86 スマホ
開かずの間が開けられないことに安堵して、迷わず即決で賛成してしまった私。だけど、彼の考えは素晴らしいものだった。
「ギルドのななさんの部屋? あそこで使ってるみたいに、お湯が沸かせるくらいの設備があれば十分なんだよね。俺、料理しないし。トイレとお風呂は借りたいけど、あと電気を引かせて欲しいかな。延長コードで何とかなるでしょ? 通販で材料や道具を揃えて、自分で上手いことやるからさ。どうかな?」
「うん! すごくありがたい提案。卓上コンロや水の魔道具はギルドで手に入れられるし。私ポイント貯まってるから、それで揃えられると思う。でも、不自由だったら言ってね」
「俺もポイント使ってないからちょっとはあるし、ちょう子さんに聞いてみる。あと、家賃も払うからね」
それはいいよと断ったけど、その方が彼も自分の部屋として気兼ねしないで使えると言うので、ならば意地を張らず私が折れることにした。
場所の確認のために地下へと二人で下りてみる。
十メートル四方程の地下室なので、一角を大きめに仕切るだけでもそこそこのワンルームになりそうだ。
「お、ラッキー。ここまではスマホの電波も届くみたいだ。これなら全く問題ないや」
スマホを取り出して地下室をうろつくあつし君。家への階段に近い辺りなら、問題なく使えそうだと喜んでいる。
「スマホ……いいなぁ。やっぱあると便利だよね?」
「え? 持ってないの?」
「連絡する人もいないし、いらないかなって。かかってきても怖いし」
「え、じゃあPCは?」
「……PCも、……ない」
やっぱり今どきスマホもPCもないというのは珍しいのか、あつし君がびっくりしている。
「ネット使えると便利だよ。俺も誰にも連絡したりはしないけど、調べものもできるし、ゲームしたり、銀行も使えるし。通販とかも。でも、今まで無くて不便じゃなかった?」
「あー、お金無かったし。外に興味なかったから。でも今はちょっと欲しいなって思ってるけど……」
契約に行くこともできないので諦めてるって言ったら、
「だからこそ、だよ」
と言われてしまった。
「俺なんか、外へ出て手続きするとか絶対無理だし。買い物すら行けなかったんだよ? だから、ネットがあってめちゃ助かった。買い物も、支払いの振り込みもネットバンクからできるし。いろんな手続きも、今はネットでできるものが多いから。会話しなくてもメールで問い合わせとかもできるし。もちろんスマホもネットで買えるよ。店に行かなくても手に入る」
えええ!? 何それ?
全然知らなかった……。そうなの?
「パ、パソコンも?」
「パソコンだとインターネット回線引かなきゃいけないけど。ホームルーターとかもネットで契約できるし、それなら工事もいらない。
パソコン本体もネットで買えるよ。設定はしなきゃだけど、そんなに難しくないから。今はお金に余裕があるなら、買ってみる? 俺のスマホからネットつながるし。俺でわかることは教えられるよ?」
……目から鱗が落ちた。
お店に行かなくてもいいんだ。
まあ、あつし君がいなかったら、ネットにつながるものがなかったから、通販だって申し込みだってできなかった訳だけど。
いよいよ私の手にもスマホが……!?
パソコンが……!?
うわあ、どうしよう。ワクワクする。
「お、お願いします。パソコンもスマホもやってみたい!」
「うん、チャレンジしてみよう。きっと楽しいよ。……あ! スマホって二十歳以上じゃないと契約できないかも。……ななさんって、いくつ?」
もうすぐ二十歳だと答えると、驚きと混乱の混じった顔をされた。
「い、いや、その……すごく幼っ……えっと若く見えるけど、しっかりしてるから。その……女性に年齢聞くのもどうかと思って……」
しどろもどろだった。今、幼いって言おうとしたよね? 小学校高学年で成長の止まってる見てくれだから仕方ないけど。よほど年齢不詳だったのだろう。
あつし君は二十一歳なんだって! 私だってびっくり。高校生くらいだと思っていたから。あつしさんって呼ぶべきだったかな?
とうとう気になっていたスマホを手に入れられそうで、ぬか喜びではしゃいでしまった。
夏生まれの私だけど、まだ誕生日は来ていない。
あと一カ月はおあずけみたいです……。
お読みいただきありがとうございます。
物語を終わらせるって難しい。
力不足を切に感じます。
最後まで応援よろしくお願いします。




