リリアという婚約者(レイナルド)
レイナルド視点。入れ替わり後、婚姻の日からの話です。
朝、今日の式のためにリリアに会いに来てすぐ、何か違和感があると思った。
その原因にはすぐ気が付いた。目がやたら合うのだ。
しかも、その視線には熱が込められていた。
彼女は聡明で、真面目な努力家であった。私との適切な距離感もすぐ把握してくれた。
もちろん最初は細やかな好意が視線に乗っていたこともあったし、あの話以降は少し距離を取りすぎるきらいもあったが、概ね適切であった。
その距離感を今は全く気にしていないように見えた。
確かに婚姻を正式に結ぶ今日、普通なら普段よりはしゃぐ気持ちが出てもおかしくない。
しかし、陛下との約束を既に知る彼女がそう振る舞うとも思えなかった。
そこからも手を取れば強めに握り返してきたり、腕を差し出せば体重を預けるかのようにしなだれてきた。
厳しいことで有名なマナー講師のサリー婦人に、「彼女は打てば響くのでつい教えすぎてしまいますね」と言わしめた彼女の行動とはとても思えなかった。
そんな違和感は、式に彼女の両親しか参加していなかったことで確信に変わった。
式の後、リリアに声をかけに来た伯爵夫妻と話す中、少し話題を向けてみた。
「今日はアリア嬢はどうしたのですか?」
「アリアは昨日、商会に嫁ぎ身分が平民となりましたため、ここには同席できなくなったのです」
「姉妹の挨拶は昨日お時間をいただいた際に充分にさせていただきましたわ」
田舎の伯爵とはいえ、腐っても貴族。多少の腹芸はできるようで、そう淀みなく答えてきた。
「妹にも良いご縁があったのです。今は新しい生活を楽しんでいるはずですわ」
しかしこちらはまだ経験が浅いようで、そう話す『リリア』には明らかな優越感が見えていた。
「そうですか。『彼女』の新しい生活に幸多からんことを」
今日は永遠の愛を誓ったり、偽りばかりを告げてきた私であったが、これだけは心からそう願いながら言ったのだった。
式を終えて、すぐに執事に昨日からのリリアの行動を調べさせた。すると、昨日リリアに会いに来たアリアが体調を崩し帰ったことが分かった。
これで二人が入れ替わっていることは間違いないと思った。
確かにここでのこれからの生活はリリアにとって決して良いものにはならなかっただろう。
しかし、彼女がここを抜け出そうとするとは思えなかった。
仮にアリアから代わりたいと言い出しても、あの条件がある。リリアが妹に黙ってそれを押し付けるとも思えなかった。
妹が見せたあの優越感といい、恐らくリリアを騙し討つような形で入れ替わったのだろう。
正直、リリアには酷なことをしていると思っていた。
あの条件は私の愛する彼女とのためであったが、地位に目がくらんでやってくる令嬢などどうでもいいと思っていたのも確かだった。
しかしそんな私の考えを裏切るかのように、やってきたリリアは懸命に私の婚約者になろうとしてくれた。
振り落とすために過剰に厳しくしてもらった教育にもしがみつき、私の婚約者という地位を振りかざすこともなく、もちろん私にまとわりつくようなこともしなかった。
私の心に既に彼女がいなければ、良好な関係が築けたのだろうと思わせるほど、リリアはただただひた向きだった。
女性としては見れなくても妹のような情が移りつつあったある日、リリアの目が彼女を追っていることに気付いた。
何かを恐れるように、でも確認せずにはいられない、そんな視線に彼女との関係性に気付かれたのだと思った。
いつかは告げることだと、リリアに陛下との条件を伝えた。
その後しばらくは本当にこれでよかったのかと悩んだ。彼女との子供は欲しい。ただ、そのためにリリアを犠牲にすることに躊躇も生まれていた。
決まってしまった婚姻も条件も今さら変えられない。子供を持たせてはやれないが、せめて心を通わせられる男と出会える場をいつか整えてやりたい、そんなことを考えていた最中でのこの入れ替えだった。
王家を騙して入れ替わってきたのだ。こうなったのなら何も遠慮はいらないだろう。ちょうど別件もあったため、私はその日の遅く、陛下の元を訪れた。




