84 ムリなものはムリ
本日2話更新します。
まずは1話目どうぞ。
驚き固まったままの彼に私は続ける。
「うちは私とまるだけだから。親から逃げてうちに来ちゃえばいいよ。うちからならギルドにも来れるし。すっごいボロ家だからびっくりするかもしれないけど……。でも、自分ちにいるよりもいいんじゃないかな」
「…………え」
困惑して、しばらく呆然としていたようだけど、少しずつ目に力が戻ってきた。
「で、でも……。そこまでしてもらうのは……。ななさん、まだ俺のこと怖いでしょ? そ、それに、俺も……。俺、どうしたらいいのか、わからない……」
「うん。だから、どうやったら上手く暮らしていけるか考えよう。たぶん今は、あつし君がこれ以上頑張っても、親とは分かり合えないと思う。なら、私と上手く暮らしていくことを頑張った方がいいと思わない? 同じ部屋にいるんじゃなくても、家の中に人がいるのはすごく怖いと思う……。でも、これ以上不毛な戦いするのに比べたら、お互い我慢することがあっても、苦労しても、こっちの方が頑張れる気がしない?
少し考えてみて。必要なことは話し合えばいいし、すぐ決めなくてもいいけど……」
「……ななさん、……大丈夫なんですか?」
ちょう子さんも心配そうに話に入ってきた。
「大丈夫じゃないかもしれない。……たぶん大丈夫じゃないと思う。でも、大丈夫じゃなかったら、また話し合って考えればいいし、他にも何か違う方法もあるかもしれないし。
そういうの考えられる心のゆとりを作るためにも、一回家から離れた方がいいと思うんだ。家を出てもちゃんとやれるって見せ付けてやったら、話を聞いてくれるようになるかもしれないし……。落ち着いて、またお仕事できるようになったら、どーんと仕送りでもしてやったら? 頭の固い親なんか見返してやろうよ。
あつし君は馬鹿にされるような人じゃない。あつし君は頑張ってる。鎖が、障害がなかったら、胸を張って自分で歩けるようになる。ちゃんと仕事だってできるし、みんなに認められてる絵の才能だってある。親がわかってくれなくても、私やちょう子さんはわかってる」
真っ直ぐにあつし君を見つめて、断言してあげる。本当のことだから。自分を認めてあげて欲しいから。
「だからもう、傷つかなくていいよ」
「な、なんで……。俺なんかに、ここまで……」
「俺なんか、じゃないよ。あつし君は大切な友だちだもん。自慢の友だち、一緒に戦っている戦友。だから、一緒に戦おうよ」
「と、友だち……、ハハハ、友だち……かぁ」
ガクンと力が抜けてへたり込んだあつし君は、しばらく何か考えた後、顔を上げて言った。
「ななさんが自慢の友だちって言ってくれるなら……、これからも自慢に思ってもらえるように頑張らないとな。もうこれ以上頑張れないと思ってたけど……、ななさんが一緒に戦ってくれるんだから、もう少しだけ頑張ってみる」
「無理に頑張らなくてもいいんだよ?」
ちょっと心配になって、そんな風に声を掛けた私に、
「うん。今までみたいに無理に頑張るのはやめる。ムリなもんはムリだ。だから、ななさんやちょう子さんに恥じない自分になれるように頑張りたいと思う。すぐにはムリかもしれないけど、今までよりはムリじゃないと思うから。だから……。迷惑かけちゃうけど助けて欲しい」
さっきまでとは違う、気力の戻った瞳でそう言った。
「あ、はは……。でも……なんか、力が抜けちゃって、ガクガクして立てないや……」
弱々しい笑みではあるけど、彼に笑顔が戻った。
「私もちょう子さんもいるから大丈夫だよ。きっと何とかなるよ、ね?」
「ええ、のんきにやりましょう」
ちょう子さんも笑顔だ。
ちょう子さんに肩を貸されて椅子に座り直した彼と、三人でお茶を飲む。
「お茶が美味しいって感じたの、久しぶりな気がする……」
味や香りを感じられないほどの虚労からは、ギリギリのところで抜け出せたようで私もホッとする。
「ムリなものはムリ」と言い切れた彼は、また一歩、のんきに近づけたのかもしれない。
お読みいただきありがとうございます。
ムリな中でも頑張ってくれている。
そんな方々がたくさんいらっしゃいます。
本当にありがとうございます。
そんな方々がもうムリなものはムリ!
となってしまわないように、私たちにできることは感謝して家でじっとしていること。
みんなで協力しましょう。
続きは19時に更新します。
引き続きお楽しみいただけましたら嬉しいです。




