001 - だてはりい -
ふるふる・・・
「ふっ・・・ふざけるなぁ!」
「本当にすまない!、勇者殿の今後の生活は王国が責任を持って・・・」
だんっ!
「ひぃっ!」
「やかましいわぁ!、そんな事どうでもいいから戻せぇぇぇ!」
こんにちは、僕の名前は伊達覇理衣、17歳・・・怒り狂い叫び散らかしている僕の目の前には涙と鼻水を流して謝罪する自称国王陛下・・・とその奥様、子供達。
泣きたいのは僕の方だ!、本当にどうしてここんな事に・・・。
ここはおそらく玉座の間か何かだろう、自称国王の周りには整列した大勢の騎士と数人の魔術師、全員僕に向かって深く頭を垂れている。
今の状況と似た展開の異世界小説や漫画はオタクの嗜みとして一通り読んでいるがこれは想定外にもほどがある・・・冗談になっていない!。
・・・
・・・話は僕の平穏な日常が突然崩壊したあの時に遡る。
いつもと変わらない学校からの帰り道、突然足元に魔法陣のようなものが現れ身体が光に包まれた。
眩しくて思わず閉じた目を開けると知らない部屋・・・魔法使いっぽいローブを着た数人の男女が僕を囲んでいる、あぁ、これは異世界に召喚されたな・・・そう思った直後猛烈な脱力感と睡魔に襲われ床に倒れた。
「・・・様!」
ローブの男が何か叫んで駆け寄って来る、よく聞こえない・・・でもこれは絶対眠っちゃダメなやつだ、こいつらに何をされるか分かったものじゃない。
それに・・・僕は学校の制服を着ていた筈なのに何故か全裸だった!。
「嘘・・・何で!」
服を着ていないのも大問題だが僕のカバンどこ行った?、あの中には授業中に書いた自作小説のノートが入っている!、あんな妄想まみれの特級呪物を誰かに見られたら大惨事だ。
「うりゅ・・・ぐすっ・・・何で裸なんだよぅ・・・僕のカバンも無いし・・・」
僕は普通の公立高校に通う地味で平凡な女だ・・・長い黒髪を後ろで無造作に束ね黒縁のメガネをいつもかけている、少し猫背で貧乳の彼氏無し、趣味は読書とアニメ鑑賞・・・。
こんな絵に描いたようなオタクを異世界に召喚して何をさせるつもりだよ?。
自慢じゃないが僕は料理が下手だし頭も良くない、現代知識で無双なんてできないぞ・・・おまけに幼い頃に大病を患い病弱だ、まさかイケメン王子様に愛される聖女として呼ばれたのか?、いやこんな冴えない女を押し付けられる王子様はいい迷惑だろう・・・。
頭の中で色々な事を考えるが眠くて思考が全然まとまらない・・・。
「僕としては田舎でスローライフがいいなぁ・・・」
そう呟いて僕は意識を手放した。
「・・・ってくれ」
「では・・・を・・・ます・・・」
・・・
「んぅ?」
誰かの話し声で目が覚めた、この前とは別の知らない部屋だ、壁際には沢山人が整列していて僕の目の前には椅子に座った男が居る・・・。
「目が覚めたかね?」
身体が動かない・・・椅子に座り鎖で繋がれているのか動こうとすると金属の擦れる音、身体には豪華な刺繍が施された布が掛けられている・・・この時点で嫌な予感しかしない!。
「ここはどこ?、何で僕は縛られてるの!」
がちゃがちゃっ・・・
「落ち着いて聞いて欲しい勇者殿、私はローズマリー王国の王、アラン・ローズマリー三世だ」
玉座に偉そうに座っている自称国王が話しかけて来た、これが落ち着いていられるか!、知らない間に僕は勇者とやらになってるし!。
「我が国・・・いや我々が住んでいるこの世界は遥か昔より幾度となく魔王が誕生し、人類滅亡の危機に瀕してきた・・・」
それは異世界小説やアニメで飽きるほど聞いた話・・・テンプレって奴だ。
「長い歴史の中で何度も危機が訪れた、その度に我々は異世界から勇者を召喚し魔王を倒して・・・」
それもこの前見たアニメでやってたな、でも倒したのは勇者でこの世界の人間じゃないだろう、何で自称国王が偉そうに語ってるの?。
「我々は魔王に対抗する為に強力な兵器を開発し弛まぬ技術革新によって改良を重ねて来たが・・・魔王にはどうしても勝てないのだ、この世界の神の意志なのか・・・何度挑んでも犠牲が増えるだけだった・・・」
今度は神様のせいにしてきたよこの自称国王・・・。
「魔王を倒せるのは勇者だけなのだよ・・・」
「・・・それで、僕に魔王を倒せと?」
理解が早くて嬉しいのか自称国王がとても良い笑顔になる、待て!、僕はまだやるとは言ってないし!。
「察しが早くて助かる勇者殿、ちょっと魔王の住んでいる魔界に行ってプチッっと討伐して来てはもらえぬだろうか・・・」
だん!、がちゃがちゃっ!
「・・・ひぃっ!」
「何がプチッだこの野郎!それが人に物を頼む態度か?、まずは僕の拘束を解け!それから元居た世界に帰らせろ、まさか二度と戻れませんってアホな事を抜かすんじゃないだろうな!」
「・・・お、落ち着いて話を聞いてくれ勇者殿、申し訳無いがまだ拘束は解けない、元の世界には・・・戻ろうと思えば戻れる・・・ぞ」
何か煮え切らない答えだな、目が泳いでいる・・・ちょっと涙目になってるし。
僕は自称国王に懇願されて不本意だが拘束されたまま説明を聞く事にした。
「・・・というわけだ、ここまでは理解して貰えたと思う」
「・・・」
僕の身に起きた事は予想通り異世界からの勇者召喚だった、礼はするから魔界に行って魔王を倒して欲しい・・・と、ここまでは問題無い・・・訳では無いが些細な事だ。
違和感はあった・・・壮絶に嫌な予感もしていた・・・。
元々僕は目が悪い、愛用の黒縁メガネが無いと数メートル離れている自称国王の顔がまともに見えない筈だ・・・だが奴の・・・気の弱そうなアホ面が裸眼ではっきり見えている。
それに視界の端にチラチラ見える電子表示的な文字や照準器みたいなのは何だ?、身体は相変わらず拘束されて動かないから顔にも触れられない。
この玉座の間も異世界・・・いわゆる中世ヨーロッパ的な雰囲気じゃない、えらくサイバーパンクしている。
白い壁は無機質な金属製で扉は中央からスライドして開く宇宙船っぽいやつだ、自称国王の座っている椅子も強烈に近未来的だし背後には何故か読めてしまう見慣れない文字の書かれた広告看板みたいなのが光り輝いている。
ド派手な看板には可愛らしいイラストと共に「歓迎!、ようこそ勇者様」と書いてあった・・・。
「我々の文明はとても進んでいると自負している、肉体の機械化によって強力な力を手に入れたり寿命も数倍に伸ばす事が出来るようになった、加えて太古より伝わる魔法技術があって・・・」
だんっ!
「・・・ぴゃぁ!」
僕が僅かに自由になる足で床を蹴ったら自称国王の隣で立っている王妃様っぽい格好をした女性が可愛らしい悲鳴をあげた。
「話の途中で悪いが大事な事を聞きたい」
僕は自称国王の目を見つめて言った・・・こいつ目を逸らしやがったぞ!。
「もっ・・・もちろんだとも勇者殿、なんでも聞いてくれ・・・」
「僕の身体に何をした?、怒らないから正直に!」
「ゆ・・・勇者殿の能力を疑うわけでは無いのだが、魔王は恐ろしく強いのでな、万一にでも勇者殿が怪我をしたり、絶対に無いであろうが負けたりすると非常に困るのだ、国が滅ぶかもしれない・・・だから少しばかり強化して・・・」
だん!
「ぴっ」
今度は王妃様の横にいる銀髪幼女が可愛い悲鳴をあげた、見た目はまるで西洋人形のようだ、自称国王に似なくて良かったな。
「したのか、してないのかを聞いている!」
「・・・ぼそっ」
「声が小さい!」
「しましたぁ・・・」
・・・っ・・・ぐずっ・・・
こいつ・・・泣き出しやがったぞ!、こんなのが国王で大丈夫なのか・・・。
横から宰相と名乗るやたらと体格のいい男が出て来て更に説明を続けた、要約するとこんな感じだ・・・。
この世界ではまだ人間が馬車を使い剣と魔法で戦っていた時代から定期的に魔王が誕生し人々を苦しめていた。
神話時代の出来事だから真偽は不明だが・・・神より授けられたと伝えられている召喚魔法を用いて異世界から勇者を招き魔王や魔族を倒し続けて今に至る。
人間は魔王を恐れ強力な武器を開発した、その結果一瞬で街を更地にし空を飛び海底深く潜れるほどの技術力を得たが、現代兵器を持ってしても何故か魔王を倒す事が出来なかった。
魔王を倒せるのは勇者のみ・・・ここローズマリー王国は周囲の国々を従えている超大国であり、魔王の監視と勇者召喚を執り行っている。
先日100年ぶりに魔王が現れたという報告を受け大古より伝わる儀式で勇者召喚を行なった、だがもし勇者が負けたら・・・その不安は国民にも広がった、数十世代前には勇者が敗れ隣国が滅びた記録が残っている。
勇者が負ける可能性・・・それは貴族や官僚の上層部でも囁かれ始めたが我が国には機械化改造技術がある、勇者の戦闘力を極限まで高めれば絶対に負ける事は無いだろう・・・そう考え事後承諾になって申し訳ないが手術を行なった。
「・・・手術したの?・・・僕に一言の相談も無く?」
マッチョ宰相が答える。
「催眠の魔法で一時的に眠って貰った勇者殿が手違いで何をしても目覚めなかった、我々には時間が無かったのだ、魔王は時間の経過と共に強くなり倒す事が困難になる・・・勇者が負けると国に甚大な被害が・・・」
「機械化改造手術・・・」
マッチョ宰相の後ろに隠れていた自称国王が呆然とする僕に向かって頭を下げる、同時に周りの騎士や魔術師達も一斉に深く頭を垂れた。
「ほ・・・本当に悪かったと思っている・・・我が国では機械化改造は広く普及している技術で副作用もほとんど・・・頼む勇者殿!、我が国に力を貸して欲しい!」
ふるふる・・・
「ふっ・・・ふざけるなぁ!」
読んでいただきありがとうございます。
諸事情により恋愛要素はほとんどありません、女性は平たい胸の人しか出てきません、男性は筋肉モリモリマッチョマン多いです、パロディ要素あり、苦手な人は注意してくださいね。
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