彼女の面影を……
日も暮れて、ようやくこの町に辿り着いたシオンは馬を預けて酒場にふらりと顔を出した。
既に客入りがよくテーブル席が埋まっていたのでカウンターへ座りブランデーを注文する。マスターが差し出したそれは否が応でもアリシアの髪と瞳を連想させて、苦々しく一気に喉へ流し込んだ。
幾ら飲んでも酔わない自分に嘲笑しつつまたグラスに酒を注いでいると、後ろのテーブル席から客の話し声が耳に入ってきた。
「おい、聞いたか。ブラウニが殺されたってよ」
「ブラウニ? ああ、あの成金野郎か」
何処にでもそんな輩はいるものだとシオンは大して気にも留めない。
「一家惨殺だとよ。恐ろしいな」
「あんな連中殺されて当然さ。やった相手は誰だ?」
「それが剣士らしい。しかもいい女って噂だ」
これまで半開きだったシオンの瞳が大きく見開き勢いよく立ち上がると、男達に向かって歩み寄った。
「今、何て言った!?」
「へっ?」
「女がどうのってしゃべっていただろう!!」
男の胸ぐらを掴んでぐいと自分に引き寄せる。
「お、俺も直接見たわけではなく……、噂しか知らなくて」
しどろもどろで答える男にシオンは更に畳み掛ける。
「どんな女だ!?」
「な、長い髪で……」
「それから!?」
「それしか聞いていない」
「剣士さん、そいつを離して下さいよ。死んじまう」
割腹のいい男が涙声で訴えた。
シオンの手加減しない力で胸ぐらを締め上げられた揚句、二人の身長差で男の足が宙に浮いているため男の顔から血の気が失われつつあった。
「すまない」と、解放してやると男は激しく咳き込んだ。
「詳しいことはこの町の新聞屋が知っていますよ」
十数人を相手できる女剣士と言えば限られてくる。もしかしたら……、と微かな期待と希望で胸が高鳴る。
酒代を払う際にマスターが新聞屋の場所を教えてくれたので早速行ってみた。
新聞屋はまだ灯りが点いていて、シオンが訪ねると、明日の仕込みをしていた従業員が一斉に注目する。
「ブラウニ一家が惨殺された事件を教えてくれないか」
「誰だい、あんた!?」
ベレー帽にそばかす顔の少年が怒鳴ると、店の奥から白髪の小柄で杖をついた老人が現れた。
「どなたか知らんがわし等もこれで飯を食っているんだ。おいそれと情報を教えるわけにはいかんよ」
老人のゆっりした口調にシオンも落ち着きを取り戻す。
「突然の無礼を許してくれ。女剣士のことだけでも教えてほしい」
「女剣士?」
「俺が探している女性かも知れん」
漆黒の瞳に隠された哀しげな光に、職業柄大勢の人間を取材してきた老人は深い事情を感じ取ったのか奥の部屋を案内した。




