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虹の向こうにあなたがいる  作者: 広之新
第2部 現実世界編
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第47話 帰って来た?

 沙羅は元の世界に戻って来た。そこはあの三下山だった。見慣れた光景が広がっている。すでに夜が明け、日が昇ろうとしていた。


「やっと帰って来た!」


 沙羅は大きく深呼吸した。山の空気はさわやかでうまい。だがなぜか違和感を覚えていた。


「こんな感じだったかしら・・・。ま、いいか! 私は前に進むのみ。後ろは振り返らないわ!」


 沙羅は下山していった。幸い、すぐに登山口のところまで来た。見慣れた山の管理事務所も見える。まだ開いていないが、窓から外をのぞくと中はちゃんとしていた。


「ちゃんと帰って来たんだ・・・」


 そう実感できた。だがここから家に帰らねばならない。スマホはとうに充電切れで使えない。あるのは財布にいくばくかのお金のみ・・・。


「仕方ない。ヒッチハイクしかないか・・・」


 昔の沙羅ならとうに弱音を吐いて座り込んでいるだろう。だが異世界の厳しい環境になれた沙羅はたくましかった。そこから少し歩けば道に出られる。そこには車が走っている。沙羅はヒッチハイクのサインを通り過ぎる車に向かって示す。だがなかなか停まってくれない。


「あきらめないわよ!」


 しばらくするとトラックが停まってくれた。運転しているのは初老のおっちゃんだった。


「ねえちゃん! どうしたんだい?」

「家にかえりたいの。町まで乗せてくださいます?」

「ああ、いいよ。でもこれから都心に向かうんだ。それでもいいか?」


(都心ならまずは会社の方に行こうかな)


 沙羅はそう考えて返事した


「はい。お願いします」


 沙羅はトラックの助手席に乗り込んだ。


「ねえちゃん。どうしたんだい? あんなところで」

「ちょっと訳ありで・・・」


 沙羅はそうごまかした。異世界から戻って来たと言っても信じてくれないだろう。


「そうか。じゃあ、当ててやろう。うーむ。男絡みだな。好きな男に振られて捨てられたというところかな」

「まあ、そんなところです」


 沙羅は調子を合わせた。


「それにしてもひどい男だな。こんな別嬪さんをこんな山から一人で返すなんて・・・。追いかけて来ようともしないんだな」


 沙羅はただ微笑むしかなかった。ダイが追ってくるはずはない。いや、もう別の世界で別の人生を歩き出している。


(ダイ。あなたとのことはいい思い出の1ページとなるのね)


 沙羅はそう思っていた。



 やがてトラックは都心に入り、そこで沙羅を降ろしてくれた。


「ありがとう! 助かったわ!」

「気を落とすんじゃないよ。男なら星の数ほどいる。いい出会いもあるさ」


 おっちゃんはそう言ってくれた。沙羅は苦笑しながら手を振ってトラックを見送った。


「さて、会社に行ってみようか。私がいない間にどうなっているのかな?」


 沙羅がビルに入った。そこは以前と変わりなく見えたが、活気が少ないように感じた。


(久しぶりだからかな・・・)


 だが奥に進もうとすると、なぜか警備員に止められた。


「ここから先には関係者以外、進めません」

「ちょっと! 私はここの社員よ!」

「社員証を見せてください」


 そう言われても持っているはずはない。


「私を知らないの? 斉藤沙羅。SARAブランドの責任者よ」

「そう言われましても社員証がなければ・・・」


 あくまでも警備員は、社員証を提示しない沙羅を追い返そうとする。確かに山から帰ったばかりでここにふさわしい恰好ではない。この姿を見て誰も彼女がSARAブランドの責任者とは思わないだろう。


「頭が硬いわね! でもそうでないとセキュリティーが保たれないかもしれないわね。わかったわ。このことは目をつぶってあげる。山中さんを連れてきて」


 沙羅はベテラン社員の山中信二に自分のことを証明させようとした。


「山中?」

「そうよ。山中専務。いるでしょ」

「そんな方はいらっしゃいません」


 警備員ははっきりそう言った。


「そんな・・・。辞めちゃったのかな。まあ、いいわ。仕方ない。社長ならいるでしょう。忙しいかもしれないけど呼んできて!」

「そんなことはできません」

「どうしてよ。娘の沙羅なのよ。社長の斉藤宗吾の娘のね」


 すると警備員は首を横に振った。


「露山勝次社長です。斎藤宗吾という方はいらっしゃいません!」

「そ、そんな・・・」


 沙羅は信じられなかった。


「さあ、ここから出てください。そうでないと力づくで排除いたします」


 警備員は沙羅を不審者と見てそう言った。沙羅はどうすることもできず、そのビルから退散した。


「ああ、どうなっているのかしら。あの叔父が社長だなんて・・・。きっと何かの間違いよ」


 沙羅は憤慨していたがどうにもならなかった。ここがダメな以上、後は家に帰るしかない。


「持っているお金は・・・」


 沙羅は財布を開いてみた。山に行くからとカードはもってこなかった。最小限の小銭しか入っていない。


「これだけか・・・。タクシーにも乗れない」


 沙羅はため息をついた。だがこれでくじける彼女ではなかった。


「久しぶりに電車にでも乗ってみようか。なんとか家にたどり着けるかも・・・」


 異世界では車に乗ってこともあったが、ほとんどが徒歩移動だった。いざとなれば歩いてでも・・・そうたくましく沙羅は考えていた。


 ◇

 ―異世界―


 ダイは部屋で目覚めた。窓を開けると空はきれいに晴れ渡っている。今日から管理官として本部に勤務することになる。彼は大きく伸びをしてから、いつものようにキッチンに向かう。すると沙羅が料理をしている。こっちを向いてニコっと笑った。彼が声をかけた。


「おはよう!」


 だが沙羅の姿はぱっと消えた。そこには誰もいない。幻を見たのだ。そこには冷え冷えした空気が漂っているだけだった。


(そうだ。沙羅はもういないんだ・・・)


 ダイはため息をつくと朝食の準備を始めた。昨日までは豪華な食事が乗っていたテーブルを前にして・・・・。


(今頃は家族と再会して、おいしい朝食でも食べているんだろうな)


 ダイはそう想像していた。


「それでいい。それが一番よかったんだ」


 ダイは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


(しばらくすれば元に戻る。沙羅の影も見えなくなるだろう。彼女への思いも・・・)


 ◇

 ―現実世界―


 沙羅は電車に乗り継ぎ、駅からかなり歩いて、やっとあの高級住宅地までたどり着いた。その高台の真っ白な洋館が彼女の家である。それはすぐに見つかった。


「やっと着いた。遠かったな。お腹もすいたし・・・」


 沙羅は家に向かって歩いた。だが近づけば近づくほど、違和感を覚えていた。明かりがついてなくて人気もなく静まり返っているのだ。


「留守なのかしら・・・」


 沙羅は門の方に回ってみた。そこには・・・。


「斉藤の表札がない。取り外されている。ここは私の家じゃないっていうこと?」


 沙羅は家を見上げた。確かに間違ってはいない。ここが沙羅の家のはずだ。


「これはどういうことなの! もしかしてここは元いた世界じゃないの? 私はまた別の平行世界に飛ばされたっていうことなの!」


 沙羅は愕然としていた。



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