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剣と愛の果てに  作者: 芳賀さこ
第三章 アリシア、立つ
34/201

剣士アリシアとして

 手を抜いたら殺られるな。

 隙を見せたら斬られる!

 生きるか死ねかの極限状態の中、互いの思考と剣が交錯する。

 この二人に、クッソの体は小刻みに震えて顔は血の気がなく、独りで立ち上がることも出来ずその場に座り込んだままだった。

 目が合うと微笑み、はにかんでキスをするかつての恋人が、戦国屈指の剣士シオン・フォレストと互角に渡り合っている。

 鋭いブランデー色の瞳と固く結んだ薔薇色の唇はまさしく『美しき死神』の名に相応しく、その姿に圧倒された。

 もし、あの時シナリアではなくアリシアを選んでいたら……とクッソはこの三年間ずっと考えてきた。

 実は、シナリアとクッソの愛は薄れていた。そもそも、憎い姉の恋人ということで近付いただけで彼自身に大した興味がなかったのだ。

 そして、アリシアから恋人を奪いオマスティアを追放すると、クッソに対する愛も急速に冷めていく。優しいと言えば聞こえがいいが、実際は優柔不断で頼りない彼に物足りなさを感じ始めていた。まるで、玩具に飽きた幼子のように。 

 シナリアの名ばかりの婚約者として権威の庇護下にあったクッソの三年間と、名のある剣士や無法者から身一つで己を護ってきたアリシアの三年間との重みの違いにクッソは愕然とする。

 あの光輝く剣は、一体何人の血を吸ってきたのだろうか。


 依然として勝負の均衡は崩れず膠着状態が続く二人の私闘。

「俺が惚れただけあるな」

 軽口を叩きながらもシオンの表情は真剣で額に汗が流れた。アリシアと剣を交える度に底知れぬ強さが伝わってくる。

 剣術だけでない。護身程度と言っていた体術を駆使して、幾度となくシオンをひやりとさせた。あの細い体の何処に腕が痺れるほどの重い剣を受け続ける力が残っているのか。

 フェザーは、長い髪を翻して戦う彼女の姿にイルセを重ねた。

 当時のイルセはとても強気な女性で、ことある度に相手をしてくれと彼にせがんだ。

 確かに騎士団の中で『美しき死神』の相手が務まるのはフェザーただ一人だったので、仕方ないと苦笑しながら二人で飽きもせず剣を交えたものだ。

 母親の勝気な性格はシナリアが継いだと思っていたが、なかなかどうしてアリシアも意外と頑固だ。

 激しく打ち合い、二人が遠くに間合いを取った時だった。

「この勝負、フェザー・タンジェリンが預かった!! 双方とも剣を退け!!」

 フェザーが険しい表情で二人の間に入って叫んだ。

 シオンは大きく息を吐いて剣を鞘に納めると、動けず蹲っているクッソを一瞥して「命拾いしたな」と囁いた。

 フェザーに向き直り、詫びも兼ねて深々と頭を下げて私闘の余韻冷め已まない訓練場を後にした。

 騎士団も其々持ち場に戻っていくと、静かになった訓練場にはアリシアとクッソだけが残された。

 


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