最終話 太郎は太郎5
「はっ!」
目を開けた僕の目には天井が見える。そして、朱魅さん、銀冶くん、絵里香さん、美沙さん、小里ちゃんの心配そうな顔が見えた。
「・・・夢?」
そうつぶやいた僕の耳に、とても夢とは思えない大声で、僕の鼓膜を揺らしてくる男がいた。見た目ヤンキー、中身は野獣。でも、実は良いやつの狼男、銀冶君だ。
「太郎さんが目を覚ましたぜっ!」
「さすがは・・・特別な人間・・・ね」
そう良いながら僕のおでこを撫でてくれるのは、茶髪で明るい美女。脱げば18禁、怒っても18禁。いつも世話を焼いてくれる絵里香さんだ。
「残念だ。亡者の一人に加えようと思ったのにな・・・」
おそらく本気でそう言っているのは、黒髪のミステリアスな美女。ツンデレではなく、ツンの部分しかないドSな美沙さんだ。
「小里の冷凍睡眠装置を試すチャンスを逃しましたですー!」
どこぞの怪しい施設から無断で持ってきただろう装置を叩きながら(もちろん見えない)言うのは、肩で黒髪を綺麗に切りそろえた日本人形のようにかわいい、少しずれた礼儀正しさを持つ小里ちゃん。
そしてもう一人、毛先に内巻きのパーマをかけているしゃべらなければおしゃれでかわいい女の子。天然って言葉じゃ収まらない朱魅さん。全員そろっている。
僕は体を起こす。寝ていたのはいくつか並べた教室の机の上だった。
「学園祭・・・は夢だったんですか?」
「なわけないでしょ! 太郎さん! 売り上げは165万5千円っすよ!」
・・・・ここは普通、夢落ちでしょ・・・。しかし銀冶君は嬉々として即答した。ならおかしな事がたくさんある。魔界と繋がった教室や、お化け屋敷風に改装をした教室は朱魅さんが元に戻したとしても・・・、
「銀冶君・・・君、死ななかったっけ?」
「やだなぁ、太郎さん! 俺が死ぬ訳ないでしょ! 燃えた制服も、今日の売り上げでよゆーで買い直せますよ!」
良く見たら銀冶君はジャージ姿だ。
「あのねぇ、太郎。私や銀冶は不死族だっていつも言っているでしょ? 特定の手順を踏まなきゃ、死ぬ訳が無いわよ!」
絵里香さんも、着ていたメイド服は燃えてしまったようだが、制服に着替えなおしている。
「あ・・・。そういえば・・・、そうだったのか・・・。もう夕方、回復したって事ですね・・・。早いなぁ」
「育ち盛りだからっ!」
二人は声をそろえて僕に向かって言った。しかし、それで二人の謎は解けても・・・一番大きな問題が残っている。
「あの・・・僕は不死族じゃないんですけど・・・。どうして生きているんでしょうか? 足もあるし・・・?」
僕は机の上から足を下ろし、教室にみんなと同じように立った。・・・確かに・・・・、僕の下半身は燃えて炭になったはずなのに・・・?
「ある意味、太郎が一番死なないからなっ!」
朱魅さんがいつもの笑顔でそう言うと、銀冶君が、
「太郎さんが一番、超生命体っすからね! さっき朱魅から聞きました! さすがっすねぇ。最初から太郎さんは何か違うと思ってたんすよぉ・・・」
「・・・えっ? 僕が・・・超生命体?」
周りのみんなは、何か含みを持たせたまま笑っているが、何も言おうとしない。
「どういうこと? 僕って・・・やっぱり普通じゃないの? 実は・・・妖怪とか・・・。あっ! もしかして、とっくの昔に死んでしまった幽霊だったとか・・・?」
「いやっ! 生きているっ! 太郎は超生命体の『オリジン』だからなっ!」
・・・・相変わらずな朱魅節? オリジンって・・・なんだ? そんな名前の弁当屋さんか惣菜屋さんがあったような・・・?
「それで、オリジンってなんですか?」
僕はどんなに考えても、美味しそうなおかずしか浮かばないので、繰り返し質問をする。
「オリジンとは、この世界を作った超生命体だ。世界はオリジンを中心に成り立っている。それ以外のものは、オリジンが夢見た幻だ。空想の中の物とも言える」
「はぁ・・・。神様みたいなものですか?」
「神ではない。神すらも・・・太郎、お前が作り出したものだ。太郎が夢見た事が現実となっている。地球が生まれ、生命が誕生し、恐竜や人間の祖先が生まれ、文明が始まり、現在にいたるまですべて太郎が進めてきた事だ。私は地球を作り出した神の一人とされているが、ただのお前の空想だ。本当は太郎が作っている。そして、お前は自分が作り出した物語の、その中の一人の人間として楽しんでいるのだ。生まれては死に、生まれ変わりまた生活を送る。唯一無二の存在、それがお前、オリジナルの人として存在する太郎なんだ」
「オリジナルの人・・・。それでオリジン? ・・・そんなまさか・・・? 僕には何の能力も無いですよ・・・」
「おかしいとは思わないか? この世界が。太郎を中心に特殊な力を持つものが自然に集まり、太郎の周りに不思議な出来事や事件が起こり、太郎を退屈させる事がない。覚えてないか? 最初の事件。お前が見回りに行くたびに不法投棄の業者が現れる。すべてお前が作り出した物語なんだ。漫画などの作者、小説などの筆者と考えても良いかもしれないなっ」
「あっ・・・。そういえば・・・・、それはずっと疑問でした・・・。朱魅さんはどうしてか僕に見回りに行けと・・・。僕が行かない日はなぜか悪い人が現れないってのを朱魅さんは知っていたようですけど・・・・、つまりそれってそういう事だったんだ・・・。いや・・・、でもそんな・・・信じられない・・・。でもどうして朱魅さんは僕がオリジンだって事を知っているんですか?」
「私は一応神だからな。多少は知っている。まあそれも、オリジンたるお前がそういう設定にしているからだ。もちろん、そうした事は太郎の記憶には一切残っていないだろう。残っていたら普通の人間として生活が出来なくなるからな!」
「・・・それじゃあ・・・? さっき朱魅さんが僕を治せないって言ったのは・・・、神様にでも人の命はどうにかできないって訳じゃなくて・・・」
「そうだ、オリジンのお前が死の設定にしているのであれば、私にはどうにも出来ない。しかし、お前がこの物語を終わらせる気が無いのであれば、太郎は死ぬ事が無い。あるいは・・・・、太郎の気が変わって物語の続きを見たくなったのかもしれない・・・がな」
「オリジン・・・・。オリジン・・・・。そういえば・・・どこかで聞いた事があるような・・・。でも・・・、僕は自分でオリジンと知ってしまったなら・・・普通の人間と違うってのを気が付いたとしたら・・・。この先普通の生活なんて・・・」
「・・・・・・・・・・・」
うつむく僕に誰も声をかけてこなかった。それどころか、誰の存在も感じない。顔を上げると、教室にみんなはいなかった。僕一人だ。窓の外からは鳥の鳴き声も車の音も聞こえない。先ほどまで聞こえていた、学園祭の後片付けをしているような生徒の声や物を移動する音も聞こえない。まるで・・・NGを出してしまったから、カメラが止まった・・・かのようだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
思い出した。僕はオリジン。いや、思い出したんじゃない。今すべてを知った、知っていた。全知全能、すべてを知り、すべての物事を行使出来る生命体。それが・・・僕。
しかし、仕方が無い事なんだが、朱魅さんは少し思い違いをしている。オリジンとは、僕だけを指す言葉ではなく、僕のような種族全体を指す言葉。そう、僕はオリジンと呼ばれる種族の一人。オリジンは人間と同じく、種族で固まって生活をしている。
しかし、稀に僕みたいに違う次元に一人ぼっちで生まれてくるオリジンがいる。そのオリジンは、自分の周りに世界を作り出し、そこで生活を始める。それは、意識して行うのではなく、今の僕みたいに、本能のような感じでするのだ。短い人生を生き、そして生まれ変わりを繰り返して何度も一人の人間として生きる。僕以外の人間はすべて生まれ変わるのではなく、僕によって新しく作り出されているのだ。
何度も言うが、意識して行っているのではない。・・・・だが、意識して行っているとも言える。それこそが全知、すべてを知っているからだ。
生命が初めて生まれた頃から僕は生きている。もちろん、この先の地球の未来出来事も良く分かっている。それは、大筋が決まっているからだ。どうして決まっているかって? 実はそれだけは知らない。どうして大筋が決められているかは分からない。もしかすると、オリジン全体の意志として封じられているかもしれない。
なぜ封じられたか。僕は思う。はぐれて生まれてきた僕のようなオリジン達は、どうしてか似たり寄ったりの世界を作り上げる。それは、パラレルワールド、平行世界とよばれる。
地球を作り上げ、人間を作る。多少の歴史の違いはあるが、平行世界と呼ばれるように、それほど違いは無い。僕のように、望めば・・・・高校生活を楽しく、おかしな仲間と過ごす同胞もいることだろう。
この・・・・人類を作り上げて同じような世界を作っていくという事は・・・オリジンの太古の記憶じゃないだろうか? だから本能的に、僕みたいな一人ぼっちのオリジンは、地球のような世界を作り上げ、そこで過ごしたくなる。オリジンとは・・・・人間が、地球人がこのまま進化を続け、何千年・・・、いや、何億年、気が遠くなるほどの後の姿なんじゃないだろうか? そして・・・地球を懐かしむ。
・・・いつか同胞に会えたときにこの質問の答えを聞いてみたい。しかし・・・・僕はこの地球を今は離れるつもりはない。
願わくば・・・・
もう一度・・・・
仲間と・・・・
物語の続きを・・・・
「太郎っ!」
「はっ! ・・・はい?」
「何を書いているのだ?」
「えっと・・・・、漫画を描いている小里ちゃんに習って、僕は小説でも書いてみようかと・・・。絵を書く才能はまったく無いので・・・」
「ほう、どんな小説だ?」
「自分を特別な存在と気がつかず、その特異点たる自分を中心に、面白おかしい高校生活を送る・・・みたいな物語にしようかと・・・」
ここはいつもの部室。今日は僕が来てみると、まだ誰も来ていなかった。いつも一緒に来る銀冶君は、食堂の物を壊してしまったとかで先生に放課後呼び出されている。
僕はかねてより考えていた話を文章にしてみようかと、集中して書いているところで不意に後ろから朱魅さんに声をかけられたのだ。
「そうかっ! しかしそれは後回しだっ! 実は東京の多摩でツチノコの目撃情報が入ったのだ! 四国や東北まで探しに行ったというのに・・・、まさかあんな近場にいるとはなっ!」
「えぇ・・・。またガセじゃないですか・・・?」
「見つけたら一億だぞっ! 一億!」
朱魅さんはどうしてか腕をぐるんぐるん回しながら、その場で足ふみをしている。
「ツチノコは夜行性だっ! 今から言って一晩中さがすぞっ!」
「ひっ・・・一晩中・・・。明日も学校ですよ・・・朱魅さん・・・」
「学校で寝ればいいっ! 行くぞっ! 太郎!」
朱魅さんは僕の手を引き、ぐいぐいと廊下に向かって引っ張る。今日はその手が妙に暖かく感じた。
「たまらんっすよ太郎さん・・・。ちょっと自販機を壊しただけで・・・。お金入れて出ないあのポンコツが悪いんすよねぇ? ・・・あれ? どこ行くんすか?」
教室のドアが開き、銀冶君が顔を出した。・・・と思ったら瞬時に姿を消し、次に絵里香さんと美沙さんが現れた。廊下では壁にぶつかる音と共に銀冶君の叫び声が聞こえた。
「何しているのあなた達。二人でどこかへ遊びに行く気? 部活内恋愛禁止よ」
「逢引というやつか?」
絵里香さんと美沙さんは、顔を真っ赤にして否定する僕を見てクスクスと笑っている。
「ちょっとツチノコの情報が入ってな。今日は徹夜で多摩を探すぞ。お前達はどうする?」
「行くわよ!」
「行くに決まってるだろう!」
絵里香さんも美沙さんもまたどうしてか腕をぐるんぐるんと回し始めた。教室の外からは「俺もいくっす・・・」と、弱弱しい銀冶君の声が聞こえてくる。いつの間にか後ろにいた小里ちゃんも両手をバンザイのように上げて飛び跳ねている。
「それじゃ、満場一致でツチノコ探しにしゅっぱーつ!」
腕を上げて教室を出て行く朱魅さん。満場一致って・・・、大抵僕は一人で反対しているんだけど・・・。しかし、いつものように僕はついて行く。なんだかんだで実は僕も楽しかったりする。
「多摩だから、電車で行くかな?」
学校の外に向かいながらみんなは交通手段や晩御飯、おやつの話を始める。
「あの・・・朱魅さんには時空をつなげる力があるんですから・・・、多摩とここをつなげてみては?」
「・・・・はぁ?」
後ろで小さく声を出した僕を全員が振り返って見た。
「何を言っているのだ、太郎。時空?」
「はっはっは! さすが太郎さん! 面白いっす!」
「太郎、疲れているなら今晩添い寝してあげるわよ?」
「おかしな物でも食べたのか? 太郎よ」
「太郎さん! 面白いです!」
・・・・・・・・・・・・・。しまった。それは僕がさっきまで考えていた小説の話だった・・・・。
「す・・・すみません! ちょっとボケてました!」
全員笑いながら階段へ向かった。だが、廊下の先に道を塞ぐように一人の女子生徒が立っている。
「こらぁ! あなた達! また怪しげな事をはじめる気ですわねっ! 私の目が黒いうちはそんな事絶対させませんわよ!」
金髪で碧眼。あなたの目は思いっきり緑色ですよ・・・会長さん・・・・。おなじみ、僕達の部活を監視することに全力な生徒会長の実花さんだ。
「うるさいわね。そんな事言って、あなたも分け前欲しいんでしょ?」
つかつかと歩き、会長さんの前に絵里香さんは立って小さく笑いながらバカにしたように言った。
「なっ・・・何なのです、分け前って! やはりあなた達怪しい事をするつもりですわねっ!」
「今日は茶華道部をお休みにしました。私もみなさんとご一緒したいです」
会長さんの後ろに、いつの間にか雪奈さんが立っていた。
「それじゃ、全員でしゅっぱーつ!」
朱魅さんはまた右腕を上に向かって突き出して、先頭を歩いていく。その後ろをぞろぞろと僕達は歩き、普段別の部に所属している雪奈さんも一緒に来る。
「まっ・・・待ちなさい! わ・・・私はあなた達を監視するって仕事がありますのよ! 決して・・・一緒に遊びたい訳じゃないんですからっ!」
会長さんはぶつぶつと何かを言っているが、絵里香さんに軽くあしらわれている。
ああ・・・本当に楽しい高校生活。今日も何かが起こり、明日もきっと何か面白い事がある。
僕は軽やかに歩くあまり、スキップしそうになる足を抑える。
「・・・・・・ん?」
おかしい。どうしてか・・・制服のズボンが・・・、いや、それだけじゃなく、上履きまで綺麗だ。まるで・・・・新品のように見える。立ち止まって、少しズボンの裾を上げてみると、靴下までも今履き替えたかのように真っ白だ。
「どうした? 太郎、行くぞっ!」
朱魅さんは振り返って笑顔で僕を手招きしている。
「太郎さんがいなけりゃ始まりませんって!」
銀冶君は僕にこぶしを見せて期待をこめたまなざしを向けてくる。
・・・まったく。どうしてなんだ。僕なんてみんなに比べたら何も出来ないってのに・・・。
けど、そんな僕を誘ってくれるみんなに感謝している。みんなが・・・この部活が・・・・、朱魅さんに会わなければ、僕の高校生活なんてひどく色あせていたものだろう。
「ちょっと待ってくださいよ! 今日は・・・今日こそは僕がツチノコを見つけて見せますからっ!」
その僕の言葉を皮切りに、「俺が」「私が」とみんな騒ぎ出す。
僕の楽しい高校生活は、きっとまだまだ続く。
もちろん、僕だけじゃなく、みんなも・・・一人ひとりが協力しあうことで・・・。
「終わりです!」
著者 田中太郎 タイトル 『僕の高校生活』
おわり
読んでいただきありがとうございます。
この話に出てくる『オリジン』。
実は私の小説にたびたびそれを匂わす話があったりします。
私の作品は、殆ど同じ世界で同時に起こっている事として作られています。学校やその周囲の地形も同じです。
今回、その『オリジン』に深く触れたのが、この『太郎のきわめて普通な高校生活』でした。




