幕間 トレジャーハンター
とある巨大な出版社があの〝エロまんが島〟を発見したなんて噂が流れた。
それ自体は珍しくない。
何度だってデマに出くわすことはあった。
噂の出所を探り、責任者を拷問でもしちまえば「世間からの注目を浴びたかった」だとかのたまう。
それの繰り返しさ。
けど今回は違うような気がしてならねぇ。
件の出版社は編集者の全員が自衛隊張りに武装しているイカレた場所だ。
しかも戦車やヘリコプター、はたまた戦争抑止力を有しているなんて言われている。
噂を聞いたすぐにそこの編集長を襲おうとしたのだがカタギではないような殺気立った睨みと服の中に隠し持っていた鞭で返り討ちにされてしまった。
そんな常識外れな場所から出た噂は少しでも真実味を帯びるってもんだろ。
トレジャーハンター、このハウパー・G・グンニルは狙った獲物は逃がさねぇ。
かの無人島を見つけ出し、オレのものにしてやる。
奴らのヘリを追い、見付からないようにボートでつけた。
島には男ひとり、女3人。ヘリはそのまま飛び立ち日本へ戻って行った。
そして夜になるのを待ち、オレも上陸する。
「〝エロまんが家以外の侵入を禁ず〟か。……ハッ。あほくせぇ」
注意書きにしては馬鹿げた看板を蹴り上げ破壊する。
あたりめぇだけどオレはエロまんが家じゃねぇ。ただの伝説のエロまんが家の秘宝を見つけ出しマニアに高値で売ろうとしているごく普通のトレジャーハンターさ。
ルールを守ってやるどおりはない。
茂った木々をサバイバルナイフで切って進む。
見たことねぇ植物ばっかだな、毒でもあったらたまったもんじゃない。
用心にこしたこたぁない、ガスマスク装備。
普通の島じゃねぇな。
ジャングルで6カ月潜伏したことだってあったが、こんな動物の遠吠え知らねぇし、ここまで冷汗はでなかった。
まるでおとぎ話のそれだ。ピーター・パンでも出てきてもおかしくない。
『汝、エロまんがを極めし者か?』
声。———急いで臨戦態勢に入る。
見渡しのいい場所に出たが、人は誰もいない。
不気味な花畑と、それを囲うように置かれた石造くらいだ。
『汝、エロまんがを極めし者か?』
その石造からの問いかけらしい。
なんらかの警備システムなんだろう。
しかしこの問いかけはなんだ。間違えたらスフィンクスのように殺されてしまうのか。
こういったものはいつの時代でも正直者が生き残ると決まっている。
「オレは違う。この島にいた歌川珍宝の秘宝を奪いに来たトレジャーハンターだ」
正直に言い過ぎたんじゃねぇだろうか。
石造の目は赤く光り、砂煙を立たせて動き出す。
『め……す……おちよ』
〝滅す、落ちよ〟とかか。
武力行使ってわけか。上等だ。オレ好みの展開じゃねぇか。
オレは頭脳より肉体派だ。見てみろこの胸筋のでかさをよぅ。
『メス堕ちよ』
「なに言ってんだテメェ!?」
奴らの持ってる武器も卑猥な形をしてるじゃねぇか。
武器全体がモザイクかかってることある?
そういうドットデザインかと思ったわ。
『この島のルールを守れぬ者に尊厳はない。快楽に溺れメス堕ちよ』
石造は5体。
デザインはそれぞれ違うがオレより数倍でかい。
力で負けるのは間違いない。
このサバイバルナイフで破壊できるとも思えねぇ。
しかも1体、武器の感じが違うんだよな。
液体入りの瓶。
毒か、それともこのふざけた名前の島にふさわしい媚薬の類か。
ここは逃げる。
図体がでかいせいで足は速い方じゃねぇが、石造ののろい動きに捕まるほどじゃねぇ。
股を抜けて脱兎のごとくってやつだ。
数十メートル離れて、「逃げ切った!」なんて勝ち誇った瞬間。
「———なっ!?」
バリンとガラスが割れる音。
石造が投げた液体入りの瓶がオレの背中に直撃したのだ。
液体が体に染み込むが痛みはない。毒ではねぇ。
このまま走って逃げる!
気持ちが乗ってきたからか体が軽くなっていく。
股の違和感と、胸筋のバランスが悪くなってきている気が……。
石造が辿り付けない場所まで逃げて、立ち止まる。
なんだ、なんか変だ。
股を探る、————ない。
胸筋を確かめる、————たわわに実っている。
「どういうことだこれ? —————……なんだこの声、やわなオタクどもがブヒりそうなアニメ声じゃあねぇか!?」
わけがわかんねぇ。
オレが女になっていた。




