互いを想う心 2
以前、トータムはシオンに何故剣士になったのかと尋ねたことがあった。さぞ大義名分が聞けるかと期待していたが、意外にも彼の口から出たのはたった一言だった。
「愛する者を護りたいから」
戦場において、リンダ父子が作る鎧で何度も命を助けれた。今度は自身が彼女達を護る番である。
こんなことで諦めてたまるか!!
剣を杖にしておもむろに立ち上がったトータムの瞳に光が宿った。
自身に残された力はわずかで、次の一太刀で恐らく勝敗が決まるだろう。
この一撃に賭ける!!
二人が相まみえた瞬間、二人の剣が互いを交差した。
アリシアの剣はトータムの首筋を、トータムの剣はアリシアの心臓の位置で止まっている。
「この勝負、引き分けだな」
シオンが言うと、アリシアは静かに首を横に振った。
「私の負けよ」
荒い息を整えているトータムが怪訝な顔でこちらを見ているので、アリシアは鎧を外して彼に差し出した。
「こ、これは!?」
頑丈に見えていた鎧は損傷が激しく、武具を繋ぎ合わせていた金具はちぎれトータムの打突を受けた箇所はひびが入っていた。彼に余力があったなら間違いなく鎧を突き破り心臓に達していたに違いない。
それに反して、トータムの鎧は傷はあるものの目立った損傷がない状態だ。
この状況に唖然としているベルベットにアリシアは言う。
「これでお分かりでしょう。大量生産された物は安くそして早く手に入れられるけど造りが雑でもろい。その点、リンダ父子が作る鎧は心を込めているので丈夫で強く私達剣士の命を護ってくれるのです」
べルベットは現実を突き付けられて唸った。
「最初に申し上げたように、剣士と武具屋、リンダとトータムは引き離せない関係とは思いませんか?」
アリシアのブランデー色の髪と瞳が陽の光を浴びて金色に染まると、その圧倒的な強さと美しさにその場にいる者達は感銘を受けた。
数日後、リンダから頼んでおいた鎧の修理が終わったとアリシア達の元に連絡がきた。
旅立つ準備をして二人は武具屋へ行ってみると、そこには満面な笑みのトータムとリンダが待っていた。
「お二人には色々とお世話になりました。誠心誠意修理させて頂きました」
「じゃあ、僕のは手を抜いていたのかい?」
「そんなんじゃ……」
トータムの冗談を真に受けたリンダが口を尖らせたので、アリシア達が笑って宥めた。
「あなたはいつでも誰にでも心を込めて接しているわ」
「騎士団の鎧の件もリンダ達の武具屋に統轄することに決まりました」
トータムはシオンを一瞥して何か言いたそうだったがそれを彼は目で制した。
「結婚はいつ?」
「ベルベット様が一人前の腕にならないと困るとおっしゃっているので当分は無理みたいです」
その条件は少し厳しいのでは……とアリシアは気の毒に思ったのをトータムが察したのか補足した。
「アリシアさんがおっしゃった言葉が利いたようです。メイル家を支えられるのはリンダしかいないって父なりの励ましなんです」




