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プロローグ5 太郎と美沙




 焼き切れた回路が修復された後、僕は通学中ずっと考えていた。銀治君が狼男なら・・・それを倒した朱魅さんは・・・一体何者なのだろうか? それも怪我一つ無く・・・。いや、相手が女の子だからって銀治君は手を抜いたとか? でも、狼男にそんなフェミニストな部分なんてあるのか? そもそもメスの狼男っているのか? あっ! 銀治君のママはメスの狼男? いや、狼女?


「おはようです、田中さん」


 そんな僕の肩を叩く女の子がいた。ただでさえ女の子に話しかけられることが少ないのに、頭をフル回転させている時だったので危うくショートするところだった。


「あ・・・えっと・・・。三河・・・さん?」


 昨日、僕を部室まで連れて行ってくれた同じクラスの小柄な女子、三河小里さんだった。


「小里で良いです」


「あ・・・じゃあ僕も太郎で・・・。田中も太郎もどっちもありがちなんだけど・・・。アハハ」


 僕は震える唇で笑った。女子と登校なんて・・・、偶然出会ったとしても、僕には初めての事だった。・・・何を話せばいいんだろう・・・?


「き・・・昨日はびっくりしたよ。銀治君が狼男だったから・・・」


 自分にビックリした。いくら緊張したからっていきなりそんなトップシークレットを話していいのか? それよりも急にそんな話をされて、普通の子が信じる訳がないだろっ!


「そうなのですか」


 小里ちゃんはそんな俺に笑顔を向ける。・・・ってなんでそんな返事? あっ! 突然おかしな事を言い出したから何かのネタかと思って話を合わしてくれているのかな・・・。


「あはは・・・。驚かないんだ・・・。もしかして・・・小里さんもそんなのあったりして?」


 うわぁぁぁ。なんて事を言い出すんだ! この口っ! この口めっ! 自分の女の子への免疫の無さに愕然とする。頭がピーク時の1%しか動いていないようで、思いついたことを検討することも無く口を付いて出る。


「・・・・」


 って小里ちゃん! どうしてそこで否定しない! 僕を哀れんでかける言葉が見つからないのか?


「ま・・・まあそれはともかく・・・。朱魅さんが部員を増やしたがっているんだ。えっと・・・良い人いないかなぁ?」


 ようやくまともな会話が出来たような気がする。完全に気がふれた男を払拭できるほど完成度の高いものでは無いが・・・。


「うーんと。太郎さん達の部活にぴったりの人と言えば・・・。昨日、同人部の先輩に聞いたんですけど、二年生の八代絵里香って人が良いかもしれないです。結構変わっているって言ってましたです」


「変わっている?」


 ダメだ。完全に変人と僕は思われてしまったようだ。小柄で黒髪、清楚な感じのこの小里さんは第一印象で結構気に入っていたんだけど・・・。


 気落ちし、うなだれながら歩く僕に話しかけてくる能天気な声があった。


「ちぃーっす。太郎さん! 今日もいい天気っすねー」


 陽気な狼男、銀治君だった。昨日からかなりキャラが変わっているような・・・。


「俺、さっき電車の中で面白い噂聞いたっすよ! なんでも同じ一年の黒木美沙って女! 変な奴だって噂っすよ。入学二日で変な奴とか言われるってどんだけっすかねぇ? わはは!」


 僕達も多分相当だよ・・・。その言葉は言わずに飲み込んだ。


「んで、そんな友達の少なそーな奴なら簡単に勧誘出来る気がしません? ただでさえ、ウチの部って活動方針が変わっているかもしれないから、変な奴じゃないと入ってこないと思うんすよねぇー!」


 変な奴じゃなきゃ、狼男がいるような部からすぐ逃げ出しちゃうよ・・・。その言葉は言わずに飲み込んだ。


「早速昼休みにでも誘いに行きましょうよ!」


 そこで僕の頭には選択肢が二つ出た。



 どっちを誘う?


1 八代絵里香二年


2 黒木美沙一年



 とりあえずは同級生ということで声のかけやすい、黒木さんの方へ行くことにした。





 昼休み。僕達は黒木さんを勧誘しに行くため、急いで弁当を平らげた。驚いたことに、銀治君の持ってきていた弁当は彼に似つかわしくない内容で・・・と、言うより、狼女が作ったとはまったく思えないような愛らしい弁当だった。まあその話はまたの機会にするって事で・・・。


 僕達は教室を順に回り、いくつか目で黒木さんのクラスを突き止めたが、彼女は不在だった。まだ学校が始まって三日、クラスメートも彼女が学食に行ったのか、それとも遊びに行ったのか分からない様子だ。


「どこ言ったんすかねぇ・・・。学食にいないとなると・・・」


 僕達は食堂を探し終え、戻って来て中庭を歩いていた。黒木さんの顔を写真で見たわけではないが、クラスの子に聞いたような風貌の女の子はここにもいないようだ。


キョロキョロと辺りを見回しては歩く。移動した先でまたキョロキョロとする。といった感じで進む。ふと、僕は何かの気配を感じて顔を上げた。


「ぎっ銀治君! あぶ・・」


[ガシャンッ!]


 言い終わらないうちに、目の前の銀治君の頭の上で植木鉢が木っ端微塵になった。


「いっ・・・てぇ! 誰だぁ!」


 痛いですむ銀治君で良かった。普通なら即救急車で運ばれないといけない所だ。そう考えると共に、やはり昨日は幻を見たわけでなく、銀治君は本当に狼男なんだなと改めて実感する。


「どこだぁこらぁ!」


 銀治君は飛び上がった。僕が顔をあげると、すでに学校の屋上で顔を動かしている。・・・そうか、昨日あっという間に飲み物を買って来れたのは・・・窓から飛び降りて、また飛び上がって部室に戻って来たからか。・・・と、普通理解できないところで納得できた。


「いないっすわ・・・。誰の仕業っすかね? 俺が狙われたのか・・・それとも無差別だったのか・・・?」


 銀治君は戻ってきて、頭をさすりながらそう言う。もう一度言わせてもらう。当たったのが彼で良かった・・・。



「私を探しているみたいね。何の用?」


 突然、声をかけられる。気がつけば僕達の目の前に女の子が立っていた。一体いつの間に・・・? 彼女は身長が僕とほぼ変わらないくらいの女子としては長身だ。それに長い黒髪にワンレングスのような前髪。聞いていた通りの容姿。彼女が黒木美沙さんだ。


「銀治君・・・」


「あれが美沙って子っすね。確かに独特の雰囲気があるっすね・・・」


 彼女を中心に、辺り一帯が不思議な空気で満ちている感じがする。闇・・・をまとっているとでも言うのか・・・? そんな気がした。


「えっと・・・。新しい部活を作ったんだけど・・・黒木さん入らないかなぁって・・・」


 ここは平部員の銀治君より副部長の僕が誘った方が良いだろうと、勇気を出して声をかけた。


「へぇ・・・。私を誘ってくれるの? ・・・なかなか怖いもの知らずよね。そんな珍しいことされちゃ・・・空から槍が降ってきそうだわ・・・」


「槍・・・はは・・・」


 非常に稀なことをされたとき、そう言う言い回しをする。僕も中学生のときに勉強したからそれくらいは知っている。彼女に愛想笑いを返した・・、その時、


[ザンッ!]


 気が付けば目の前に一本の棒が立っていた。それは軽く左右に揺れ動いている。


「やばいっす! こ・・・今度は・・・植木鉢じゃなくて・・槍っ? 危ないっ! 太郎さん!」


 銀治君はその大柄の体で僕を掴み、小脇に抱えるとすばやくその場所から跳び退いた。


[ザザンッ!]


 すぐにさっきの場所に数本の槍が突き刺さった。


「銀治君! 腕がっ!」


「大丈夫っす! とりあえずこの場は・・・逃げましょう!」


 狼男のジャンプ力により、三歩で中庭から校舎の中へ僕達は飛び込んだ。


「なっ・・・何あれっ! や・・・槍が・・・」


「非常にやばいっす。あれも人間じゃないどころか・・・かなり危ない奴ですよ・・・」


 銀治君は槍がかすって腕に受けた傷を舐めながらそう言った。


「ど・・・どうなってるの? この学校って・・・」


「不思議っすねぇ。俺もこの歳まで人じゃないものなんて自分とその家族しか見たこと無かったんすけど・・・。この学校に来て3日で二人目っすよ・・・あれで・・・」


「・・・ふ・・・二人目? じゃあ一人目って・・・?」



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