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俺と大いなる運航

これはひどい

 栄光と幸福がそこにあった。

 

 5年前のあの日、世界を救うという大きな責任を背負い、俺は旅立った。

 世界を支配せんとする巨悪との戦いは、また同時に守るべき人間たちからの無理解との戦いでもあった。

 それでもあきらめず、一歩一歩を確実に、時に大胆に踏み出して、わずかながらの協力者とともに前へと進んでいく。

 今ではかけがえのない仲間となった彼、彼女たちだが、過去には何度も諍いを起こしたこともある。

 卑劣な敵の罠に陥り、殺し合いの一歩直前にまでなったことすらあった。

 それでも、俺たちは前へと進んでいった。

 正しいことを信じたそれをなすために、時には間違い、後悔にさいなまされ、また人々からの感謝によって、歩むべき道が正しいと確信もした。

 

 そしてついに戦いは終わり、世界は平和へと導かれる。

 

 

 英雄の帰還の途を聞いて国内外を問わず人々は沸いた。

 

 

 俺が手を振れば、民はみな大声で俺たちの名を叫び、そして歓声を上げてくる。

 俺の隣にいる、生涯を共にするであろう少女が微笑みを向ければ、祝福の声が飛んだ。

 政治的な立場や問題で、今ここにはいないが、他にも愛する少女、美女たちはいる。

 自分を兄と慕う娘もいれば、ライバルともいえる悪友もいる。

 

 

 この物語は俺という英雄によって、たしかなハッピーエンドへと続いていた。

 

 まさに、「最初」の俺が望んでいたとおりの冒険譚であり、甘い恋の物語であり、賞賛を浴びる俺マジかっけーな状態で終焉えとつながるのだ。

 

「…さ、ま……――様!」

「あ、ああ、君か。ごめん、呆けてたみたいだ」

「もう、ほら、民のみんなの前で、もっと手を振ってあげないと。この後は、私たちの結婚式だってあるんですからね」

「そうだね、ようやく、穏やかで幸せな生活がおくれるんだものね」


 だから、今はこの歓声に、素直に喜びを甘受しよう。

 

 

 ……そうだ、あの神野郎をぶんなぐるのは、ちゃんとこの世界を生き切ってからだ。

 

 殺す。

 殺す。

 絶対に殺す。

 もはや数えるのもばからしいくらいに何度も叫んだことだが、絶対に殺す。

 

 

 ああそうだな、確かにこの世界はいわゆる剣と魔法のファンタジーもので中世ヨーロッパぽいところでちゃんと俺と同じ人間がいて女もいて(過去に男のみで女のいない世界があった。泣いた。マジ泣きした)、俺いろんな漫画やゲームの能力もってチート状態俺TUEEEEでさらにヒロインがかわるがわるなほぼハーレム状態で男にも熱い友情やら信頼やらで慕われたりしてやっぱチーレム最高とか俺の常識外(ルビを振るならイレギュラーとかマジかっけー)の能力に他の人々が口々に「なっ!?」とか連呼してきて(何っ!ではなく「なっ!?」であることが重要)、俺はといえばどうせ最強能力で「もう、なにも怖くない」状態なのに適当なそれっぽい障害があったら「っく!」とかいっちゃったり他にもお約束テンプレつゆだくお変わりだったけど。

 

 

 だからってこれはない。

 

 これはないだろう。

 

 

 

 

 「世界を救った勇者様ー!ばんざーい!」

 「勇者チンコ・ブーラブ・ラ様、ばんざーい!」

 「姫巫女オゲレツ・キンター・マクッサクッサー様に祝福を!」

 「ギルド・デーケーコーモンに栄光を!」

 「勇者様の腰にあるあの剣……あれが伝説のインキンカユカユか。なんという神々しさだ」

 「いやー、これで我が国も安泰だな」

 

 

 これはひどい。

 

 

 そりゃ言語体系が違うんだから、固有名詞がこんなのだってしかたないだろうけど。

 チンコは古い言葉で「勇ある者」って意味だし、オゲレツは「心の美しさ」って意味だけど。

 

 魔王の名前が「セキユ・ハァン・ヒータ」だったと知ったときは笑い死ぬかと思った。

 だけど自分の名前がチンコなので自己嫌悪で死にたくなった。

 

 

「さあ、チンコ様、王城が見えてきましたよ!国旗を掲げて私たちを待っています!」


 そういってオゲレツちゃんが指差すその先には、我らが王国のシンボルが描かれた国旗があった。

 


 

 昔の漫画に出てくるような、あのとぐろを巻いたあれ。

 なぜかピンク色であるため、どこぞの国民的漫画――の前作であるメガネっこアンドロイドのほよよでんちゃでおはこんばんちわな作品に出てくる、アレにそっくりだった。

 


 ダー・イベン王国

 

 国旗デザインがどうみてもウンコです。本当にありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んだよもおおおおおお!」

 

 「ぎゃははははは!あっひゃはははは!ぎゃはははは!」

 

 「今度こそ殺す!くらえ!今回の人生の中で覚えた究極破壊魔法!アフレデル・オトコジル!」

 

 叫びと同時に俺の脇の下から光り輝く光線が空間を裂いてやつを襲う。

 

 そして、ひょーい、とあっさりよけられる。よけながらポージング決めてるのがむかついた。

 

 「それにしても、ひどかったなあ」

 「送り込んだ貴様が言ってんじゃねーよ!」

 「だから細かいところはワッシもわかんねんだってば。たまたまそういう世界だったのよほんとに」

 「うそつけ!偶然であんなことになってたまるか!」


 彼女が最後の戦いで使った聖なる破邪の呪文の詠唱は、「ウフンイヤクスグッタイダメヨモウスグママガカエッテクルノトマーガレットハイッタノダガボブハゴウインニ……」だったし、竜王からの加護を受ける儀式は尻でフランスパンをはさみながら左手でボクシングをしつつ鼻をほじって「イノティウォダイズ二―」と三回叫ぶことだった。

 だが、あの世界の文化では尻にものをはさむのはとてもカッコいいポーズという美的センスのため、その姿が歴史書やはたまた子供向け絵本にも、さらには国立公園の銅像になる始末でだった。

 魔王城は魔王は魔王で大根を股間に指しながら魔将軍の頭にそれを乗せて「チョマゲ!チョーンマゲ」と朗々と魔界の祝詞をあげていた。

 俺たちに気付くと「くくく、ついに来たか勇者たちよ」と鼻眼鏡とロココ調のマントに黄金の刺繍で「まおう」とか書いてあった。

 俺は笑いをこらえるのに必死だったが、パーティの面々はその禍々しさ(に感じるらしい)に恐れおののいていた。この辺の美的感覚の差は、転生して向こうで育った俺でも一向に受け入れがたかった。

 

 

「普通でいいんだよ普通で!なんで毎回斜め上なのよ!普通に冒険者ギルドとかで異世界なのになぜかアルファベットでAランクとかBランクとか言ってればいいだろうがよ!使用言語が英語じゃないのにAランクの上がスーパーの略でSランクとかでも俺は文句言わないってんだよ!ホビットとかゴブリンとかエルフとかトロールとかだって伝承ではいろんな姿かたちがあるはずなのにトールキンの指輪物語に準拠したテンプレ乙だっていいんだよ!むしろその方がうれしいわ!」

「そういやお前、一回水木しげるVerの人食いエルフに転生してるもんなー」

「やかましいわ!」


 そういうやかなり初期にそんなこともあった気がする。

 あれ以来怖くて普通の人間以外の転生はあまりしなかったと思う。

 まあ、どの人生を送った[俺]も、後悔だけはしていないというのだから、俺はもしかしてものすごい懐の広い男なのかもしれない。

 さすがに何回かは例外的に二回繰り返した「俺」もいたが(虚無ま!の作品の中に入った時みたいに)、どれもころも「そりゃしかたねーわ」といわざるを得ないものだった。

 そもそも[俺」は何回目なのか、もはや覚えていない。千は超えたと思うが、万はいったのだろうか。

 そもそも記憶ではなく、記録の積み重ねのような感覚なので、何十万年生きている、といった実感はない。思い出そうとすれば、紙に書かれた事実を読み上げることができる、といった感じだった。

 ……だからこそ、精神が摩耗しないで「それ」にたどり着けたのかもしれないが。

 

「ひーははは!はっはは!はー……で。どうするよ、次は」


 神野郎のいつものセリフ。

 それを受けて、俺は改めていつものようにどうするかを考える――のが今までだったのだが。

 

「いや、もう暇つぶしは終わりだ」


 終わりにしよう。

 それが俺の結論だ。

 

「前回」の俺は、今回の俺で最後。そう決めていて、俺はそれに異論などない。

 当然だ。前の俺は今の俺とは別の存在となったとはいえ、今の俺は前回の俺を継続するものであり、次回の俺は「俺」じゃない。

 だから、この結論は[俺」の意思に他ならない




「ほう?ならば、ついに滅するつもりか?」




「いいや、お前を滅する。いつもの俺の突っ込みでも罵倒でもなく、事実としてそう言っている」」

今回じゃなくて次回最終回になってしまった



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