シオンの私闘 3
クッソを庇うアリシアに、ついにシオンがキレる!?
この男よりアリシアが強いだと!? そんな馬鹿な!!
惚れた彼女への贔屓ではなく剣士としてのシオンの率直な意見を、クッソは俄かに信じられなかった。
確かにアリシアは『美しき死神』と呼ばれるほど剣の腕前は素晴らしい。その素質は、母親から確実に受け継いでいるのも認める。しかし、今や名高い剣士の中に名を連ね、しかもかなりの力強さを持つシオンよりも強い筈がないと戦いの最中に否定し続けていた。
そんなクッソの一瞬の隙をついてシオンが大きく剣を薙ぎ払うと、主の手を離れた得物は弧を描いて外壁に突き刺さった。
クッソが丸腰になったこの時点で既に勝負はついているのだが、シオンの脳裏にアリシアの寂しげな微笑みと彼への憎悪がちらつく。
感情に流されるとは俺も甘いな。
「悪く思うなよ!」
シオンの眼光に鋭さが増した。
剣を飛ばされた衝撃で尻もちをついたクッソに、とどめを刺さんばかりに勢いよく彼の速い剣が襲い掛かる。
もはや、誰も止める者はいない。否、止められないのだ。
殺られる!!
誰もがそう覚悟した時だった。
二人の間に一陣の風となって割って入った者がいた。
「アリシア!!」
あの重く速い剣を受け止めたのは、クッソを庇って立ちはだかるアリシアだった。
「俺の剣を止めるとはさすがだな」
嬉しげに言うのとは逆に容赦なく剣を押しやると、アリシアも渾身の力で受けて立つ。
男と女。特にシオンの力と比べると雲泥の差があるのだが、魔術で中和することによって対等に渡り合えるのだ。
「何故、奴を助けた?」
「彼は斬らせない!」
俺ではなく捨てた男を選ぶのか。
裏切ったとはいえ当時は愛し合った二人だ。全く未練がないという答えを期待はしていないが、アリシアの口から聞かされてシオンは憮然とした。
「まあ、いいさ。お前さんとは一戦交えたかったからな」
「私もよ、シオン」
アリシアも、以前湖で見た彼の剣捌きが忘れられず、心の奥でいつかは剣を交えたい願望があったのかも知れない。
親だろうと恋人だろうと自身より強い相手と戦いたいと渇望するのは、剣士の悲しい性というべきか。
力強く大地を蹴った二人の初太刀はほぼ同時だった。
「お、おい。まずいことになったぞ」
「ああ。どう見てもアリシア様が不利だ」
この騒動に、騎士団の剣士達は固唾を飲んで傍観するほかなかった。
「いや、そうとも言い切れんぞ。見てみろ」
その者が言う通り、アリシアは体格差や剣の重みをもろともせずシオンの剣を受け流して反撃の機会を窺っている。
「この勝負、どちらかが死ぬまで続くかも知れんぞ……」
二人の凄まじい気迫と殺気に、一同は金縛りにあったように立ち竦んでいた。




