俺の自己満足と必要なこと
生じる鈍痛。
激しいブレーキ音。
手の中にある、暖かく柔らかな感触。
ごろごろと地面を転がって、俺は痛みに耐えていた。
現状を思い出して、すぐに確認するのは、腕の中の存在。
「だ、大丈夫?」
「ふ、ふぇぇぇ………大丈夫……ですぅ……」
小さなリボンをサイドポニーにつけた女の子が、涙目でそういった。
俺は、大きくため息をつくと、少女の手をとって一緒に立ち上がる。
「あ、あのう……大丈夫、でしょうか……」
声をかけてきたのは、小心者そうな男。トラックの運転手らしい。
あの粗暴な運転には似合わない、怯えた顔で、がたがたと震えている。
震えたいのはこちらのほうだというのに。
「……ええ、大丈夫、ですけれど、警察と救急車は呼んでください。この子の診察もひつようでしょうし、貴方も、このまま済ますわけにはいかないのは、わかりますよね?」
とくに脅すつもりは無いのだが、きつい言葉になるのは仕方ないだろう。
運転手は、こちらが無事だとわかり安堵し、「わかりました」と素直に電話をかけ始める。
……悪い人間ではないのだろう。
お互い、大事にならずに良かったと、俺もほっとした。
自分も大事だが、かといって相手の破滅を望んでいるわけでもない。
「おにいちゃん、ありがとー」
「おー、無事でよかったよ。おかあさんに連絡したいから、おうちの電話番号とか、住所とかわかる?」
「うん!ここに書いてあるよ!」
女の子は、胸のポケットにあった、迷子手帳を見せる。
こっちも、一安心だろう。
空を見上げる。
ようやく、自分にも震えが走り始めたが、自分は、生きている。
この子も生きている。
運転手は――まあ、交通違反で取り締まられるだろうけれど、事故にはならなかったのだから、そう大事にはならないだろう。
全てが、よく収まったと思う。
何か、大事なことを忘れている気もするけれど――
さりとて、今日も綺麗な五月晴れ。
そんな日には、明るい話だけがあればいい。
この女の子の笑顔に癒されて、家に帰ったら今日の俺の武勇伝を家族に語って、もしかしたら、後でちょっと表彰されたりするかもしれないと、俗っぽい期待をして。
いつかは、これも笑い話の思い出として語っていく。
そんな一生を、俺は、精一杯生きていこう――
「これで、満足、だったのか?」
「あー、これでいい。一度くらい、俺が『あの世界』……に限りなく近い世界で、普通に生きていく、そんなことがあっていい。……違うか、ある『べき』だ」
「……本当は、ソレで『お前』が終わっても、いいんじゃないのか?」
「うん、それも考えたんだけどね。それでも、やっぱり『知っている』俺には、その世界は偽りなんだよ」
「だから、ここでの記憶をなくして、事故の直前からつながる自分を、元の世界に限りなく近い世界のあの場面にいかせた、か」
「自己満足でしかないけどさ。きっと、この一回は、必要な一回なんだと、俺は思う」
「……本当に、面白い奴だよ、お前は」
「その台詞も、前までだったら、しみじみと受け止められたんだけどなあ……。俺の勘が当たってると、すっごく悲しくなるんだよな」
「なんだよ、その意味ありげな台詞。ワッシの台詞なんだから、もっとありがたがれや」
「へいよ」
さてさて、『次』はどうするか――
まあ、どうせこれは、こいつの『暇つぶし』
だけど、俺には一生懸命な、『暇つぶし』だ。
なら、全力で遊ぼう。
全力で、終わろう。
「よし、決まった――次は――」
そして、この話は、くだらない終焉へとひた走る。
とまれ、その終焉に向う前に、これだけは言っておかなければならない。
少女を救って、病院で親御さんに感謝されまくって、戸惑いと恥ずかしさで真っ赤になっている、『前』を見て――
じゃあな。グッバイ、『前』の俺――
次回で物語的には最終回ですが、
その後も「こんな世界があった」的な話が続く予定です
たぶん更新は1/28、29の土日




