第7話 エロまんが家は野宿が出来ない
「……これはいったい」
流石に無人島にやってきた初日でお宝発見なんて都合がいい展開があるわけがない。
支給された鞄には野宿に使う野袋/ライター/万能ナイフ/水筒/カロリーバー/エロまんが資料が数千冊ダウンロードされた電子タブレット/原稿用紙/Gペンを含む漫画筆記用具/謎の鍵がひとつ。
サバイバル初心者の初期装備にしては心許ないし、こんな食糧じゃ明日も空腹で過ごすことになる。
しかも原稿用紙があることを考えると連載を休ませるつもりはなさそうだ。
少年漫画と言えばGペンと考えていた俺はアナログで描くことに慣れているけれど、他3人の反応を見る限りデジタル執筆だった。
しかし俺たちが額から汗を流し、驚きで口をぱくぱくと鯉みたいな顔をしている原因はそれじゃない。
新築のような巨大な丸太家である。
センサーライトに監視カメラまでついている。
「〝歌川珍宝のエロまんが島伝説〟はいつの話じゃったかのう」
「ええーと、マンガの神様と同時期に活動してたエロまんが家ですから大体は40年くらい前からありますよね」
「鍵閉まってるよー。開かない。中に入って休みたいなぁ」
異質な場所って大体罠だったりするよな。
それとも歌川珍宝のご家族が使っているとか?
エロまんが島伝説が語られてから彼の家族を訪ねようとした人物たちは多かったそうだが誰も見つけられていない。そもそもペンネームであったし家族とは離縁していたそうだ。
もし誰かが使っているのなら、それは正式に無人島移住が許可されている人物だ。
悪者は間違いなく俺たちのほう。
ただ、試しておかなけれなならないことがある。
「俺の提供物資の中に鍵があったんだが、皆も入ってたか?」
「うむ」
「はい」
「うん、あったあった!」
全員同じ型の鍵を取り出した。
顔を見合わせて、いやいやまさかと首を振る。
「よいしょ、開いた!」
レオンが鍵穴にそれをいれて、かちゃりと腕首を回した。
確かにかちゃりと鳴ったのだ。鍵が開いて、当然のことながら扉が開く。
レオンは「ふー、やっと休めるね」とのんきに言っているが俺たちの頭は真っ白になる。
出版社が用意した鍵が、たまたま無人島にあったログハウスの扉を開けた。
そんな奇跡が起こりうるのだろうか。
————答えに辿り着くのもそう時間はかからなかった。
「……なるほど。おかしいとは思ったんだ。島の周りにある看板ポスター、ネットミームだとか映画タイトルのあほくさい下ネタ化。歌川珍宝が生きてた時代にはないものだ」
「この食料もここへ辿り着くまでのおやつ程度でしかないありませんでしたし。そういうことでしょうね」
「あのドS編集長にあっさり騙されてしまったわけじゃな。要はワシ等でエロまんが島の再現をしたいんじゃろう。小僧たち、締め切りは?」
「守ったことがない」
話を練りすぎてペン入れまでに時間がかかる。
「私も書き込みを多くていつも遅れてしまいますね」
「ワシもじゃ。レオ……性格上締め切りを気にしなそうじゃな。つまりはエロまんが家まとめて缶詰して描かせるつもりなんじゃろう」
専属作家に締め切りを守らせるために無人島を買い切って、缶詰って。
そんなこと……あの編集長ならやりかねない。
「つまりここはエロまんが島じゃないってことか」
「そう考えるのが正解じゃろうな。宝探ししてる暇があるならエロまんがを描き続けろというメッセージなのかもしれん」
「じゃあここを〝新エロまんが島〟と名付けましょう!」
この無人島(ログハウスが用意されている時点で無人島ではないが)にロマンはなかった。
強制労働のために用意された逃げられないフィールド。
そう結論が出て、深いため息がもれてしまった。
編集長の手のひらでころころ転がされている。
ログハウスのなか広く、メインはリビングルームとキッチン。
冷蔵庫には1週間はもちそうな食料。
奥にはトイレとバスルーム。
Wi-Fiルーターが置かれており、電話機も使えるようだ。
2階には4部屋あってそれぞれのペンネームが扉に書かれている。
レオンはすでに部屋に行っており、ベッドで寝息を立てていた。
部屋にはベッドと作業机と最先端のパソコンとペンタブ。
「環境としては悪くないのが余計腹立たしいな」
「ワシも歩きすぎて疲れた。とりあえず休む。夕餉が出来たら呼ぶんじゃぞ」
「ばなな☆ちっぷす先生、一緒に寝ますか?」
「永眠頼む」
………………騙された?




