サンプリングディレクターへ
『明日、サンプリング会社の事務所に行ってくれないか?』
社長からのいきなりの電話。
「え? それって、どういう用件ですか?」
『詳しくは聞いていない。とにかく、おたくの守屋さんに来て欲しい、としか』
まいったな~。なんかミスでもして、怒られるんじゃないだろうか。
『これから、メールで詳しい住所と地図を送っておくから。くれぐれも、そそうのないようにな。じゃ』
んなこと、言われなくてもわかってるっつーの!
「あなたに、サンプリングディレクターをやってほしいの」
え? 今なんて言いました?
サンプリング会社の事務所で、30代半ばくらいの女性の担当の方に、そう言われたのだが……
「今度、テーマパークの大々的なキャンペーンがあって、うちの社員だけでは足りないの。あなたは勤務態度真面目だし、一人現場や厳しいクライアントの現場もこなせてたし、適任だと思うのよね。」
その、ディレクターって、要するに、管理職ですよね? そんな大任、私に務まるのかなぁ……
「具体的には、何をやればいいのですか?」
「主に、見回りね。スタッフが、ちゃんと仕事しているかとか。あと、チラシが無くなった時の追加や、その他トラブル対応。もちろん、あなただけじゃ対処しきれないことも多いと思うから、その時はうちの社員呼び出していいから。やっていただけるかしら?」
私って、こういう押しに弱いんだよなぁ。まあ、いざとなれば魔法少女スーツの力があるし、なんとかなるか。
「……やります」
「ありがとう! それじゃ、もうちょっと突っ込んだ説明をすると……」
ディレクター業務当日。
都心のターミナル駅の、歩道橋の下が集合場所になっている。何組かのチームに分かれており、私の担当するチームは、総勢6名。配布するチラシも、すぐそばのところに台車に乗せて置いてある。
もうすぐ時間だ。私にできるかな……さっき、ディレクタースキルをインストールしたばかりだから、大丈夫だとは思うんだけど……と思ってたら、思わぬ顔を見つけた。
「サラ!」彼女は、服装だけでよくわかる。私と色違いの、ニセ魔法少女スーツだ。
「あら、真希さんじゃない」
「なんであんたがいるのよ!」
「そっちこそ。そもそもあんた、今日、ディレクターらしいじゃない」
「なんで、あんたがヒラであたしがディレクターなのよ!」
「仕事に入った回数の問題じゃない? 私、大学が忙しくて、あんとき、ディスカウントショップの時以来、仕事入ってなかったし」
こいつ、大学生だったのか。としの割に、やたらと貫禄を感じるのだが。おっと、敵を褒めてはいけない。
「ほら、ディレクター、時間よ。ちゃんと仕事しなきゃダメじゃない」
「こっちも、そろそろ時間だな~と思っていたところよ! それじゃ、みんな集合!」
配布の際の注意事項――元気よく声を出す、もらってくれなくてもめげずに声出しを続けるなど、いつも言われていること――を伝えて、
「もし何かわからないこと、困ったこと、あと、チラシが足りなくなった時などは、今渡した紙に、私の携帯番号が書いてあるから、すぐ電話ください。それでは、配布場所に移動してください!」
みんなが移動する中、サラだけ足を止めて、
「ディレクター、しっかりしなさいよ!」
「あんたこそ、足を引っ張るんじゃないわよ!さっさと行きなさい!」
ディレクターの仕事は、決まった時間に見回りに行くことと、緊急対応で、それ以外は、ほかの人と同じように配布をしているとのこと。しばらく時間まで、配布することにする。
時間だ。見回りに行こう。
大体、みんなちゃんとやっているようだ。あと残すは……
「サラ! あんたちゃんとやってる!?」
「見ればわかるでしょ! あんたこそ、ちゃんとディレクターやってる!?」
「当然! 今、みんなちゃんとやってるか、見回りに行ったところよ!」
「じゃ、さっさと戻りなさいよ! そんなところにいても、邪魔になるだけだし」
「それじゃ、失礼!」
悪態を付きながらも、彼女がいてくれるだけで、なんか心強い。なぜだろう……
しばらくすると、携帯に電話がかかってきた。なにか緊急事態か!?
「も……もしもし!」
やばい、ちょっとテンパってるかも。
「あ~ら真希さん。ディレクターなのに、その慌てよう、ないんじゃな~い?」
なんだ、サラか。
「うるさいわねぇ! 何の用よ!」
「チラシが足りなくなったから、補充に来てってことよ!」
「分かったわよ! 待ってなさい!
チラシの束を持って、サラのところに行く。
「随分遅いじゃない。そのチラシを置いて、とっとと失せなさい!」
「それはひどい言われようね。せっかく、持ってきてあげたのに。こんなに早く無くなるなんて、なんかズルでもしてるんじゃないの?」
「実力よ実力! あるいは、この魔法少女スーツの効果かしらね。アンタのところより、さらに改良を加えたからね!」
「あ~らそうなんだ。ま、もともと開発したのはうちだけどね。それじゃ、邪魔者は退散しますよ~だ」
なんとも憎々しい小娘だ。
それから元の場所へ戻る。ほかの人も、ぼちぼちチラシがなくなってきたようで、電話がかかってくるようになった。その都度、チラシを補充しに行く。
終了時間になった。みんな、私のもとに集まってくる。特に大きなトラブルがなくてよかった。
「それでは皆さん、お疲れ様でした。これで解散にします」
みんな、それぞれの方向へ帰ってゆく。私、ディレクター、つまり、生まれて初めての管理職の仕事を、やり遂げたんだ……いや、私だけの力ではない。サラがいてくれたからこそ、安心して仕事が出来たんだ。私は、感謝の気持ちを表すべく、サラに視線を合わせようとしたが、すぐにそっぽ向かれた。そういえば、この娘、うちの会社とは敵同士だったんだ。しかし、すれ違いざまに、
「ありがとう」
と。その一言だけ残して、彼女は去っていった。
嫌だなぁ。それは、こっちのセリフじゃない。




