31 ちょう子さんの世界
本日も三話更新します。
1話目です。
ギルド、初心者魔法使い、使役獣……。
どこからツッコんだらいいのか。
やはりツッコんではいけないのか。
ちょう子さんと私はしばしのこと無言で見つめ合った。
…………。
はあ、とひとつため息を漏らすと居住まいを正し、
「ななさんには、もう説明しなきゃいけなかったんです。予定外に早かったですが、今日のお仕事で高評価のポイントも十回貯まりましたしね」
真面目な顔付きでちょう子さんは語り出した。
「急にこんなことを言い出しても理解できないかとは思いますが、ここは、ななさんたちのいる日本と異世界を繋ぐギルドなんです。ななさんにお願いしたお仕事は、私の国『クルール』で請け負った仕事です。ゲートの向こうのエレベーターに似せた物は転移ポイントで、お仕事を受けてくださった方のみ、依頼先へと転移できるように設定されています」
「はあ」
なんと言うか、理解できないと言うよりも、「やっぱりなぁ」という気持ちだった。
そりゃあ、私だって最初の頃はパニクったし、こんなこと現実に起こるはずが無いって考えないようにしてきた。
税金だの社販だのって現実めいた単語が出たこともあって、ここはちゃんとした日本の会社だって思い込もうとしてきた。
でもね。
私だって引きこもり歴は短くない。
最近こそ生活に必死で余裕の無い暮らしに四苦八苦していたけど、中学生(行ってないけどね)の頃は現実逃避のためにラノベの類には大変お世話になったものだ。
そこにきて、ちょう子さんの失言の数々。
地下室から続く世界がどんな世界かなんて、頭に浮かばない訳がない。それでも、まるともう少し頑張って生きていくために、この仕事を続けることを自分で選んだんだもの。
「なんとなくですが、原理もわからないし、あやふやではありましたが、そうなんだろうなとは感じていました」
えっ、とちょう子さんは虚を突かれた顔をした。
「じゃあ、気がついていたんですか? いえ、そうじゃなくて、……異世界を理解してくれるんですか?」
「気がつかないように、考えないようにしていた……、と言った方が正しいかもしれません。いろいろと違和感を感じてはいましたが、ちょう子さんは気づかれたくないんだと思いましたし、私の平穏のためにも考えないようにしていました」
それから私は、日本には異世界を扱った創作物の文化があり、それが現実に起こり得るものでは無いとしても、興味を持っている若者が多いことなどを説明した。
「私にはここが必要でした。ちょう子さんと出会えて助けられました。今、なんとか暮らしていけてるのは、このギルドとちょう子さんのおかげです。でも……、真実を知ってしまった私は、もう、ここへは来れないんでしょうか……?」
ちょう子さんが目をパチクリする。
「い、いえ! 違います! 私の方こそ、知られてしまったら、もう私のことなんて気味悪くて近寄りたくないって思われちゃうと……。拒否されるのが怖くて、なかなか言い出せなかったんです」
それから私たちは、お茶を飲みながらたくさん話をした。
◇
ちょう子さんの世界では、遠い過去に異世界からの異世界人の召喚によって、大いなる危機に立ち向かったり、国を発展させたりした歴史があるらしい。
しかし、異世界から無関係な人間を勝手に呼び寄せるというのは、酷く身勝手で非人道的なことだと、世界的に禁止されて久しい。
異世界人の存在していた時代には平和に成長していたというその世界が、永く異世界からの刺激を受けなくなった今、停滞から衰退へと移り出しているということだ。
「こちらの勝手で呼び寄せて、無関係な方の人生を滅茶苦茶にしてしまう。それがいけないことだと理解しています。それでも現状を打開しようと、少しでも未来を繋ごうと、魔法学者たちが長年の研究の末に編み出したシステムが、この異世界ギルドなんです」
お読みいただきありがとうございます。
なんと! 派遣会社だと思っていたのに異世界ギルドと判明しました。
いやいや、わかりきってたよ。
と共感していただけたら応援よろしくお願いします。
続きは12時に更新します。
引き続きお楽しみ下さい。




