、私はアーロンから顔を離した。


「お前たち……くそっ。あとで覚えておけよ」

「まあ、私としても今は職務を果たしてもらうことを希望するね。アーロン」


殿下が妙に生温かい目でこちらを見てくる。

申し訳ありません。

なんとも締まらない空気のなか、こうして王宮を揺らす一大事件は幕を閉じたのだった。



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