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犬をなでるだけの簡単なお仕事です  作者: maochoko
最終章 変わる季節と歩き出す私たち
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82 戦いに疲れた戦士


本日2話更新します。

これは1話目です。





 異世界の長い冬も、もうあとひと月もすれば寒さが和らぐという。


 春が来れば依頼も増えてくるのに合わせて、間もなく新しい入り口を増やす魔道具の本格始動が行われるそうだ。


 今、登録者を増やしてもあまり良いお仕事が無いし、どのくらいの人が訪れるのかも予想がつかない。また、あつし君のように訪れてくれてから仕事を受けられるようになるまでに慣らし(リハビリ?)の期間を必要とする人もいるかもしれない。などなど……。


 いろいろと上の方の偉い人と共に考慮して、時期を見ている段階らしい。






 もう少しだけでも猶予の期間を得られたことは幸いだ。というのも、最近のあつし君は元気がない。


 日本は六月も半ばを過ぎて、じめじめした天気が続いている。見上げる空も憂鬱そうだ。

 でも、あつし君が憂鬱なのは天気のせいなんかじゃもちろんない。


 彼は今、現実と戦っている。

 戦いに疲れた戦士なので休息が必要なんだ。


 目標としていたギルド貯金五百G(五十万円)を達成した時、彼は親と戦うことを決意した。

 戦うといっても決別する訳ではなく、少しでも折り合いを付けられたら、という親子の関係としては当然の願いだった。


 私は親に見捨てられたことで、今はまると二人暮らし。その事実は重く私を苦しめて今も傷つけるけど、煩く口出しされたり行動を縛られたりといった不自由はない。

 彼の苦悩を思えば、身軽で良かったと言えなくも無いけど、捨てられて良かったとは思えない。自分の力で生きられるようになった今でも、その鎖は絡まりついて外れない。さっさと忘れてしまえたら、ずっと楽に生きられるのだろうとは思うけど、簡単に決着はつけられないんだ。


 それでも、彼の不自由さは私と比べるべくもない。


 彼の現実世界での日常には、常に纏わり付いてくる呪いのような障害となっている。


 五十万円という現金を稼ぎ出せる力を持ったとしても、自由に羽ばたくことはできずにいる。


 彼のギルドへの入り口は、家族で暮らす家の自分の部屋にあるから。いっそ独り暮らしでもして、少し距離を置くことができたなら、幾分気持ちも楽だったかもしれない。

 けれど、彼が少しずつ前に進めている前提がその部屋にある。だからこそ放棄することも選べず、せめて現実世界でもう少し息をしやすい状況を作るために彼は戦っているんだ。




 ただし、折り合いを付けるための交渉材料があまりにも難しい。


 異世界ギルドに通い、異世界の仕事を受けて、きちんと収入を得ているなんて話は通用する訳がない。


 彼はすでに立派に自分の足で歩き出して仕事もしている。立派には言い過ぎだったとしても、その辺の同年代よりよっぽど稼いでいる。収入面だけなら誰憚ることなく誇れるはずだ。


 税金だって納められるし、家にお金を入れることもできる。入り口の問題さえなければ、家を出て独り立ちもできる。


 でも、その収入の出所を証明することも、上手く説明することも非常に難しい。何しろ、家族から見たら、彼は部屋から一歩も外に出ていないんだから。


 彼の絵が売れたとか、小説が書籍化されたとか理由付けたとしても、そんな不安定な収入は一時的なものだと言って、親なんてものは納得しないらしい。そんなあぶく銭のようなもので一人で歩けるようになったと誇れば、甘えていると一蹴されるらしい。


 何でなんだろう。

 頑張った子供を褒めることを、なぜ厭うんだろう。


 親なんてものは、いてもいなくても、子供を傷つけ足を引っ張るだけの存在なんだろうか。


 頑張っている彼の、以前と変わった姿が、目に入らないのだろうか。


 将来を、この先の人生を心配しているという名目で、自分の中の常識を押し付け、型にはめ、子供の気持ちをねじ伏せる。




 そんな存在と一つ屋根の下、暮らしていかなければならない彼。


 今は戦い疲れて、心の傷を癒している。

 休息の後には、また再び戦わなければいけないから。そのために力を溜めている。




 私に口出しできることではないから、一緒に戦ってはあげられない。だからせめて、彼が安心して休めるように、心は寄り添って癒してあげれる存在でありたい。






お読みいただきありがとうございます。


なかなか一筋縄ではいかない問題です。

外野からは手出ししにくいですよね。


続きは19時に更新します。

引き続きお楽しみいただけましたら嬉しいです。



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