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犬をなでるだけの簡単なお仕事です  作者: maochoko
最終章 変わる季節と歩き出す私たち
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83 私の決意


本日2話目です。





 あつし君が日毎に疲弊していっているのが目に見えてわかる。


 少し前までは、それでも空疎な戦いに立ち向かう気概が見られた。幾度となく挫かれて、ゆっくり力を溜めて、また立ち上がって。自分の道を切り拓こうと一歩を踏み出す。けれど、繰り返し、繰り返し胸を抉られる。理解されない、分かり合えない、話も聞いてもらえない。一番味方になって欲しい相手が、一番の障害となる。


 いつまで経っても報われない努力が、虚しく精神を痛めつけ、気力を干上がらせる。


 もう戦う力など残っていないのだろう。

 最近の彼は弱々しく、全てを諦めようとしているように見えた。


 一歩踏み出すことはもちろん、考えることも、生きることも。




 私には踏み入れられない問題だと思っていたし、できることなんか無いと、具体的に深く関わるのは敢えて避けていた。


 その分ギルドにいる時には、ここでは安心できるように、なんでもない穏やかな時間と空間を作ることに尽力してきた。


 ちょう子さんが私にしてくれたように、気負わず、ただそこにいることを許される場所。口出しやアドバイスなんかいらなくて、傷つけられることも怯えることもない。ゆっくり回復できる、そのための隠れ家。


 そんな風にしか役に立てないと思ったから。


 でも、彼は打ちのめされ過ぎて、逃げるようにここへ来ても、もう何も届かなくなってきている。ここですら、彼を癒やせなくなってきている。


 ここがかけがえのない場所だからこそ、ここを失うかもしれない恐怖が、余計に彼を傷つけるようになってしまっていたんだ。






「もう、捨ててしまっても、いいんじゃないかな……」


 とうとう、見ていられなくなった私は、口に出して言ってしまった。


「そこまで傷つくまで頑張ったんだもん。私たちはあつし君が頑張ったことを知ってるし、もうこれ以上傷つかなくていいんだよ。投げ出してしまってもいいと思う。自分を大切にしていいんだよ」


 どこも見ていないような眼差しで、彼の頭が上がった。


「…………いい、の?」


「あつし君の心よりも大切なものなんてないと思う。もう十分頑張ったと思う」


「もう……、頑張らなくても……いいの?」


「もう、頑張る力ないでしょ? 頑張れないなら、頑張らなくていいよ」


 相変わらず光を失った目のままだったけど、ホッと力が抜けた気がした。


 私だって、これを口に出すのに、無責任に言った訳じゃない。私が無責任に「頑張らなくていい」ことを許してしまったら、彼は「全てを諦める」ことを許されたと思ってしまうかもしれない。


 許された彼は、「生きること」も諦めてしまうかもしれないから。


 だから私は、「彼を許す」ことに責任を持たなくてはいけない。




 たとえ大切な友人だとしても、私がそこまでしてあげなくてはいけないのか。それに何より怖い。たぶん私もつらい思いをするのがわかっているから。


 それが彼にとって最善だったとしても、それで彼が救われるとしても。


 どうしても決断することができなくて、どうしても自分を守ってしまって。


 口に出すことができなかった最後の手段。


 たとえその決断で、自分が後から苦しむことになったとしても、それでも、こんなにも苦しそうな彼を、心を削り続けてギリギリ息をしているだけの彼の姿を、これ以上見ていることができなかった。


 私の中で、それくらい彼は大切な存在だって、後悔することも覚悟の上でそう思えたから。


 私も勇気を出して一歩踏み出した。




 私の決意が彼を救うのか。

 より苦しめることになってしまうのか。


 私が口に出したとしても、彼に届くのかも、彼がどうするのかもわからない。


 それでも、今の彼に私がしてあげれるのは、もうこれしかないと思ったから。




「うちにおいでよ。家から離れた方がいい。うちで一緒に住もう」





お読みいただきありがとうございます。


ななが行動を起こしました。

人を巻き込んで動くのは、怖いし、エネルギーがいります。


皆様の応援をななと作者に、最後までよろしくお願いします。


明日も2話更新します。

まもなくの完結まで、引き続きお楽しみいただけましたら嬉しいです。



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