経営コンサルタント?
「まあ、かっこよく言うと、そんなとこかな」
タカナシ社長の口から『経営コンサルタント』なんて言葉が飛び出してびっくりした。なんとなく『胡散臭い職業』程度の認識しかないが、具体的に何をする仕事なのか、さっぱりわからない。
「『企業のお医者さん』という表現があるな。クライアント企業の経営状態を分析して、より効果的経営するにはどうしたらいいのか、助言指導する。そんなところだ」
社長が、人材派遣だけでなく、経営コンサルタント業もやることにした、なんて言うから、驚いているのだ。
「あくまで、かっこよく言うと、だけどね。実際のところ、行きつけのカフェバーがちょっと経営難で、どうすれば客が来るか意見が欲しいって言われただけなんだけどね。一応、俺も経営者なわけでしょ」
普段から社長社長言っているが、そういえば『経営者』なんだよな、あくまで一応だけど。
「じゃ、頑張ってきてくださいね、『経営者』さん」
「何言ってるの」
「は?」
「君も来るんだよ。じゃなかったら、何のために君に電話したと思ってるんだ」
そんなことを言われても、私に一体何ができるって言うんだ。
「いや、若い人の意見も聞きたいだろうからね、『若い人』の」
嫌味だ、絶対嫌味だ~!
「で、そこの店のマスターが、店が空いている時ならいつでもいいから来てくれ、とのことだったんだよ。で、真希ちゃん。もちろん、明日空いてるよねぇ?」
こいつ、すっかり私のことを暇人扱いしているだろう。
「ランチタイムと夜のバータイム、どっちがいい?」
バータイムに連れて行って、酔い潰してけしからん行為を仕掛けようとしているのだろうか……この変態!
「まあ、本音で話すためには、バータイムのほうがいいだろう」
私はこう見えて、酒は全然飲めないので、ソフトドリンクでよければ。
「もちろん、私服でいいんですよねぇ」
「いや、これもうちの仕事の一環だから、魔法少女スーツじゃなきゃダメ」
絶対、そう言うと思った……
翌日の午後6時、ターミナル駅で社長と待ち合わせ、大通り沿いをまっすぐ行って、大きな予備校の建物の裏の路地をちょっと行ったとこ、『cafe&barTWENTY』という看板が。ここだな。
入口を開けると、マスターと思しき男性が、カウンターの中でグラスを洗っていた。マスターの第一印象『インテリヤクザで、こんな人いそう』
「おお、タカナシ君か」
「瀬尾さん、お疲れ様です。今日は、強力な助っ人を連れてきました。挨拶なさい」
『強力』は一言余計じゃ。それに今日、瀬尾さん――インテリヤクザ風のマスター――に、いい顔をしようとして、私に対して高圧な態度をとっているのがまるわかりだ。
「はい……タカナシ社長の会社で派遣スタッフをさせていただいております、守屋真希と申します」
タカナシ社長に言われるまでもなく、このマスターはインテリヤクザだから、粗相をしたら東京湾に沈められる~!
「何を君はぼそぼそ言ってるのだね。そんなに私、ヤクザに見えるか? まあ、よく言われはするんだが。でも、少なくても、怖い人ではないから安心して」
自己申告制の『怖くない人発言』に、今までどれだけ騙されてきたことか。第一、その眼光の鋭さ。ヤクザじゃなくても、相当の修羅場をくぐり抜けてきている人であることには変わりはない。まあ、『ヤクザ』というのは、この際、一旦脇に置いておこう。
「こんなところで立ち話もなんだから、早く中入って」
店内に入ってみる。外から見たぶんではあまり広そうには見えなかったが、奥行は結構ある。とりあえず、社長と二人、カウンター席に座る。
「飲み物、何にする?」
瀬尾マスターが注文を取る。もしヤクザじゃなかったとしても、このドスの効いた声、誤解する人が大勢いても不思議ではないだろう。
「じゃあ俺は、アーリータイムズ・ロックで」
酒の知識はあまりないが、顔に似合わず、強そうなものを飲むんだなぁと。
「真希ちゃんは?」
「え、ええと……ジンジャーエール」
「辛いのと甘いのとあるけど、どっち? おすすめは辛いので、毎回これしか飲まないお客さんもいるくらいだ」
「じゃ、辛いので」
瀬尾マスターが、ドリンクを用意してくる。
「おまえ、そんなに瀬尾さんがこわいか? 話してみると、面白い人だぞ。お知り合いになっておいて、損はないぞ!」
「損はない、って?」
「それは……今はまだ、言えないなぁ」
「なんですかそれ!」
瀬尾マスターが、ドリンクを持ってきた。
「アーリータイムズ・ロックと、ジンジャーエール・辛いほうね。」
「ありがとうございます……」
さっそく、出されたジンジャーエールを、一口飲んでみることにする。確かに、普通のものに比べれば、辛い。しかし、ちゃんと生姜の味がしていて、確かに美味しい。こればっかり飲むお客さんもいるというのも納得できる。
「ところで、その子の格好……タカナシ君、アイドルプロデュースでも始めたの?」
お願い、そこは違うと言って~!
「はい、実はそうなんです」
なんで、違うと言ってくれなかったんですか!
「だって、今回の案件だと、魔法少女云々は、避けておいたほうがいいと思ったんだ。まだ、コンサルタントのスキルがどういうものか、ウチでも確立できていない以上、スキルのインストールもできないし。今の所は、そういうことにしておこう。わかったね?」
渋々同意する。
「僕がこの店にかけているのは、『華』だと思ったんですよ」
「華、とは如何に?」
「確かにこの店は、立地はいい、店の雰囲気もいい、ドリンク・フードのお値段もお手頃。そしてなにより、名物マスターもいる」
そこの『名物マスター』というところが、『インテリヤクザ風のマスターがいる』というところなのだろうか? それとも、『一見コワモテだけど、話してみると実はいい人』の部分なのだろうか?
「そう、この店には、必要なのは、『職場の華』なのです!」
「それで、この子を連れてきたと?」
「ご名答! その通りです」
嘘だ、嘘だ! 話の成り行き上、そうなったに違いない!
慌てふためく私に、タカナシ社長は、
「いいか、コンサルの現場というのは、このような『会話の流れ』が重要になるとのことだ。分かるか?」
もし本当にそうだとしたら、タカナシのおっさん、派遣会社やってるより、経営コンサルタントとやらの方が向いているんじゃないか?
「ところで……守屋さんといったかな? 歌は歌えるのかな? まあ、その格好じゃ、歌えないわけないと思うけど」
もちろん、歌えないことはないんだけど、恥ずかしい……
「うちは、一応、カラオケの機械程度はあるんだ。そこで是非、1曲でいいから歌ってもらいたいのだが」
助け舟を出してもらおうと、タカナシ社長の方をチラ見する。
「歌え。これは、業務命令だ」
タカナシ社長まで、業務命令とか、偉そうなこと言ってるけど、実のところ、私をからかって楽しんでるだけでしょ?
いいわよ、歌ってやるわよ。カラオケの、デンモクとまいくはどこ?
社長とマスターは、机・椅子を軽く動かして、ステージっぽい構成にする。そこまでやんなくてもいいのに……
私がいれたのは、確定申告の時の職場カラオケでも歌った、最近のアイドルソング、それを、振り付きで、歌って踊った。
ギャラリー二人とはいえ、拍手・歓声が沸き起こる。
「正直、君がここまで歌えるとは、思ってなかったよ」
と、タカナシ社長。まあたしかに、一時期、バンドヴォーカルやってた時期もありましたからね。ほんの一瞬だけだったけど。
「おお! この店にも、ミュージシャン志望が時折来るけど、君ほどパフォーマンス力がある子は初めてだ。なんなら、今日からうちで働いてみない?」
え?カフェバーのスタッフって、お酒やお食事作ったり運んだり、お客さんと楽しくはなさなきゃいけないんでしょ? まあ、それくらいなら、スーツのチカラでなんとかなるかもしれないけど、本当の理由は……
「一人じゃ、心細いんです」
「おお、そうかそうか」瀬尾マスターが頷く。
「だったら、ほかに、一緒に働ける仲間を探してみたらどうだね?」
一緒に働ける『仲間』? いや、私、友達少ないし……
いや、一人だけ、心当たりがある。でも、あいつに頼んでいいものだろうか……




