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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第七章 追憶に生きる剣士
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束の間の団欒

「それにしてもよくやる気になったのね」

「私との一戦でアリシアの凄さを知ったのだろう」

 フィリカの問いにブーゲンが答えた。今までの息子とは違い、瞳に強い光が宿っているのを確認すると安堵した。


 スティールとアリシアはこれまでの遅れを取り戻すべく更に厳しい訓練を強いられたが、スティールは根を上げることもなく歯を食いしばって耐え抜いた。

 アリシアもオマスティアの騎士団長を務めていた頃は若手の剣士の育成に携わっていたので指導も手慣れたものだが、あのブーゲンの息子とあって飲み込みが早く要領も心得ている。


 そして、大会を明日に控えて、ブーゲン父子はアリシア達を自宅に招いた。

 出迎えたのは細身で品のいい中年の女性だった。

「ようこそおいで下さいました。妻のリラです」

 二人並ぶと厳格な彼に温和なリラと実に対照的な夫婦である。

 案内された食卓には所狭しと手料理が置かれており、ここのところ外食続きだった三人にとっては何よりのご馳走となった。

「さあ、どうぞ。お口に合えばいいけど」

 小皿に取り分けながらリラが言うと、料理が得意なフィリカが瞳を輝かせていた。

「とっても美味しいです!! 特に鶏のハーブ焼きは丁度いい塩加減で……」

 味の分析に熱弁を振るうフィリカにアリシアはついていけず同性として少し情けない気がした。

 やっぱり料理は出来ないとまずいかしら……。

 料理をするのは嫌いではないが才能はないと自覚しているのでフィリカの手伝いに留まっている。シオンもそれなりにこなすのでますます立場がない。

 やはり、彼も料理が出来る女性がいいのだろうか……、などと考えていたらシオンと目が合ってしまったので慌てて視線を反らした。

「ちょっと、シオン!! そんなに食べたら皆の分がなくなるじゃない!!」

「心配しなくてもまだあるから」と、頬を膨らませたフィリカをスティールが宥めた。


 賑やかな食事も終わり、男性達は今で酒を飲み、女性たちは後片付けをしている。

「フィリカさんとアリシアさんの親御さんはお元気なの?」

「いえ。母は亡くなりました」

 アリシアが寂しげに微笑むと隣にいたフィリカも目を伏せた。

「辛いこと聞いてごめんなさい」

「大丈夫です。血は繋がっていないけどお姉様もいるし頼れる剣士も一緒だから」

 自分の腕をアリシアのそれに絡ませて明るく笑うと「よかったわ」とリラも笑った。

 

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