互いを想う心
ようやくベルベットが口を開いた。
「お前は黙っていろ」
「いいえ、黙りません。僕達の為に想ってくれる方々がいるのですから」
「いいか。腕がいいとはいえ所詮武具屋、由緒あるメイル家とは不釣り合いだ」
二人の会話を聞いていたアリシアは提案した。
「なら、こうしましょう。私とトータムが一戦交えて、私が勝ったら二人は別れる。彼が勝ったら二人を認める」
「それでは、あなたがわざと手を抜いて……」
ここまで言うと、シオンの鋭い視線にベルベットは口を噤んだ。
「俺達は剣士だ。見くびらないでほしいな」
いずれにせよ、父親が拒否する雰囲気ではないので渋々承諾した。
私闘にあたりトータムはリンダ父子作の鎧を、アリシアは騎士団に納品された大量生産の鎧を装着した。
「安物でも、アリシアが纏えば華やかになるな」
シオンが呟くとリンダも頷いた。
「でも、アリシアさんならもっといい物を準備出来たのに」
「彼女に考えがあるんだろうよ。俺達はそれを信じるんだ」
準備が整って広場に現れた二人にシオンが前へ進み出て、声高々に宣言する。
「シオン・フォレストの名の元に、これよりトータム・メイルとアリシア・シャムロックの一戦を行う」
シオンの合図で、両者は初太刀を窺っていたが先に動いたのはアリシアだった。
地面を蹴り素早くトータムの懐に入ると同時に胴を狙った横一線の刃を間一髪で彼自身の剣で受け止めた。
強い……。
このたった一撃で、底知れぬ彼女の強さが計れる。
今度はトータムが剣を擦り上げてアリシアの喉元目掛けて突いたが、しなやかに体を反らして外しその反動を活かして彼の足元を狙う。
一瞬の気も抜けないアリシアの猛攻に、やがてトータムは気力体力ともに限界に近付いてきた。
シオンはああ言ったもののアリシアが手加減するのではとベルベットは不安だったが、この戦いを見る限りではその心配はなさそうだ。
鍔迫り合いからアリシアの蹴りでトータムは吹き飛ばされて地面にひれ伏す形となった。
「立ちなさい。リンダを護りたいなら剣を握りなさい」
「もうやめて!!」
勝負にならないのは素人のリンダでも明らかで、傷だらけの彼を見兼ねて傍へ駆け寄る。
「あなたの想いは十分分かったから、だから……」
トータムの虚ろな瞳に大粒の涙を流しているリンダが映った。
若い娘なのに顔は煤と油にまみれ、手は荒れていた。同年代の娘達は着飾り楽しく暮らしているのに、リンダは朝から晩まで父親の厳しい指導の元で鉄を相手に暮らしているがいつも明るい笑顔で仕事をしている。
「私があなたを護ってあげる」
口癖のように言う彼女は心をこめて彼の鎧を作る手伝いをしてきた。それが、リンダのトータムに対する愛の証なのだ。




