門番
オレは川に沿って下流に移動した。そして獣道の位置まで戻る。
やはり、この先に何かしらの入口があると踏んだからだ。
もし街から移住する規模の地下施設ならば、ゼロから人力で掘るのは考えにくい。既存の洞窟や、生き物の巣の跡などを加工し、再利用するのが効率的だ。
領事館を破壊したような巨大生物が使役できるなら、建設の主力になるだろうと考えたんだ。
予想通り、その獣道の行き着く先の山腹に、ドデカイ穴が空いていた。
直径は3mぐらい。洞窟というにはあまりに不自然な穴だ。
そして、その入口に門番らしき者が一人いる。
その存在に気付くとオレは道を外れ、遠巻きに様子を伺った。幸いまだ気付かれていないのか、ソイツは直立不動の姿勢を維持していた。
身長は185~190cmぐらいで、かなり大柄だ。全身ツルンとした金属鎧を着ているように最初は見えた。
しかし様子がおかしい。
動かないにもほどがある。ひょっとして銅像か何かなのかもしれない。
先の蟻の経験から、遠視の魔法は使いたくない。オレは長期戦の覚悟でしばらく様子を見ることにした。
小一時間ほど見張っている間に、二組の人間の出入りがあった。いずれも剣や杖などの護身武器は持っているものの軽装で、民間人に見えた。
その際に門番は微動だにしないし、互いに挨拶する様子も無い。
オレは意を決して近づくことにした。
最初は木陰に隠れながら慎重に近づく。
10mを切るぐらいまで来ても、それは微動だにしない。
試しに枝を踏み折ったり、小石を投げてみても同じだった。
今度は姿を表して見せる。
絶対に視界に入る位置にいるはずだが、やはり微動だにしない。
オレは一歩一歩近づいた。
3mの距離まで来ると、ようやくそれが人間じゃないのが分かった。
材質はおそらく金属。人の形をしているが、彫像と言うには作りがあまりに大雑把だった。
手足も胴体も円筒形の積木を繋げたような形で、やはり円筒形の首に球体の頭部が乗っている。両眼の部分が窪んでいるのが、かろうじて顔らしさを担っているが、鼻も口も無かった。
そんな像が腰に皮ベルトをして長剣を帯びている。なかなか上等な剣だ。これのせいで、かなり近づくまで、鎧を着た人のようにも見えたのだろう。
一瞬、その剣を頂いていこうかとも考えたが、潜入には邪魔だし、罠があるかもしれないので素通りすることにした。
どういう仕掛けなのか分からないが、その洞穴の中は薄明かりで照らされており、しばらくランタンを灯す必要は無さそうだ。
(オレは偶然この洞穴を見つけて興味を持った植物学者だ)と、人に会った場合の設定を確認し、洞穴に踏み入れようとする。
すると背後から嫌な物音がした。