愛の証 2
小心者のクッソがこの重責に耐えられるのかフェザーは不安だった。だが、強い決意のブランデー色の瞳と純粋でひたむきなクッソへの愛を知るとそれ以上は何も言えなかった。
「承知しました。アリシア様の意のままに」
やっと納得してくれた彼にアリシアの顔が綻む。
「理解してくれて有り難う。遠征まで時間がないわ。準備を急ぎましょう」
アリシア達は剣士達が待つ訓練場へ向かった。
遠征を明日に控えて、アリシアは最終確認のため各所を見回っていると途中クッソに出会った。
「やあ。準備は万全かい?」
「ええ。長期間になるけど、オマスティアを頼んだわ」
「分かった。君も気を付けて」
二人は静かに口づけを交わした。
クッソとは、アリシアが団長に任命された頃に知り合った。互いに剣士同志共感し合えることも多く、距離が近くなるにつれて二人は恋に落ちた。
一国の王女であり上官でもあるアリシアをクッソは一人の女性として接してくれるのが嬉しかった。
いずれは、彼と結婚して騎士団長の座を譲りたいと考えていた。
それだけ、彼女はこの恋に掛けていた。
翌日、アリシア率いる二万五千人の騎士団は遠征へ向かった。
城内は、不気味なほど静かで平和だ。
いつものように剣術の鍛錬を終えたクッソの前にシナリアが現れた。
「随分と静かね」
最初は、姉妹どちらか迷ったがアリシアは遠征に行っているので辛うじて間違えずに済んだ。それだけ二人はよく似ているが、注意深く見ると瞳の色が微妙に違う。
「シナリア様、いらしたのですか」
「お姉様は呼び捨てで、私は『様』なの?」
悪戯っぽく笑うとクッソは赤面した。
「アリシアは恋人なので……」
口ごもる彼にシナリアは体を密着させると、大きく開いた胸元に視界に入り思わずクッソは目を背けた。プロポーションの良さまで姉と同じだ。
「そんなあなたを置いて行くなんてね」
「それぞれの役目を果たすまでです。アリシアは僕を信じて城を任せてくれたんだ」
「本当にそうかしら?」
シナリアの含みのある言葉にクッソは眉をひそめた。
「どういうことです!?」
「私、聞いちゃったのよ。フェザーとお姉様が今回の遠征について話しているのを」
確かに、アリシアはフェザーに頼るところが多く相談相手となっている。娘と父親ほどの歳の差があるせいか、親子のような絆が窺えたのも事実だ。
「クッソ、あなたは足手まといだから遠征に連れて行けないらしいわ」
シナリアの嘘にクッソの心臓が一瞬凍りついた。
「嘘だ!! アリシアがそんなことを言う筈がない!!」
「だったら、副団長のフェザーを残留させてあなたが行けばいいでしょう?」
更に話を畳み掛ける。
「口で愛しているとか言っておいて、結局信頼しているのはフェザーなのよ」
「そんなのでたらめだ!!」
「可哀想なクッソ。信じないのは勝手だけどね」
クッソの顔色がみるみるうちに青ざめていくと、シナリアは心の中でほくそ笑んだ。




