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犬をなでるだけの簡単なお仕事です  作者: maochoko
最終章 変わる季節と歩き出す私たち
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87 急な決着




 誰かと一緒に暮らすことに大きな不安はあったけど、なぜかドキドキワクワクしていた。


 頭の中では順調に計画が進み、各所の計測をして青写真が描かれた。仕切り用の壁の資材や、床用のクッション資材、カーペット、必要となる家具なども選んで、あとはワンクリックで購入するだけ。いよいよ動き出そうとした矢先。



 ――あつし君との同居計画は、いきなり中止となった。



 あまりの急展開に頭がついていかないけど、結果としては良かった……のか?

 まだ、ちょっと納得できない私だけど……。




 ◇




 親との別離、あるいは巣立ちを決心した彼だが、私と母親との話がずいぶん心に引っかかっていたらしい。ほんのちょっと話しただけだったのに。


 決別するにしろ、親離れして自立するにしろ、何も言わずにある日いきなりいなくなるということはしこりを残す……と、最後の対話に踏み切ったらしい。


 理解されなくても、許されなくても関係なく、出て行くことは決定しているけど、最後にもう一度だけ自分の意思をはっきりと伝えようとした。


「父さんが納得しなくても、許さなくても、俺はこの家を出て一人で生きていける。近いうちに出ていきます。今までお世話になりました。いろいろと迷惑かけました。ごめんなさい。ありがとうございました」


 そんな風に強い意思で別れを切り出した

 決意が力となり、怯えることなく、しっかりと伝えられたのだそうだ。


「はあ……」


 大きなため息を一つ吐いた彼の父は、


「そこまで言うなら自分の力でやってみたらいい。何もかも自分でやらなければいけないんだぞ。面倒くさい手続きも、雑事も、生活するならたくさんある。全部自分でやらなくちゃいけない。外にも出れず、人に会うことも嫌がるお前にできるんだな?」


 強めの口調でプレッシャーをかけるように言われ、思わず怯みそうになったけど、負けずにはっきり言い返した。


「はい、やります。自分の力でやってみます」


「………………そうか。もういい、わかった。やってみなさい」


 一瞬の沈黙の後、珍しいことに彼の父がすぐに折れた。それには理由があったんだ。




 実は、彼の父は転勤を命じられたらしい。


 単身赴任も考えたが、妻と息子を二人だけで置いていくには不安があった。二人の関係が決して良くないことは気付いていたから。


「母さんも付いてきてくれると言っている。お前が私たちから距離を置きたいと言うのなら、お前はここに残りなさい。

 他所に部屋を借りるにしても、契約も難しいだろう。定職にも就いていない、保証人もいなくてどうするつもりだ。お前が自力でやると言うなら金銭的援助は無しだ。家賃も光熱費も自分で何とかするんだ。

 食事も自分で用意しなければいけないんだぞ? 買い物とかゴミ捨てとか、いつも母さんにやってもらっていたこと、全てお前が自分でできるなら、この部屋は解約せずにお前に任そう」


 思いもよらない提案だった。

 ここを解約してしまったら、異世界ギルドへの入り口はどうなってしまうんだろう。それで答えに躊躇してしまった。


「自分でやれるだけやってみなさい。でも、メールでもいいから、たまには連絡しなさい。助けが必要な時はちゃんと頼りなさい。一人でやっていくと言うのなら、人に頼ることも覚えなければダメだ。本当にたった一人では人は生きていけない。

 煩くて大嫌いな親かもしれないが……。俺たちは親子なんだ。今まで上手く助けてやれなくて悪かった。こんなダメな父親だが、辛い時には頼って欲しい。……応援するぞ」


 そんな風に言われてしまい、もう言い返せなくなってしまったのだそうだ。


 今さら……とか、だったらあの時……とか。

 口に出せない苛立ちが、心を頭をぐるぐると巡って埋め尽くす。


 でも、口から出た言葉は、


「……頑張るから」


 それしか言えなかったそうだ。




 ◇




 そうして、私たちの計画は頓挫した。


 私としても、「結局、母親は彼から逃げたんじゃないの?」とか不満に思ったけど、彼が決めたことに異論は言えないし、父親の男気のようなものに感じるものが無かった訳でもない。


 身内に応援された彼が少しだけ羨ましくて、素直に喜べなかった部分もあるかもしれない。小さい奴だな、と自分が嫌になったりもする。






 結果、彼の部屋の入り口を手放さずに、親から離れることができたのだから、これで良かったんだと自分に言い聞かせるほか無かった。





お読みいただきありがとうございます。


最初から考えていた結末ですが、書いてみると無理やり感がすごい……。


いよいよ明日、最終話となります。

上手にまとめられない自分がつらい。


最後まで応援よろしくお願いします。



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