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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第五章 幻影
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因縁の二人

 ロザヴィは街外れの小さな酒場にいた。

 シオンの元を離れて貴族の一人息子のマゼンタと駆け落ち同然で国を去ったが、結局は家柄を捨てた彼も価値がなくなると愛想が尽きた。

 彼女はまた彼も捨てた後、女一人流れ着いたのがこの町だった。

 己の妖艶な容姿を武器にしてならず者達を従えて生きてきたが、今朝ロザヴィは我が目を疑う光景に出くわす。

 漆黒の髪と瞳に精悍な顔つき、長身の剣士は間違いなく『漆黒の剣士』シオン・フォレストだ。

 シオンの噂は聞いていたが、五年ぶりに会った彼は精悍さが増してすっかり大人の男になっている姿に胸を焦がす。

 あの時、シオンを選んでいたら……と後悔の念が頭をよぎった。

 口紅と同じ深紅のワインを一気に飲み干すと空になったグラスを壁に叩きつける。

「随分とご機嫌斜めだな」

 四人のならず者がテーブルに集まって来たがその容姿はまともとは言い難い。

「朝市で色男と話し込んでいたな。ありゃ誰だ?」

 酒に酔って半開きになった瞳を男達に向けた。

「……私の昔の男さ」

「へえ、あんたにもそんな可愛い時代があったんだな」

 その台詞が癇に障ったのかロザヴィは手元にあった酒の瓶を男の額目掛けて殴ると顔面が血に染まった。

「口のきき方に気を付けな!!」

 あまりの剣幕に暫く黙っていたが、やがて一人の男が口を開く。

「そ、そういえばもう一人いい女が一緒だったな。見たところ剣士のようだったが」

 ロザヴィの脳裏にシオンが手を引いて去っていくアリシアの姿が浮かぶと嫉妬と憎悪の感情が一気に噴き上がった。

「あの女はあんた達にくれてやるから好きにしな。だけど、シオンには手を出すんじゃないよ」

 店内に響き渡るロザヴィの高笑いにその場にいる者を震撼させた。



 アリシアは窓際に寄りかかって五年前のシオンのことをぼんやりと考えていた。

 彼は二人の愛は終わったと言っていたが、過去に愛は存在していたのは紛れもない事実である。

 そして、自身もクッソと愛を交わしていたのもこれまた事実で、二人の初恋は相手の裏切りという悲惨な結果で終わってしまう。

 私達って似ていたのね……。

 アリシアもクッソとの悲恋が鉛のように重く心にのしかかり素直に愛が選べない。

 シオンの想いはひしひしと感じているが、だからといって彼の愛を受け入れて心の隙間を補おうとするならそれこそ背徳的な行為ではないか。

 だから、私はあなたの想いに応えられない。

 ロザヴィはアリシアの命を狙ってくるとシオンは言う。

 そんなアリシアを守るためかつての恋人をシオンは容赦なく斬るだろう。

 そして、私は……。

 

 負の連鎖が三人に絡みつく。

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