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プロローグ7 太郎と全員



「ここにいたか・・・。ん? お前ら何をやっている?」


 そこに、これまたややこしいことに、非常口を開けて黒木美沙さんが校舎に入って来た。口調は変わっているが、長身の黒髪美女、間違いは無い。


「動きがすばやいと思ったら・・・狼男だったのか。・・・そっちのお前は人間か?」


 黒木さんは僕を指差している。屈強なボディガードの銀治君はまだ目を回して廊下に狼の姿で大の字だ。


「に・・・人間です・・・が・・・なにか・・・?」


 今日ほど自分が人間だった事を悔やむ時は無いだろう。お母さん、どうして僕を普通の子に産んじゃったの・・・? 世の中は危険だらけだよ・・・。


「ちょっと待ちなさいよ! この子は私の獲物よ! 一年生は引っ込んでなさい!」


 僕の前に絵里香さんが立ちふさがる。ああ、昨日の敵は今日の友。そんな言葉が僕の頭に浮かんだが、結局絵里香さんが勝っても僕に不幸が訪れる事を思い出す。


「お前も狼男・・・いや、狼女か?」


「何で私がこんな獣臭そうな犬っころなのよ! 私はバンパイアよ! もっと上位に位置する者よ!」


「不死のバンパイアか・・・。なら、悲鳴をたくさん聞かせてくれるのだろうな・・・」


「やってみなさい!」


 血を吸われそうになったというのに、僕は若干絵里香さん寄りに応援してしまう。血を吸われるより槍に刺されるほうがもちろん嫌だからだ。それに・・・バンパイアだとわかっていてもあの容姿・・・。僅かな時間だけでファンクラブの末席に加えて欲しくなった。これも吸血鬼の魔力のせいだろう・・・と、言い訳をしておきたい。

 

 しかし、相手の黒木美沙さんもミステリアスな感じで惹かれる。少し濃い目の眉毛に目は切れ長、唇は濡れて厚みを帯びている。さっぱり系美女と、色っぽい美女対決だ。ってどうして僕はこんなことを言い出すんだ・・・。これも魔力のせいにしておこう・・・。

 

 そんな事を考え、自分に照れていた僕だったが、廊下の雰囲気が変わった事に気がついた。何か・・・違和感がある。どこに・・・。


相変わらず銀治君は気持ち良さそうに眠っている。そうか・・・それだ! 先ほど銀治君が叩きつけられて砕けた廊下が・・・元通りになっているのだ! 違和感が無くなっている事に違和感があったんだ!


「なっ・・・何よこれ・・・」


「なんだこれは・・・?」


 絵里香さんも美沙さんも辺りの様子を伺っている。僕は何か恐ろしい事が起きるんじゃないかと震えていると、その首に柔らかい手が触れた。


「え・・・。あれ?」


 力が入らなかった体が自由に動く。立ち上がり、振り返ると・・・そこには・・・、



「朱魅・・・さん」


 同じ学年の一年生であり、僕が所属しているクラブの部長の大空朱魅さんが立っていた。


「皆の者、あまり学校で騒ぎを起こしてはダメだぞ!」


 彼女はそう言いながら、つかつかと絵里香さんと黒木さんの間に割って入る。絵里香さんも黒木さんも僕と代わらないほど背が高い。その二人から見下ろされた朱魅さんは、突然エヘヘとばかりに笑った。


「二人とも・・・私の部に入ってくれ! 一昨日作ったばかりで人手が足りなくて、大!  募集中なのだっ!」


「一年生のくせに、二年生の私に自分の部活に入れって言う気?」


「おまえ・・・私を誰だと思っている? 私に命令できる奴など・・・」


 二人は不快な表情を浮かべているが、段々と唇を噛んだり目を逸らしたりと困ったような顔になってきた。


「入るわ。でも、ちゃんと上級生の扱いしてよね・・・」


 絵里香さんがまず口を開いてそう言った。すると、黒木さんもため息を一つついた後に言う。


「私も入ろう。考えると、お前達みたいなのといると、人間相手よりは退屈しなさそうだ・・・」


「入部決定だな! これで部員は6名。まずまずだ!」


 朱魅さんは僕の顔をみて笑う。どうして絵里香さんや黒木さんは急に素直になったんだ? いや、それよりこんな恐ろしい人たちを入部させて大丈夫なんだろうか・・・? いやいや、そもそも狼男がいる時点で相当恐ろしいクラブだ・・・。


あれ? でも・・・6人? 部長の朱魅さん、僕、銀治君、絵里香さん、黒木美佐さんで・・・5人じゃないだろうか? その答えは放課後、部室に顔を出したときに判明することになる。

 




 僕と銀治君は本日の授業が終わると部室に向かった。彼の、槍で受けた傷や蹴られて出来た傷はほとんど治っていた。狼男は回復能力が人間とは比べることが出来ないくらい早いと言う事だ。銀治君を怖がっていた時から24時間しか経っていないと言うのに、僕達はすでに気軽に話を出来るような仲になっていた。


 北校舎三階に着くと、ざわついた様子があった。見ると、僕たちの部室の前に、小太りの男やら、ただ伸ばしてみましたというような不揃いなロン毛の男達が張り付いている。中には、『萌え』と書かれたピンクのTシャツを着た男もいる。


「なんすかあれ・・・。掃除してきましょうか?」


「・・・待って」


 僕は首をコキコキと鳴らしながら歩いていこうとする銀治君を止めた。ひょっとしたら入部希望者かもしれないと思ったからだ。


「少しだけ見ていよう」


 僕達は廊下の柱に身を隠してその様子を観察することにした。




「小里ちゃん・・・萌えぇぇ! どうしてそんな変な部に行っちゃったんだよぅ」


「同人部に戻ってきて欲しいニダ!」


「漫画は僕達と一緒に書いたほうが楽しいジャマイカ!」


 僕と銀治君は顔を見合わせて首を捻る。微妙に・・・おかしい日本語をこの人たちは使っているような・・・?


「え・・・絵里香女史ナリ!」


 彼らは僕達とは反対側の廊下の先を凝視している。パーマがかかった茶色の髪をなびかせて、細身ながらスタイルの良い女の子が歩いてくる。顔は少しきつい印象を与えながらも、その瞳に吸い込まれそうな魅力的な顔立ちだ。女王様と言った感じか・・・?


「どきなさい! 豚共!」


 本当に女王様だった。絵里香さんはドアの前に立っていた小太りの先輩のお尻を蹴った。彼は校章の色からして三年生だというのに、嬉しそうに体をくねらせている。


「変態ね!」


 その言葉を受けて涙を流している人もいる。・・・本当に変態だ、間違いない・・・。絵里香さんは蔑んだ視線を男達に向けながら教室に入って行った。それを名残惜しそうに見ていた男達だったが、再び廊下の奥へ視線を向ける。



「み・・・美沙ちゃんだ! 萌えぇぇぇぇ」


 今度は顔にかかっている長い前髪を掻き揚げながら歩いてくる女の子がいた。チラリと見える濡れた唇には僕も鳥肌が立った。身長は170cm近くあり、体に凹凸はすくないが、モデルのようにスラリとしている。


「避けて・・・くださいませんか?」


 彼女が微笑みながらそう言うと、豚共・・・、いや、失礼。先輩方はよだれを袖で拭きながら道を開けた。笑顔を振りまきながら黒木美沙さんは教室に入る。


(えぇぇぇぇぇ。銀治君・・・あれ・・・・)


(俺達の時と全然違うっすよねぇ・・・)


 どうやらこれで中には、小里ちゃん、絵里香さん、美沙さん・・・と、おそらく朱魅さんもすでに中にいる事だろう。それに僕と銀治君。合計6人。足りない一人は小里ちゃんだったのか・・・。同人部から引き抜いたのだろうか?


 僕達は廊下の影から出て部室に向かって歩く。その途中、豚共・・・、いや、失礼。先輩方はうらやましそうに僕達を見る。確かに美女ばかりでかなりの優越感を感じる。・・・と、言ってもかなりの確立で人間では無いのだが・・・・。


「こんにちはー」


「ちわーっす」 


 やはり中にはいつもの玉座に座っている朱魅さんがいた。しかも、どこから持ってきたのかその両脇に玉座が増えており、合計3つの玉座に左から、絵里香さん、朱魅さん、美佐さんと座っている。小里ちゃんはその奥で一般的な生徒用の椅子と机で、おそらく漫画でも書いているようだ。


いつやったのか、今日は教室中に絨毯が敷き詰められており、僕と銀治君は座布団無しでそのフカフカの上に座る。よく考えると、この教室の様子はかなり珍しい光景なんじゃないかと思う。


「朱魅さん、小里ちゃんは隣の部から引き抜いたんですか?」


「いや、小里は昨日からうちの部員だぞっ。同人部には情報収集に行かせていたんだ!」


 小里ちゃんは奥の席からシャーペンを僕に向かって振って笑っている。その小柄な愛くるしい姿に僕も「萌え」と言う言葉が頭をよぎってしまった。しかし、ふと今日の朝の会話を思い出す。まさか・・・この小里ちゃんも・・・?


「あの・・・もしかして・・・。小里ちゃんも・・・人間じゃないのでしょうか?」


「もちろんそうだ!」


 答えた朱魅さんの後ろで、小里ちゃんは僕に向かっていたずらっぽく小さな舌を見せる。・・・もう人間じゃなくても構わない! そんなことを思わす仕草だった・・・。


「小里は座敷童子だぞ。この部活の金運上昇間違い無しだなっ」


「ざ・・・ざしき・・・。って、あの・・・田舎に住んでいる妖怪・・・」


「上京して来たそうだ」


 どうやら、このクラブで僕は唯一の人間のようだ。朱魅さんと美沙さんの正体はまだ聞いていないが・・・二人とももちろん人間とは思えない。・・・僕・・・食べられないだろうか? 非常に心配だ。


「まだ、学校には誘いたい者もいるのだが・・・、とりあえずはこの6人でやっていこう!」


 まだモンスターがいるのかよっ! 僕は心の中で朱魅さんの言葉に突っ込んだ。そんな僕を見ながら朱魅さんはクスクスと笑っている。


そもそも、彼女はどうして僕を副部長に選んだのだろうか? たまたまクラブを申請するときに人手が必要だったから? なら僕はもういらない子のような気もするんだけど・・・。


「ではこの部の重要人物、人間である副部長から挨拶があるそうだ」


「えっ! ぼ・・・僕っ?」


 慌てて立ち上がる。まさか・・・僕の心の中を朱魅さんはのぞいた訳じゃないよ・・・ね?


「えーと・・・。お金稼ぎも良いのですが、出来るだけ人の役に立ちたい部にしたいとも思っています。とりあえず・・・悪い人を減らしていけば・・・正直な人は報われるというような世界になるんじゃないかなーって思います。ご協力お願いします」


 僕が頭を下げると拍手と声援が飛び交う。


「さすが太郎さん! 協力させてくださいー!」


「太郎さんかっこいいですー」


「血ぃーすわせろー!」


「槍で突かせろ」


 最後の二つは少し違う感じもしたが・・・。



 みんなが静まると、朱魅さんは笑顔で玉座から立ち上がって言った。



「では! 物語の始まり・・・はじまりぃ!」






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