新たなる旅
気遣うように触れる唇の感触にアリシアは戸惑った。
押しのければシオンはやめるだろうがそうはしない自分を自覚する。
彼の想いは傍にいてひしひしと伝わってきて、クッソとの悲恋で躊躇していた時間を惜しんだ。
あなたはいつも私を護ってくれていたのに……。今なら素直に自分の気持ちを言えるかも知れない。
シオンの体を軽く押すと、唇が離れて二人の視線が交じり合った。
「シオン、いつも傍にいてくれてありがとう」
「ああ」
短く答えたシオンの瞳が次の言葉を促していたので、上気した頬で口を開いた。
「……初恋の相手を忘れてごめんなさい」
「少し傷ついたが許す」
「それから……」
「それから?」
言い掛けては口を噤む。そんな仕草を何度か繰り返すアリシアを待っていると、その言葉は不意にやってきた。
「あなたを愛しているわ」
はにかんで俯いているアリシアの顔は見た目にも真っ赤になっている。ずっと聞きたかった台詞にシオンの胸が熱くなった。
「出逢って間もないけど、あなたをもっと知りたい」
彼女の頬を大きな手で包み込んで自分の方を向かせると、ブランデー色の瞳は熱を帯びて潤んでいる。
「アリシア、愛は時間じゃなくて深さなんだよ」
「深さ?」
頷くとアリシアも納得したのか微笑んだ。その愛しさにまた唇を重ねて、その激しさにアリシアも応えてくれた。
やっと通じ合えた二人を祝福するかのように風が草原を吹き抜ける。
次の日は朝から厚い雲に覆われてすっきりしない天候だった。
「昨夜はぐっすり寝たなあ」
大きな欠伸を連発しながらガトルとシオンは食堂へ移動した。そこにはアリシア達が先に来ていて既にテーブルには彼等の朝食も準備されている。
「おはよう」
と、四人は挨拶を交わしたがアリシアは伏せ目がちだ。
ガトルとフィリカの口論が絶えない賑やかな食事となったが、シオンとアリシアを取り巻く空気はいつもと違って大人しい。
理由を探ろうとフィリカが口を開くと同時にガトルの声と重なる。
「よし、俺も一緒に行くぞ」
「ええっ!!」
一番驚いたのはフィリカだった。
「なんで、あんたが?」
「シオンの言いなりになると約束しただろう?」
「もっと違う方法があるじゃない」
「旅しながら考えればいい」
単純明快な答えに意外にもシオンが同意する。
「俺は賛成だ。ガトルがいれば何かと心強い」
最後の砦とばかりにアリシアを見やったが、頷く彼女にフィリカは大きく溜息をついた。
筋肉に覆われたいかつい身体、日に焼けたほりが深い顔、大きな声、性格は良く言えば豪快、悪く言えばがさつな剣士が加わった旅はまだまだ続く。




