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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第八章 新たなる想い
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『鋼鉄のガトル』

 山を越えたあたりで幌馬車からフィリカが突然声を上げた。

「どうしたの?」

「薬草を見つけたの!!」

 言うや否やぴょんと馬車から飛び降りると小走りで鬱蒼とした森の奥へと進んでいったのでアリシアも慌てて追い掛ける。

「全く世話の焼けるお嬢さん方だ」

 道中、地元の猟師から猛獣が出没すると聞かされたばかりのシオンは前髪をかき上げて二人の後を追った。

 フィリカは、忠告も忘れて薬草摘みに夢中で更に奥へと足を踏み入れようとした時だった。

 メキメキと枝が折れる音と共に、優に二メートルはあろう猛獣が彼女の目の前に突如現れたのだ。

 悲鳴にアリシアとシオンが駆け付けると恐怖で立ちつくすフィリカに牙を剥く。

 剣を抜いたアリシアが彼女を庇うように前に出て、シオンは猛然と猛獣に立ち向かおうとした瞬間、猛獣の背後から人間らしき太い腕が巻きついて動きを止めた。

「おい、今だ!!」

 怒号に反応したシオンが剣を抜き、猛獣の弾力ある胸に力を込めて突き刺した。猛獣は断絶魔の悲鳴を上げてやがて絶命する。

「今日はツいてるな。いい肉が手に入った」

 胸に刺さった剣を抜くシオンの隣に、身長は彼よりやや低いが全身鋼のような筋肉を纏った体格のいい男が笑顔でやってきた。

「しかし、こんな山奥にこんな大勢いるとは」

 身体同様笑う声も大きく、たまらずフィリカは耳を手で塞ぐ。

 男はアリシアを見つけると凝視してまた大声で叫んだ。

「アリシアじゃないか!!」

 名を呼ばれてアリシアはその男の顔を記憶のノートから探し始める。

「覚えていないか? 遠征で第四師団長をやっていたんだが」

 やっと該当する剣士を思い出した。

「……ガトル? 『鋼鉄のガトル』?」

「そうだ。いやあ、懐かしいなあ」

『鋼鉄のガトル』の名はシオンも聞いたことがある。鍛えられた肉体を持ちその筋肉は剣をも通さないという噂だ。

「見ないうちにいい女になったな」

 この台詞にシオンも口を挟まずにはいられない。

「ちょっと待て」

「この優男もお前さんの連れか?」

「ええ。彼はシオン・フォレストよ。『漆黒の剣士』といえば分かるかしら?」

 男はポンと手を叩いた。

「お前さんがあの『漆黒の剣士』か!! なかなかの男と噂されているが俺ほどではないな」

 高笑いするとあまりの大音量にフィリカは顔をしかめる。

「少しは声のボリューム落としなよ」

 苦情を言うが男は視線を落として一瞥しただけで全く受け付けない。

 栗色の短髪に太い眉、大きな口、いかついが笑うと何処か人懐っこさがあるこの男も実は剣士だと言うから驚きだ。

 どちらかというと山男だよ!!

 フィリカは無神経な彼に頬を膨らせた。


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