決着
銅鑼が鳴り響きいよいよ決勝戦が始まった。
互いに間合いを詰めながら初太刀を窺っていたが先に動いたのはセージの方だった。スティールの心臓目掛けて鋭く伸びてくる剣を、アリシアに教わった通りに半身で交わすと利き足を踏み出して相手の喉元に剣を突きたてる。
激しい攻防が繰り広げられる最中にカズラ父子はあの軟弱なスティールの急変に驚きを隠せなかった。
父親の力に頼る剛の剣質ではなく、しなやかな柔のそれは非力な彼に合っている。相手の剣を見切り最小限の動きで受け流す剣術は体力のないスティールにはスタミナも温存できて長期戦に十分耐えうる優れたものだ。
最初こそ否定的だったが、実践してみると女性でありながら数々の修羅場をくぐってきたアリシアの指導は無駄のない見事なものだとスティールは感嘆する。
一方、当ての外れたセージは疲れてきたのか動きが大きく雑になってきつつあった。
-この俺があのスティールに負ける!? そんな馬鹿な!!
その馬鹿な事態が現実になっている状況がセージのプライドを大いに傷つき、追いこまれた彼は卑怯な手段に出る。
「勝つのは俺だ!!」
咄嗟にしゃがんで掴んだ砂をスティールの顔面に投げつけたのだ。
まともに喰らって痛みで目も開けられず必死に砂を取り除こうともがいている彼にセージの渾身の一太刀が振り下ろされる。
場にいた者達がセージの勝利を確信したその時だった。
劈く金属音と共にセージの剣が手元を離れてくるくると宙を舞って後方の地面に突き刺さった。
「視覚に頼らず気配で感じ取るよう教えるとはさすがだな」
想定内だったのか控室で傍観していたシオンに驚きはない。
「これは私ではないわ。ブーゲン殿の教えよ」
「ふうん」
あれだけ剣士に固執する息子を諭していた父親だが剣術の本質を叩きこんでいたとは……と思わず口角が上がる。
「勝負あり!! 勝者スティール・シートモス!!」
審判が高らかにコールすると会場が歓声でびりびりと震えた。
身近に肌で感じ取ったスティールはアリシア等三人の元へ駆け寄った。
「おめでとう」
「有り難うございます」
アリシアの頬笑みにスティールも興奮で上気した顔で応えるとシオンが肩に手を置いた。
「よくやったな」
「これもお二人のお陰です。特にアリシア様、数々の無礼をお許し下さい」
「気にしないで。それよりもお父様に応えてあげて」
見上げたアリシアの視線の先には主賓席にあった。満面な笑みでこちらに拍手している父の姿にスティールの目から熱いものが流れる。
カズラの屈辱に耐え、誰よりも息子を想ってきた父の心情をこの時初めて知ったのだ。




