ロザヴィの未練
部屋でシオンが剣を磨いているとドアをノックする音がしたので開けると少年が立っていた。
「あの、シオン・フォレストさんはいますか」
「俺だが」
少年は目当ての人物に会えて顔が輝いた。
「これを渡してくれと頼まれました」
シオンは渡された手紙を呼んで険しい表情になる。
見覚えのある右上がりの筆跡。
手紙の差し出し人はロザヴィで、街外れの丘に来いとの内容だった。自身会いたさの未練ある物と無視すれば済むが、数十分前出掛けたアリシアが気にかかる。
剣を取ると足早に宿を出て漆黒の愛馬に跨り駆けて行った。
アリシアが宿へ戻る途中、人通りの少ない道で複数のならず者達が行く手を阻む。
「俺達と一緒に来てもらおうか」
連中を無言で通り過ぎようとしたが腕を掴まれた。
「あの男がどうなってもいいのか?」
「あの男? シオンのこと!?」
一瞬にしてアリシアの顔が強張ると、男達へにやけながら間を詰めていく。
「ロザヴィって人に頼まれたの!?」
返事はなかったが間違いなく彼女の差し金だと確信したアリシアは自ら間合いを詰めていった。襲ってくる者は容赦なく斬れというシオンの言葉を守り手を剣に添える。
シオンは約束通り街外れの丘へやって来た。次第に空が黒い雲で覆われていく。
「まさか、本当に来るとはね」
風で靡く豊かな黒髪を手で押さえてロザヴィが立っていた。
「来いと言ったのはお前だろう」
「そうね。でも、あなたにしては迂闊だたわね。あの女を独りにしていいのかしら」
「どういう意味だ」
「今頃、あいつらの餌食になっているんじゃない?」
妖しく笑う悪女に豹変したロザヴィに、恋人だったシオンさえ背筋が凍りつく。
「あなたは私のものよ」
彼女が一歩また一歩と近付いてきた。
「往生際が悪いな」
シオンの指が剣の柄にかかる。
「私を斬れるの?」
彼の鋭い眼がアリシアに手を出すなと語っている。
「そんなにあの女を愛しているの!?」
忌々しく声を荒げるロザヴィにシオンは穏やかに笑った。
「俺の片想いだよ」
あなたもそんな風に笑えたのね……。
半年間同棲して一度も見せなかった表情にロザヴィは唇を噛んだ。強く噛んで血が滲んだが深紅の口紅と同化してシオンは気付かない。
「仮にも愛し合った仲だ。出来れば斬りたくない」
ぽつりぽつりと顔に水滴が当たり、雨が降って来たのだと感じたが互いに対峙して動かなかった。
「そういう所が好きだったわ、シオン」
「今更だな、ロザヴィ」
もう彼の胸には付き合い始めた頃のときめきは甦ることはない。
自身が愛するのはアリシアただ一人だけだと心に決めているから……。




