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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第六章 新たな仲間
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かすかな希望

「ここから二十キロ離れた所にブラウニ一家のアジトがあるが、この父子の悪行は目に余る。わし等はそれを暴いて生地にしようと考えていたんだが、数日前に一人の女剣士によって殲滅されたと噂を聞いてそこへ行ってみたんだが」

「女剣士には会えたのか」

「いや、既に旅立った後だった。金で雇われていたとはいえ、屈強な手下達が無残な死体となって転がっていたらしい」

 老人は、歳をとると口が渇くと呟いて茶を一口啜った。

「身元は?」

「村人が言うには一か月前、川で倒れているところを医術師の娘に助けられたそうだ」

 一か月前とは、アリシアが死んだと思われる日とそう違わない。脳裏に最後に見た彼女の微笑みが浮かんでくる。

 老人の話にシオンの胸は熱く高鳴り、逸る気持ちを抑えて次の言葉を待つ。

「白い肌を血で染めて長い髪を靡かせて剣を片手に立っている姿は、まさしく美しい死神を彷彿させた」

 自分でも顔が上気しているのが分かるほど体中の血が騒ぎ出した。

「名前は確か……」

「アリシア!!」

 老人が言うより早くシオンが叫ぶと驚いた表情でこちらを見た。

「あんた、何故その名前を?」

 既に老人の声は彼の耳には届かず喜びと興奮で足が震える。

「アリシアが……生きていた……」

 もう一度、アリシアに逢える。

 シオンの眼に以前の輝きが戻り、顔も精悍さが増してきた。

 老人に礼を言うと馬に跨り白馬を連れてブラウニのアジトを目指した。



 初めて同性と旅をするアリシアだが、感情豊かなフィリカといると心が和んだ。やっと幌馬車での生活も慣れてきて馬の手綱も引けるようになり旅を楽しんでいる。

「お姉様、なんだか雨が降りそう」

 フィリカが薄暗くなってきた空を見上げると案の定ぽつりと水滴が落ちてきたので、アリシアは急いで大きな木の下に場所を移動させた。

 まばらだった雨音が次第に大きくなり枝を大きく揺らしていく。

「当分は動けない……か」

 流れゆく雫を手で掬うとアリシアはシオンを思い出していた。



 あの時も雨だったな……。

 時を同じくして、シオンもまた木陰で雨を凌いでいた。そして、想うことはやはり愛しいアリシアだ。

 恋人だったロザヴィの凶行、自分の為にその身を犠牲にしたアリシア。

 体中の水分を涙に変えて泣き尽くしたシオンは抜け殻と化した。

 命を繋ぐため最低限の食事は摂っていたが酒の量も一気に増えた。それを止める想い人も傍らにいない。

 精悍な顔には無精ひげが目立ち鋭かった漆黒の瞳も曇っている。

 アリシアのいないこの世に生きていく価値はない。一層、後を追って命を絶ち……。

 生と死の境界線を紙一重で彷徨っている状態が続き、アリシアの笑顔で辛うじて前者に留まる日々だった。

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