計画(レイナルド)
レイナルド視点です
兄上との話し合いの結果、こちらの要望を通してもらえることとなった。この計画を進めるため、深夜ではあったが私は必要なところに指示を飛ばした。
そして仮眠をとった後、支度を済ませ私達夫婦の寝室へと向かった。
まだ眠る『リリア』に気付かれぬよう部屋に入ると、指示を受けた使用人によりベッドの空いたスペースのシーツが、まるでそこに誰かが寝ていたかのように乱されていた。指示が行き届いていて何よりだ。
私はソファに座り彼女が起きるのを待った。
「おはようリリア。よく眠れたかい?昨日はすまなかったね」
「おはようございますレイナルド様。私こそお帰りをお待ちするつもりでしたのに先に寝てしまって申し訳ありませんでした」
寝起き姿であることを恥ずかしがるような演技をしながら起床した彼女が答えた。こういう演技が男に受けると思っているのだなと思うと少し笑ってしまった。
やはりこういうところもリリアとは違いそうだ。
その後、朝食を共にする席で控え目に、しかし周囲で働く使用人達に聞こえるぐらいの声で彼女に声をかけた。
「昨夜は大丈夫だったかな?」
初夜の翌朝だ。労るような目を向ける私とこのセリフ。周囲のものは我々はきちんと夫婦になったと思うだろう。もちろん我々が寝室を出たあと、信頼する者によりシーツにもそのような細工がされている。
「問題ありません」
どう答えても対応するつもりだったが、この答えなら問題ないだろう。その後は当たり障りのない会話で朝食の時間を過ごした。
その後、午前は会議に共に出席し、彼女にも少し仕事を振ってみた。元々『リリア』にもそうするつもりであったし、もう少し彼女の人となりも見てみたかったからだ。
会議中は話を聞いているのか、ひたすら私の方を見てきていた。そしてその後に任せた書類は処理されていたものもあったが、白紙のものも多く残っていた。
回収してきた役人によると、まぁ要約すれば泣き落としのような対応をされたということであった。なるほど、勉学が好きではないと知っていたが、そういう考え方をする人間であるようだ。
これなら安心して計画を進められそうだ。
そこから数日は午前は仕事を任せ、午後は自由にさせた。そして夕食のワインに少しの催眠剤を混ぜさせ、彼女には毎日一人で眠ってもらった。同室で寝ているように見せなければならないが、起きていられたら対応が面倒だからだ。
そして計画のための調整が終わった翌日、会議で私は急遽隣国へ行くということになった。もちろんこれも計画の一部である
こちらの予想通り、『リリア』は同行を希望してきた。そんな彼女を、この女の好きそうな甘い笑顔とセリフで、今回の同行を諦めさせ、また医者にかかるよう誘導した。この顔に弱いのか、彼女はあっさりと私の誘導に乗っかってくれた。
その後、涙ぐむ『リリア』に見送られ、私は隣国へと出発した。しかし半日ほど進んだところで、急な伝令がやってきた。伝令から陛下の呼び出しがあり、私はすぐ城に戻るよう伝えられた。
使節団のトップに必要な引き継ぎを行い、私は数人の部下と来た道を引き返した。
我々はしばらくは城に向かって進んだが、途中で馬車を質素なものに替え、そこからは王都の端のある建物に向かって進み出した。その建物はある侯爵家の持ち物であった。
夕方の薄闇に紛れるようその建物に我々は入っていった。
我々が嘘の伝令を使って、こうしてここに来た理由はただ一つ。ここには私の最愛たる彼女がいるからだ。
十数日ぶりに会う彼女は少し疲れて見えた。今までは側にいられなかったが、これからは少なくとも一ヶ月は共にいられる。
存分に彼女を労ろう、そう思いながら私は愛しい女性の腰にそっと手を添えた。
そこからは、彼女と共に過ごし、その体を労りながらも、計画を進めていった。
あのセリフが効いているのか、医者の指示通り『リリア』は過ごしているようだ。しかし途中で気が変わっては困るので、歯の浮くような言葉を並べた手紙も定期的に送っておいた。
その甲斐もあってか、城に残してきた者によると計画は順調に進んでいるとのことであった。
そして城を出てから2ヶ月、全ての準備が整ったため、使節団を帰国させ、私はそこに同行し、何食わぬ顔で『妻』の元へ戻った。
その日の夜は催眠剤は仕込まなかった。そのため、『リリア』は興奮を隠しきれない様子で寝室で私を待っていた。
「レイナルド様、改めてお帰りなさいませ。会えない間は本当に寂しかったです」
「長らく留守にしてすまなかったね。私もやっと君と話ができそうで嬉しいよ」
「私もぜひ隣国のお話など、殿下のお話をたくさん聞きたいですわ」
「いや、今日は別の話を聞いて欲しいんだ」
そう言って私は、彼女に一つの契約書を見せながら、今回の計画の全容を話し出した。