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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第七章 追憶に生きる剣士
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新たなる師

 スティールも剣を構えて特訓を開始した。

 さすがにブーゲンの息子だけあって基本は出来ているがシオンの重い剣の攻撃に耐えられず幾度となく得物が手から離れていく。

 それどころか凌げず体勢を大きく崩してしまう有り様にシオンは頭を痛めた。

 シオンの剣質とブーゲンのそれは力に頼る所が大きい。体が細く筋肉の量が少ないスティールにはそれを受け止めるだけの体力はない。だから、自身の剣質を継いではならないと彼の父親は師にならなかったのである。

 進展のないまま三日が過ぎたあたりでシオンは腕を組み唸った。

「このままではさすがにまずいな」

 捗らない特訓にシオンの前髪はかき上げ過ぎて乱れている。

「今日はここまでだ」

 突然の終了に息を切らせてスティールが不安げに尋ねた。

「どうしてですか? まだやれます」

「やり方を変える。十分だけ待ってろ」

 そう言い残して訓練場をさっさと出て行ってしまった。

 一人残されたスティールが汗だくの体を拭いていると、約束の時間きっかりにシオンが現れたが連れがいる。

 この場に相応しない美女の登場に一同は訓練の手を止めて目で追っていた。

「ブーゲン殿もこちらへいらしたら如何ですか」

 いつの間にいたのか呼ばれたブーゲンは体格のいい体でゆっくりとこちらへ向かってくる。

「彼女はアリシア・シャムロック。『美しき死神』といえば分かり易いか? 今からお前さんの師だ」

 シートモス父子其々声を上げた。父は感嘆を、息子は不満だ。

「シオン殿が教えて下さるのではなかったのですか!?」

「事情が変わった。見かけよりは強いぞ」

 俺が力がないから女で丁度いいというのか……!?

 ブランデー色の瞳で自分を見ている女剣士に納得がいかず怒りを露わにして抗議する。

「何故ですか!? 俺が非力だからって女の師をつけるなんて……」

 シオンの鋭い視線に語尾を飲みこんだ。

「アリシアが女だから気に食わないのか」

 黙って俯いている彼に苛立った口調のシオンが続ける。

「言っておくが俺と互角に戦えるのはアリシアだけだ」

 気まずい雰囲気をどうにかしようにもアリシアには状況が解らない。スティールも父親に目で助けを求めたが口を固く結んだままである。

「俺の言う通りにしてもらうと最初に約束したはずだ。嫌なら俺は降りる」

 武道大会で勝つためにはシオンの指導が不可欠だ。スティールは渋々頷くと「後は任せた」とアリシアの肩に手を置くとシオンは訓練場を立ち去った。

 

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