スティールの決意
大会までの二週間をスティールはシオンと過ごすことになった。
宿へ着いた彼はこれまでの経緯を語り始めた。
カズラ公は元々剣士の出身ではないが現在の役職に就く為に賄賂を使いのし上がってきた。
本来なら、人望、実力ともに名高いブーゲンの就任が内定していたがカズラが裏から手を回してその座を奪われた。
ブーゲンがそのことを追及しないのをいいことに、カズラは今回の武道大会に出場する息子の師に彼を指名してきたが二つ返事で拒否される。
そのことを逆恨みした父子は陰湿な態度を取るようになったのだと言う。
「子どもの喧嘩だな」
と、シオンは吐き捨てた。
「何故そこまで大会に拘る? 出場しなくとも剣士には違いないのだろう?」
「父に認めてもらいたいのです」
スティールは視線を落として自分の掌をじっとみつめた。
「私は生まれつき体が弱く父のように強靭な筋肉はありません。そんな私を父は一度も責めたことはないんです。剣だけが生きる道ではない。もっと違う生き方もあると言ってくれます」
「ブーゲン殿らしいな」
「しかし、それでは駄目なんです!! 父のような正統な剣士が、称号を金で買ったあいつ等に侮辱されるなんて黙っていられません!!」
軟弱だと思っていた彼が全身のありったけの力をこめて父の威信を訴える様子にシオンは感銘を受けた。
大会で勝利すると明言したからにはかなり厳しく苦しい試練を覚悟してもらわなければならないのだが、彼の強い気持ちがあれば耐えるに違いない。
「俺が師を引き受けるにあたって一つ条件がある」
「条件……ですか」
「ああ。俺の言う通りにしてもらう」
スティールは生唾を飲んだ。
あの『漆黒の剣士』に剣術を学ぶ期待と不安が入り混じった胸の高鳴りを覚える。
「分かりました」
「よし、契約成立だ」
シオンはスティールの肩を軽く叩いたつもりだったが線の細い彼は大きく前へよろめいた。
特訓は城の近くにある広大な訓練場で行われた。
他の出場者達も勝利へ向かって汗を流している。弟子の勝利は師の力量と相場が決まっているので教える側も必死だ。
カズラ公も金に物を言わせて遠方から名高い剣士を師とて招いていた。
錚々たる顔ぶれの中でもシオンの存在はひと際目立っている。
「一から教えてやりたいが時間がない。体で覚えろ」
気迫十分にシオンが剣を抜くと一同からどよめきが起きた。




