あいつしか、頼れる人が……
確か、サンプリングディレクターやってた時、あいつから電話がかかってきて、敵同士とはいえ何かあった時のために、電話帳登録してあったはずなのだが……お、お、大柴……ない。それでは、下の名前ならどうだ? さ……ら! あった! もう遅い時間だけど、出てくれるかな?
「もしもしサラ? 夜遅くにゴメンネ!」
「う~ん、寝てた~」
「ちょっと相談なんだけど……」
「いい加減なことだったら、殺すよ~まあ、あんたのいいブリからすると、いい加減ではないことくらいはわかるんだけど」
そこで、タカナシ社長と共に『カフェバーのコンサルティング』に行ってきた話、タカナシ社長が、ここの店には『華』がないと分析した話。私が一曲歌ったらマスターにお褒めいただき、ここで働かないかと言われた話。最後の方はしどろもどろだったものの、伝えることは伝えた。
「それで是非、あんたにも一緒に働いて欲しいと、そういうわけよ。頼み、聞いてもらえるかしら?」
「よっこらしょっと。ちょっと、顔洗ってくる」
顔を洗うというのは、こちらからのお願いが切実であるので、話を聞く準備をしてくれるということなのだろう。あいつもなかなか、義理堅いというか。
「で、要するに、アンタと私の二人で、店の看板娘として、通常のホールスタッフをやりながら、ライブタイムも設けたいと、そういうことよね」
まあ、要約するとそうなるけど
「でも、まだちょっとそれだけじゃ、面白くないわね」
何がだ?
「せっかくだから、もっと大勢のアーティストを集めて、1日ライブカフェバーをやったほうが、人も集まるし面白くなって、店のプラスになるんじゃないの?」
なぬ? コイツもタカナシのおっさんに続き、コンサル脳とやらのあるイキモノなのか?
「もちろん、私もやるからには、全力で取り組むわよ。聞いたところ、カラオケ程度しか機材ないとのことじゃない。実は私、ライブハウスで働いていたこともあるのよね。そっちのつてから、ちゃんとした音響機材を用意して、オペレーターなどのスタッフの手配もする。あと、過去の大物ミュージシャンにつてがあるから、その人に出てもらえないか打診をしてみるつもり」
彼女が協力的なのは、実にありがたい。しかし、気になることが。
「サラ……アンタってさあ、うちの魔法少女スーツを盗み出した会社にいる、
つまり、よその会社の人間である上、言ってみれば『敵』なわけじゃん。なんで私たちに、そんなに協力してくれるの?」
「私は、いろんな会社を渡り歩いているわ。それもあって、まあ、金を払ってくれる会社なら、どこでもいいと」
案外、さっぱりした考えなんだなぁ~私がタカナシ社長のもとにいるのは、魔法少女スーツの件もあるが、第一に、社長が良くしてくれるから、というところであって。それが、現代っ子と。あまり認めたくはないが昔びとである私の違いなのだろうか。
「それに、確かに事務の仕事は、短期で終わったけど、タカナシさんのところの登録は消したわけじゃないわよ。つまり、仕事を待っている時のアンタと同じ状態。違うのは、私は仕事を待ってるあいだも、ほかで仕事していたりするという点。それでいろいろ……ね」
サラもだんだん、心を開いてきている。すると、自分が『産業スパイ』という立場にいることに対し、嫌気がさしているのではないだろうか。
「ただ、やるからには、それなりの報酬はもらうわよ。当然だけど」
「それは、もちろん……ね、サラ。絶対、成功させましょう!」
「当然! 成功させるために、私はこの仕事を受けたんだから。それに、可愛い女の子が二人……成功しないわけがないでしょう?」
自分でいいますかそういうこと。
「あ、一人は女の『子』じゃなかった」
あいかわらず、一言多い子だ。
タカナシ社長に電話して、昨晩のサラとの話の流れを伝える。
「そうか~1日ライブカフェバーか~それは面白そうだな。それにしても、サラちゃんがそこまで協力的だとはね~スパイ云々の話はあるが、それはそれ、これはこれと割り切れるのが対したもんだな。で、ライブの開催なんだけど、君たち個人で開催するよりも、うちの会社の主催ということにしておいたほうが、いろいろ泊がつくんじゃないかな。で、イベント名は考えたのかな?」
「昨日、サラとの電話のあと、寝ないでいろいろ考えて、お店の名前がTWENTYつまり『20』ならば、ひと組持ち時間20分の、『トゥエンティタイム』でどうかなって」
「そうか。それじゃ、うちの社名、『ことりキャスティング』う~ん、なんか違う。ここは、芸能事務所風に、『ことりプロモーション プレゼンツ トゥエンティタイムショー』と行こうか」
「あ、それいいですね」
「ところで、機材の手配や、大物さんへの声がけは、サラちゃんがやってくれるとのことだが、それ以外の出演者の手配は、真希ちゃんがやるわけだろ? 何かつてはあるのか?」
「一応、SNSサイトで募集かけようと思います」
「まあ、うまくいくかどうかはまだわかりませんけど、やると決めた以上、精一杯やってみます」
「おっとと。肝心の、日時がまだだったじゃないか。危ないところだったなぁ~今ちょっと、瀬尾さんに確認してみるよ。昼か夜だったら、どっちがいい?」
「う~ん、夜! できたら、土曜夜! バンドやってる友人が言ってたけど、土曜夜が一番人が集まりやすいって」
「で、時期はいつごろにする? あんまり早すぎても、準備が間に合わなかったらまずいし」
「大体、1ヶ月くらいですかねぇ。」
「それじゃ、瀬尾さんに、この日程でいいか確認して、折り返しメールでもいいかな?」
電話を置いて、しばらくメールを待つ。10分後くらい経って、着信があった。
『1ヶ月後の土曜日夜、OKとのことです』
早速、サラにも電話しないと。いい加減、彼女ともメールアドレス交換、しておかないとな~
「あ、もしもしサラ? 日程決まった! 1ヶ月後の土曜日夜だって!」
「日程の件を話していなかったことくらい、昨日のうちに気づきなさいよ。1ヶ月か……きついといえばきついけど、まあ頑張ってみるわ」
やっぱり、1ヶ月じゃきつかったのかなぁ。私のやる気だけが、空回りしているのかなぁ……
悩んでいても仕方がない。私は、SNSサイトで募集をかけるべく、文面を考えてみた。
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ライブ出演者募集!
このたび、カフェバーを盛り上げるべく、
1日限りの、ライブカフェバーを開催することになりました。
そこで、一緒に盛り上げてくださる出演者様を募集しております。
参加費なしで、ひと組あたり持ち時間20分です。
パフォーマンスは、歌(カラオケ設備があります)弾き語り、
ダンス・朗読など、どんなジャンルでも構いません。
日時・時間などの詳細は、以下をご参照ください――
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文面は、このようなもので大丈夫だろう。さっそく、SNS中の、アーティスト活動をしていそうな人に声をかけてみよう。
……なかなかいい返事が来ない。返事が来ても、お断りの文面ばかり『すみません、その日予定が入ってて』はまだいいほう。『実績のないライブイベントには、出ないことにしているんです』などという、腹が立つ文面を送ってくる輩もいる。もっとほかの人からの連絡ないか?と探っていたら、『カフェを盛り上げたいとの素晴らしい趣旨に惹かれました。ぜひ出演させてください』やった~! これは、頑張っていけば、何組か集まるかも!
携帯電話を見ると、メールが1通。差出人に心当たりはないが、一応開けてみることにする。
『サラです。電話で話した大物さん、具体的に言うと、ずいぶん昔、『CNB』というバンドでギターボーカルやってた、関谷雅人さん。出演了承してくれました。なんか、すごいたのしみにしているみたい。ただ、実物見ても、驚かないでね』
非常に嬉しいお知らせなのだが、私、サラにメールアドレス教えた覚えはない。一体、どこで知ったんだろう? それに、実物見ても、驚かないでねとは、一体、どういうことだろうか?
サラのメールアドレスがわかった以上、今後もやり取りすることが多くなると思うので、さっそく登録しておき、お礼の返信をしておかないと。
『ありがとう!たすかるよ~!ただ、実物見ても驚かないでねというのは少々気になるけど。ところでだけど、私、あなたにメールアドレス教えた覚えないけど、一体、どこで知った?』
すぐに返信が帰ってきた。
『アンタんところで事務やってた時に、登録スタッフ名簿から見てしまったの』
薄々そうだとは思っていたのだが……あの産業スパイめ!
しばらくSNSサイトによる出演者募集活動を続けているうちに、だいぶ出演者がまとまってきた。この人数なら、なんとかライブ回せるかな、くらいに。そこで、今度は、お客さんとなる人に対する告知活動、そう、私の得意な、ネット生放送で。
『みなさんお久しぶり~みんなのアイドル、ニート姫だよ~! あっと、今はもう働いているので、みんなより先に、ニート卒業しちゃったね』
(うるせー余計なおせわだ、というコメント)
『実は今度、とあるカフェバーで、ライブカフェバーをやることになりました!話の発端は、お店のマスターが、お店をもっと盛り上げたいというところから始まって、だったら、ライブカフェバーをやるのが一番手っ取り早いと、私が提案したんですよ!』
(嘘だろ~絶対!)
『で、このイベント、歌ったり、楽器弾いたり、朗読したり、いろんなことができるイベントなんですよ~本当は、ダンサーも入れたいところなんだけどね』
(私、実際、『踊ってみた』動画も上げていて、興味あるんですけど、今からまだ出れますか?)
『おお!素晴らしい!募集は、まだかけているので、このサイトに私のメールアドレスが貼ってあるので、ここまでメールくださいね!』
『あと、なんと、ずいぶん前に有名だったバンド『CNB』のメンバー・『関谷雅人』さんの出演も決定しています!』
(おお~すごい!)(誰その人知らない)
『若い方は知らないかもしれないけど、私が子供の頃、すごい人気だったんですよ!そんなすごい人も見れちゃうライブなんですよ!絶対、来て損はなし!日程や料金は……』