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神域:アポカリプス  作者: 八魔刀
第一章 絶悪の神子
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第16話

 一真はレンヴァルトの刀に自身の刀を合わせたまま押し込んでいく。純粋な力で押されたことにレンヴァルトは驚くが、すぐに持ち直して押し返す。一真は神気を惜しまずに発揮し、凄まじい剣技を叩き込んでいき、レンヴァルトも己の剣技で対抗する。

 一真の剣技は神気を伴った瞬速の一太刀。神気によって一刀に込められている重みが強烈であり、並大抵の人間が受ければ防御すらできない一撃になっている。レンヴァルトはその剣筋を捉え、的確な技を繰り出して打ち返していく。

 一真は己の技量についてくるレンヴァルトの腕前に目を見張りながらも、冷静に刀を振り続ける。時に小さく、時に大きく動き、離れ、近付き、撹乱し、何度もレンヴァルトの首や四肢を斬り落とそうとする。しかし、レンヴァルトはそれらを全て見切って的確に処理していく。それが一真の胸中を苛つかせる。

 だが一番の苛つきの要因は別にある。幾度も剣戟の音が鳴り響き、神域エネルギーが爆ぜる光が迸る。それ程の数を打ち合えば、ある程度の実力を持つ者ならば解ることがある。

 一真は刀を横薙ぎにし、それを刀で受け止めたレンヴァルトは後ろに押し飛ばされる。一真はそこで追撃はせず、警戒は怠らないまま立ち止まる。


「貴様、本気を出していないな?」

「そんなつもりはないが?」

「俺を見くびるな。貴様の動きにはぎこちなさがある。神気の流れにも揺らぎが見える。貴様、決闘を何だと思っている?」


 一真は怒っていた。凄味のある眼光でレンヴァルトを睨み付け、怒りで滲み出る赤黒い神気が一真の足下の床に亀裂を入れる。

 レンヴァルトは眉を一つ動かし、構えを解く。


「それは悪かった。生憎と200年程、戦とは無縁な生活だったからな。得物を握るどころか神域エネルギーを使うこともなかった。身体が錆び付いて思うように動けないんだよ」

「……いや、それは違うな」


 レンヴァルトが話した事情を、一真は明確に否定した。否定されたレンヴァルトは眉を秘める。一真は己の刀でレンヴァルトの刀を指す。

「貴様の刀を振るう動き方、力の入れ方、判断……限りなく達人のそれに至っているが、俺の目は誤魔化せん。貴様の動きは斬るのではなく、叩き斬るのが本流――。貴様、本来は刀使いではないな?」


 今度は感嘆の声を漏らす。その反応から、一真の言っていることは的を射ているようだ。

 レンヴァルトは殺し合いの最中だと言うのに、少しだけ嬉しそうな顔をして頷く。


「良く分かったな。動きが鈍ってるとは言え、そこまで堕落したつもりはないんだが……。確かに、俺の本来の得物は刀じゃない。これは友の形見であり、譲り受けただけの物だ。この国、正確にはこの神域内で相性が良かったから使ってるだけ。あと、『絶悪』の概神から身を隠すためにもちょうど良かった」

「……そう言えば、貴様の概神を訊いていなかったな。その異質な力、さぞや名のある概神なのだろう。その概神に対抗するためにも、神子には贄となってもらう!」


 一真の神気が急激に高まる。刀を逆手に持ち、腰を落として身体を捻る。


 ――来るか。


 レンヴァルトも神域エネルギーを高める。一真の『絶悪』の神気はレンヴァルトも驚くほど大きく、肌がひりつくほどの熱量と威圧感を放っている。それは力が暴走した綺咲人に匹敵する程であり、彼もまた使徒に近しい存在なのだとレンヴァルトは認識を改める。


「『絶悪』の技、受けてみよ!」


 一真の神気が臨界点に到達すると、一真の姿が消えた。レンヴァルトは眼をカッと見開き、一真の残痕を見極める。だがそれよりも速くに一真は移動を終える。レンヴァルトの背後、その頭上に現れると神気を込めた刀を振り落とす。レンヴァルトはその攻撃を気配だけで察知し、振り向き様に刀を振り払うことで防ぐ。予想以上の重い一撃に刀が弾かれ、体勢を崩してしまう。

 一真は攻撃の手を緩めず、また姿を消す。厳密に言えば、姿を消したわけではない。一真の体内で活性化している『絶悪』の神気によって身体能力が向上し、姿が見えなくなるほどの速度で動いているのだ。床を蹴る足音も消しているのか、風を切る音も極僅かしか聞こえない。

 だがレンヴァルトの耳は、その極僅かな音も聞き逃さない。そればかりか、一真の見えない姿を彼が発している神気の流れと気配で追いかける。


「来い――」


 直後、一真の猛攻が始まる。

 一真は神気を赤黒い雷撃へと変化させ、四方八方からの斬撃特攻を仕掛ける。レンヴァルトはその特攻に合わせて刀を置いて弾いていく。一撃でも打ち損じてしまえば首を斬り落とされるか胴体を両断されてしまう。神域エネルギーを更に高めていき、それに反応するように瞳孔が縦に割れる。鬼よりも恐ろしい眼光で一真の攻撃を捉え、紙一重のところで弾いていく。

 その時、一真の猛攻が更に激しくなる。当初は擦れ違い様に雷の斬撃を一太刀入れるだけだった。しかし一真の攻撃速度が増し、一撃の間隔が短くなっていく。やがて間隔は無くなり、二つの斬撃が同時に、三つの斬撃が同時にと繰り出される。

 全く同時に、一寸の狂い無く複数の攻撃が叩き込まれる。同じ所を狙う攻撃もあれば複数の箇所を狙う攻撃も織り交ぜ、レンヴァルトを翻弄する。

 レンヴァルトはその攻撃にもはや反射と勘で対応していく。強烈な力によりレンヴァルトの身体は打ち上げられていき、防御の態勢は完全に崩されてしまう。

 その隙を見逃す一真ではなく、好機とばかりに攻撃を叩き込む。赤黒い雷が八つになり、同時に、それも八回連続でレンヴァルトに叩き込まれる。


「――奥義・八影迅雷(はちえいじんらい)


 一真は雷の神気の残り火を全身から飛び散らせ、雷が迸る刀を鞘に収める。彼の背後では六十四回の斬撃を喰らい、宙に打ち上げられたレンヴァルトが。派手に打たれたのか、今も宙でくるくると暴れている。最後にはそのまま床に――。


「ッ――貴様!?」

「――ッ!」


 ――床に無傷で着地した。


 レンヴァルトは全ての攻撃を捌ききったのだ。

 一真は再び刀を抜き放つ。その顔には驚愕と怖れが滲み出ていた。


「貴様、それ程の力をどうやって――!?」


 一真は言葉を失う。レンヴァルトの人間ではない瞳を見て気圧されたのだ。彼の背後に怪物を視て無意識の内に後退りしてしまう。彼の放つ神気――神域エネルギーが一真を呑み込もうと広がっていく。


 何者かの咆哮が一真に耳に木魂する――。


「次は俺の番だ」


 レンヴァルトが仕掛ける。一真は彼から一瞬たりとも目を離していないはずなのに、気付いた時には鼻先にレンヴァルトが迫っていた。一真は殆ど反射的に刀を振り払うが、レンヴァルトの刀によって上に弾かれる。レンヴァルトは刀を横薙ぎにして一真の首を狙う。一真は身体を後ろに反らして刀を紙一重でかわし、そのまま倒立回転で後ろへと逃れる。レンヴァルトは追撃の手を止めず、神域エネルギーが込められた刀を振り続ける。

 一真はレンヴァルトの猛攻をギリギリのところで防ぎながら、目の前の男の豹変ぶりに戸惑う。これまでの戦いでは拮抗することはあれど押されることはなかった。ところが、今対峙している男の力はそれを凌駕している。動き、呼吸、神気、殺気、全てが違う。


 まるで別人だ――いや、この男は本当に人間か――。


 先程の幻視といい、今も放たれ続けている漆黒の神気といい、一真はレンヴァルトが人間だと疑い始めてしまう。

 レンヴァルトの猛攻は更に続き、一真はとうとう刀で防ぐことができなくなり防御の姿勢を崩してしまう。そこをレンヴァルトの回転蹴りが炸裂し、左腕を顔の横に割り込ませることで首への直撃を防ぐも、そのまま壁まで蹴り飛ばされて全身を打ち付ける。


「ぐっ――まだまだァ!」


 瓦礫となった壁から這い出て一真はレンヴァルトへ突撃する。左腕はあらぬ方向に折れ曲がり、骨が剥き出しになっている。右手だけでレンヴァルトに斬りかかり、鍔迫り合いになると己の肉体が耐えられないほどの神気を練り上げて刃を押し付ける。神気で左腕を即時再生させ、そのまま『絶悪』の神気を左腕に集束させ、レンヴァルトに殴り掛かる。レンヴァルトも右手に漆黒の神域エネルギーを集束させ、突き出された一真の拳に打ち付ける。

 一真の拳はレンヴァルトの拳を止めることができず、押し潰されるようにして破裂していき消失する。レンヴァルトの拳はそのまま一真の胸に吸い込まれ、鎧を粉砕する。


「おのれェ!」


 一真は限界を超えた。肉体が崩壊していくのを承知の上で神気を解放し、赤黒い稲妻へと化してレンヴァルトを押し退ける。そして一真の稲妻が彼の背後で鬼神へと至り、稲妻の刃を振り翳す。


「秘奥――悪鬼雷霆(あっきらいてい)!」


 稲妻の鬼神がレンヴァルトに向かって雷鳴と共に刃を振り下ろす。

 レンヴァルトは居合いの日前に入り瞬時に神域エネルギーを練り上げる。神域エネルギーの密度が頂点に達した瞬間、一気に力を解き放つ。


「我は刃で殺さぬ――魂で殺す」


 レンヴァルトから神域エネルギーが放たれると同時に抜刀され、無数の斬撃が広範囲に放たれる。斬撃は鬼神の刃を斬り刻み、鬼神を斬り刻み、一真を包んでいる稲妻を消し飛ばす。そして一真自身には斬撃ではなく、神域エネルギーのみの衝撃波が襲い掛かる。

 衝撃波に呑み込まれた一真は全身を駆け抜ける力によって吹き飛ばされ、床を激しく転がる。全身から血を流し、再生する力も残っていない。まだ死んではいないが、虫の息でありもう間もなく生命活動を終えるだろう。


「……」


 レンヴァルトは刀を鞘に収める。一真が完全に倒れたと確信し、最上階へと繋がる階段へと脚を進める。


「――ま、て」


 レンヴァルトは脚を止めた。振り向くと、一真が眼を開いてレンヴァルを見ていた。

 まだ戦う気なのかと柄に手をやるが、一真からもう敵意を感じないことに気が付く。そして一真の気配から『絶悪』の気配が薄れていくのを感じ、警戒はしつつも一真に近寄る。

 一真は光が戻った瞳でレンヴァルトを見上げ、何かを伝えようと必死に口を動かす。


「たの、む……むすめ、を……すくって、くれ……」

「……」


 むすめ――娘――つまりは、そういうことなのだろう。

 レンヴァルトはある事を察し、言葉にできない感情が胸の内に湧く。


「わたし、は……ちちに……のぶさかに……あやつられ、ゲホッゲホッ!」


 一真は血を吐く。それから肉体が徐々に塵と化し始めていく。

 死が、『終焉』が近付いている。


「『ぜつあく』が……わたしたちを……わたしは……あやめと、きさりを……」


 一真の目から涙が零れ落ちる。

 レンヴァルトは一真を憐れに思い、側で膝を突いて言葉を紡ぐ。


「約束しよう。綺咲人は……お前の娘は俺が必ず守る。あの世で菖蒲と安心して眠れ」


 一真の傍らに落ちていた彼の刀を手に取り、その刀でレンヴァルトは止めを刺した。そうすることで、レンヴァルトの神域エネルギーで死に絶える前に死ぬことができた。これにより、一真の魂は終わることなくあの世へと旅立てることだろう。

 一真は最期の瞬間、安心したような眼を浮かべてから瞼を降ろす。眠るように息を引き取った一真の手に彼の刀を握らせ、胸に抱かせる。

 先に死んだからなのかレンヴァルトがそうしたのか、レンヴァルトの神域エネルギーによる消滅は止まり、遺体はそのまま残り続ける。


「……」


 『絶悪』に支配され、愛する者を殺め、最愛の子を遺して逝ってしまった男、雨宮一真。

 彼は最期の最期に支配から解き放たれ、支配を終わらせてくれた者に願いを託した。

 託された者であるレンヴァルトは胸中に哀れみと怒りと覚悟を抱き、託された子が囚われている場所へと脚を進める。


 最後の戦いは、もう目の前である。


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