愛の証
三年前、何故アリシアは国を去らなければならなかったのか。フェザーの口から語られるもう一つの真実。
夕方の六時にフェザーと城門の前で落ち合う約束をしたシオンは、ささやかな行事につい心弾んで予定の時刻より早目に着いてしまった。
「待たせて申し訳ない」
定刻通りにやってきたフェザーが頭を下げた。
「いえ、俺が早過ぎました」と、照れ笑いのシオンを早速自宅を案内した。
城から馬に乗って数十分、郊外の一軒家に到着した。フェザーが玄関を開けると、小奇麗に身支度している女性と顔がそっくりな二人の女の子が元気よく出迎えた。
「お父ちゃま、お帰りなさい!!」
「ただ今。さあ、二人ともお客様にご挨拶なさい」
父親に促されて、女の子達は声を揃えてシオンに「こんばんは」と挨拶した。
「妻のローザだ。こちらはシオン殿」
「まあ。ようこそいらっしゃいました。どうぞ、お上がりになって」
シオンが来る途中で買ってきた花束をローザに手渡すと嬉しそうに受け取った。
「娘が幼いから驚いただろう」
通された居間に落ち着くとフェザーが照れくさそうに言った。フェザー夫妻は四十代に対して双子の娘はまだ五歳にも満たない。
「私達夫婦には、長いこと子どもに恵まれなかったが、四年前にようやくこの子達が授かった」
テーブルに酒と料理を並び終えた妻は、父親にじゃれつく二人の娘を奥の部屋へ連れて行った。
「こうして、親子四人平穏に暮らせるのもアリシア様のお陰なのだよ」
酒を勧められたシオンが一口飲むと、フェザーもまたグラスに口を付けた。
「フェザー殿、シナリアは何故アリシアを憎むのでしょうか」
「……アリシア様は四年前まで騎士団長をなさっていた」
フェザーは、グラスの中でゆっくり溶けていく氷に視線を落とすと語り始めた。
国境で絶命したイルセの代わりに、アリシアが騎士団長となり国防を担ってきた。そして、イルセ同様政には一切関わりを持たなかった。団が介入して権力を一括してしまうことを恐れたからだ。
アリシアが二十歳の頃、同盟国の援軍として遠征を余儀なくされた騎士団は三万の兵力の分担についてフェザーとアリシアは話し合っていた。
彼女が二万五千の兵を率いて遠征に向かうところまでは意見が一致したが、本国に残留する指揮官の人選についてフェザーが異議を唱えた。
大半の剣士や兵士がで払うなか、残された者だけでいかに対策を駆使して国を守れるか指揮官の器量によるところが大きいこの大役をアリシアの一存でクッソに任命したのだ。
「団長、指揮官を今一度考え直して頂けませんか」
「フェザー殿の気持ちは分かります。遠征先で私に何かあったら、戦場の指揮をあなたに、国をクッソに託したいのです。公私混同と言われても仕方ありませんが、これが唯一彼に示せる愛の証なんです」
そう言い切る彼女の瞳は強く美しい光を放っていた。




